第37話 開拓村からの依頼
今回の昇格クエストの目的地は、お隣のドルーガ帝国にある名前もない開拓村だ。
人口約200人、耕地面積も充実し軌道に乗りかけた村だそうだ。
そこへ今回の審査官と一緒に訪ねた。
「おっ、村が見えてきたぞ、あと少しだな」
遠目では木の柵が設けられ、しっかりとした構えの村だ。
しかし近づくにつれ、平和とは程遠い気配を感じた。
「なんだか、焦げ臭いわ。何かあったのかしら」
食事の用意とも違う焼けた匂いが、漂ってきた。
そしてその原因は、村に近づくとすぐに理解できた。
「なんてこった」
正面の大門は壊されていて、人もまばらで村にあるいくつもの家が焼け落ちていた。
いたる所で惨劇の爪あとが見て取れる。
しかし煙が上がっていないこの状況は、昨日今日起こったというものでは無さそうだ。
この悲惨な状況に俺とリディは驚いていたが、審査官を平然としているので、知っていたようだな。
クエスト内容は、村にやってくるゾンビの討伐。
危険度Eランクのモンスター討伐が、ギルドランク昇格試験の対象とは、おかしいと思ったんだ。
こういったことを事前に調べるのも、試験の対象なのかもしれないな。
それはさておき依頼者に会い、クエスト内容とこの状況の確認をすることにした。
依頼人は学者風の男で、この村の代表だと名乗ったので、村長さんになるようだ。
「この村の惨状に、ビックリされたようですね」
実は先の戦争でこの村も巻き込まれ、住人のほとんどが殺されたそうだ。
生き残ったのは大人11人と子供が30人。
「でも、おかしいわね。戦争があったのは、もっと北のほうだったはずよ」
「ええ、私たちも関係ないと油断をしていました」
その日も村人たちはゆったりとした時間の中、いつものように畑仕事をしていた。
すると突然、見たこともない〝双頭の蛇〞の紋章を掲げた兵士が襲ってきたそうだ。
大門をいとも簡単に突破し、逃げ惑う人達を笑い声を上げながら、次々と殺していったのだ。
「〝双頭の蛇〞と言えば、ブレッド·ゴールドマン」
「ヒドイ、なんで誰かれ構わず不幸にするのよ」
詳しく聞けば、カリプス王国とドルーガ帝国の戦いが、終結したあとの出来事みたいだ。
それは重大な協定違反になる。戦争とはいえ、なんでも有りじゃない。
戦いのさなか、農村が襲われることは珍しくない。
しかし、一旦ことが終わり、和平協定を結ぶ最中の暴力行為は絶対にできない。
それこそ全てが白紙に戻ってしまうからだ。
ブレッドは、そんな戦場での作法すらも守れないのか?
周りも止めないといけないのに、何やっているんだ。
「未だに心の傷も癒えず、苦しむものばかりです。
できれば村人には、関わらないで欲しいのです」
ギルドから来たとはいえ、見知らぬ者に怯えてか、遠巻きでしか見てこない。
「分かりました。それでは村長さん、詳しいことをお願いします」
歯切れが悪いながらも、村長はぽつりぽつりと話し始めた。
村が襲われてすぐに、どこからとなくゾンビが現れた。
日が落ちると、村の外からやってきて、朝が来るとまた外へと帰っていくらしい。
そして、不思議とゾンビが人を襲うこともなく、村の中心にある、聖なる場所へと向かっていくそうだ。
「そこには何があるのですか?」
「見てもらえばわかりますが、特に変わったものなどないのですよ」
案内された広場には無数の杭が立っており、聖なる魔素を漂わせていた。
秩序をもって並べられたその光景は、実に神秘的だった。
「この場所は大事なところで、荒らされると困るので退治してほしいんですよ」
魔素の乱れが激しいけど、ゾンビを呼び寄せるものなど無さそうだ。
「不思議だわ。聖なる場所なら、本来ゾンビが踏み入れないのにナゼ平気なのかしら」
それほど聖なる力が弱まっている、という事かもしれない。
ゾンビの数も4体ほどで、大したことはない。でも一般人からすれば、十分に脅威な存在だ。
それに襲ってこないと言っても、その見た目からも安心して過ごすことができない。
「ちなみに、そのゾンビたちは元々村の人ではありませんか?」
「えっと、いえ、見覚えのない者ばかりです」
益々もって、この村に執着する意味がわからない。とは言っても、もうすぐ日暮れだ。
その時これまで口を閉ざしていた審査官が、質問をしてきた。
「それでどうするのですか?」
勿論迎え撃つので、そろそろ準備をしなけりゃいけないかな。
「やっとですか、まぁいいでしょう」
ありゃ、もっと詳しく聞けと、注意されるかと思ったが変な反応。
逆に聞き込みをしている事に、イライラしていたようだ。
「あの審査官さんは、余分な行動するのが嫌いみたいね」
依頼主の中には依頼内容を軽く見積り、安く済まそうとする人もいるらしい。
そういう時、冒険者の反応は2つに分かれる。
1つは報酬以上のことは一切しない。もう1つは嘘と知りつつも、つい手を出してしまう人。
俺自身も報酬以上の働きをするつもりはない。
しかし、疑問に思うことをそのままにして、後悔するのも嫌だ。
だから結果的に、依頼以上の事をしてしまうこともある。
多分この審査官の人もそういった事で、嫌な思いをしてきたクチかもしれないな。
どちらが正しいとは言い切れない。人それぞれにやり方があるからなぁ。
それを踏まえて審査する審査官という立場が、大変だということも感じたよ。
「村長さん、安心してください。今夜ちゃんと退治しますね」
「おおー、有り難うございます」
今回に合わせたジョブは送魂師。迷える魂を持ったゾンビには、ピッタリだと思う。
そしてセカンドジョブとして、賢者を選んだ。
エイダン·イーグル
Lv :28
ジョブ:送魂師+賢者
HP :90+70
MP :110+250
力 :55+40
体力:65+60
魔力:120+300
早さ:50+80
器用:50+65
運 :5+5
スキル:聖魔法 慈しみ 鎮魂歌 全属性魔法 多重操作 恐怖支配 寛容な心 .
これなら完璧でしょ! まだ夜までには時間があるし、少し腹ごしらえをして準備をしようか。
「今更だけど、わたし暗闇のゾンビってあまり好きじゃないのよね」
うん、分かる。あの顔がイキナリ出てくると、心臓にわるいよな。
あと、家に入ろうとドアを、ガリガリーって引っ掻く音も薄気味わるいからな。
「もうやめてよ。そんなこと言ったら、本当に聞こえてきそうよ」
ははは、ゴメン、ごめん。…………ん、あれ、何か音しない?
「本当ね。あれ、もう聞こえないわ」
うーん、確かに近くから聞こえたんだけどなぁ。
まだ昼間だからゾンビじゃないとおもうけど、用心するに越したことないな。




