第38話 見捨てないで
昼間に村長さんから聞いたことをまとめ、対策を考えた。
「柵は至る所が壊れていて、入口も1つじゃないのよねぇ」
しかも、ゾンビはバラバラに来るらしく、村の外で叩くより、広場で迎え撃つことにした。
たった4体とはいえ何かあっては大変だし、広場を目指している話が本当か、確かめたいという思いもあったんだ。
ただ、審査官の指示で、見届け役を村人から数人揃えてもらう事になった。
怖い思いをさせてしまうのは、少し申し訳ないな。
徐々に陽が落ちてきてもうすぐだ。
村人たちは思ったより大丈夫そうで、オロオロしているの村長だけだ。
辺りはすっかり暗くなり、闇の中からゾンビが1体また1体と姿を現した。
また1体……ん、その後にも数体のゾンビが続いているよな。
「エイダン、ちょっと多くない?」
気のせいじゃなく、既に13体ものゾンビの群れになっている。
「村長さん、これは数が。何か心当たりはありませんか?」
「し、知らん。ヤツラ倒しても、倒しても増えるんだ。それを調べるのが、お前らの仕事だろ」
倒した? 戦闘スキルも持たない人達が?
「あ、え、そう。たまたまアイテムがあって、その時はなんとか、うん」
何かこの土地に来てから、違和感が続いているんだよなぁ。
今もそう、言葉の内容じゃなく、この人の仕草に納得がいかない。
「皆さん、いったん退がってください。少しゾンビの様子をみます」
「なっ、は、早く倒せ!」
やはりというか村長が食い下がってきた。
「いいえ、見極めが大事です。戦いに関して、素人が口を出さないでください」
よし、少し強めの口調に村長も黙った。
ゾンビたちを少し放っておくと、広場の杭に群がりモゾモゾしだした。
不器用なゾンビは何かをしたいようだが、うまく体が動いていない。
今では20体以上集まってきている。
「確かに人間には見向きもしないのね。まるで光に集まる虫みたい」
強烈な何かに引き寄せられ、集まってきているゾンビ。
その光となる何かが分からないだよな。このモヤモヤ引っかかるモノがそれかもしれない。
「あ~あ~、抜きそうじゃないか。頼む、早く倒してくれ」
村長さんの言うように、杭を抜こうとしているのかも。
「これ以上は止めておくか。リディ、ステージを頼む」
「任せて。一発目だし、気合入れていくわ。《ホーリーサークル》」
温かく優しい光が広がり、聖なる領域を構築する。その光はゾンビたちを絡め取り、弱体化させていく。
これだけでも十分倒せてしまうが、俺も自分の力を知りたいし、ちょっと試し撃ち。
「手加減なしだ《エクソシズム》」
聖なる波動がゾンビの胸を貫き、光の渦に巻き込まれ天へと霧散した。
「私もがんばるね《エクソシズム》」
不死者や不浄なる者を浄化する魔法、エクソシズム。
集まっていたので、1度で全てを倒すことができた。
その後だいぶ時間をおいたが、これ以上の襲来はなさそうだ。
「ま、間に合ったか。はぁ~、良かった~」
本当にほっとした顔で安心をしている村長。
でも、それを許さない者がいる。それは審査官だ。
「村長、討伐依頼の数が誤差の範囲を超えています。速やかにこの理由を教えてください」
「い、言った。多少増えるかもと伝えてある。
……それにこんな増えるなんて、私に分かるはずないだろ」
審査官の眼光にたじろくのは分かるわー。目つき悪いもんな。
だけど、あの焦り方はな~んかシックリとこない。
それに比べて、立会いに参加してくれた他の村人は、冷めた目でことの成り行きを見守っている。
「仕方ありませんね。まだゾンビの発生はしそうですが、契約違反ということで、私たちは撤退します」
ちょっと極端な判断じゃないか? いきなりだと村人も困るだろ。
「それにこの件は副ギルド長からの提案で、是非あなたに受けてもらいたいと勧められました。
村長と合わせて正確さに欠けて、どうもキナ臭いですね」
審査官の言葉に俺も驚いたけど、それ以上に反応したのは村人たちだった。
「嘘でしょ? み、見捨てないでくださいよ」
「お願いします、お願いします」
「頼る人がいないんです、どうか」
「子供たちだけでも連れて行ってください」
「私たちはどうなってもいいですから」
ゾンビごときでそんな大げさなと思ったが、どうもおかしい。
村人は何か違う別のモノに怯えている感じだ。
「いいえ、そちらの都合があるようでしたら、正式な手続きを踏んでください。その時、改めて参ります」
「そ、そんな、見捨てないでください」
「お前ら黙らんかー! 勝手な事を許さんぞ」
すがる村人にそれを押さえ込む村長。そしてそれを気にもとめず話を進める審査官。カオスだ。
「さぁ、2人とも行きましょう」
俺たちや村人の意見が無視された所で、話が進んでいる。
なぁ、リディ。これは正しいのか?
「うーん、何が正しいのは分からないけど、あなたが何をしたいかは知ってるわ」
だよな、そうなるよな。ありがとうリディ。
「審査官さん、俺たちは残る。アンタ1人で行ってくれ」
はぁ? と、審査官はメッチャ怒って抗議してくる。
いやさ、逆にこの人たちを見捨てれる、その信念がすごいと思うよ。
俺にはできないし、人に喜んでもらう楽な方を選ぶよ。
それにゾンビたちがなぜ集まるのか。その謎がまだ解明できていない。
その原因を見つけることが、村を救うことにも繋がるはずさ。
「本部からの昇格試験も放棄することになりますよ。
本当にそれで良いのですか?」
ランクだけでこの人達は救えないさ。
「お人好しですね。仕方ありません、私は規定に従い一足先に帰ります」
審査官さんは、そのまま荷物をまとめて村を出て行った。
この事は残念だけど、この村を救うことに専念するぜ。
「まてマテ待てー、勝手に話を進めるな。
そんな調査は必要ない。もしするというなら、クエストを破棄する。なんて言ったって、依頼者は私なのだ」
え、まさかの村長が拒否かよ。信じられねぇ!
他の村人も納得していないし、人の善意を踏みにじりまくりじゃん。
「エイダン、今回のクエスト破棄らしいわ。仕方ないわね」
「ああ、充分理解出来たよ。つまり、アレだろ?」
「ええ、そういう事になるわ」
「そうだ、薄汚い冒険者め、さっさと失せろ」
う~わ、薄汚いってヒドッ、村長さんキレて地が出ているな。
だったら、気がね無く他の契約を結ばせてもらうぜ。
「なんだそれは、どういう意味だ?」
単純のことさ、もうあんたの契約には縛られない。
だから今ここにいる村人たちと、新しく契約を結ばせてもらうぜ。
「ほ、本当ですか。あ、ありがとうございますー」
もうこうなったら、村長なんて関係ない。そのかわり村人にはシッカリと協力はしてもらうからな。




