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第31話 ジュエル茸

 俺たちに地図を見て、距離が遠いとか、危険度の高いエリアとか、人が来そうにないのところを選んだのだけど。


「ま、またか」


「どこ行ってもイッパイじゃない。うっ、私の宝石がー、わーん」


 リディがとうとう泣き出した。


「だ、大丈夫だよ。まだ行ってない所もあるしさ、ほら、ここなんか良さそうだぞ」


 格好良くキメたのに全然見つからず、俺も焦ってきた。

 次こそはと向かっていたポイントも、遠目でもハッキリと人だかりを確認できる。


「一つだけでも欲しいのにー、え~ん」


 せっかくステータスの運を盛り盛りにしたのに、全然効果ないぞ。もしかして、運は関係ない?


「もうすぐ日の出よ~、まにあわないわ~」


 こうなったら、運もデーターも全て捨てちまおう。次に目指すのはここだ。


「え、ここは危険度Aランクのモンスターが出る場所よ」


 もちろん、剣王に変えてあるから心配はないぜ。

 そんな危機のところ誰も行かないだろうから、競争相手もいないはず。


 時間もないし、森を突き抜け次の場所を目指すことにした。

 少し無口になりながら進んでいく。やはりこれでダメだったら、さらに厳しくなるぞ。


 半分諦めの心が出てきて、ジュエル茸じゃなくてもこの際いいかもって思い始めてきた。

 雰囲気を味わうだけなら、見渡すだけでもキノコもいっぱいで採り放題だぞ。


 おっ、1つニョキニョキと生えてきた。かわいい形でリディも喜ぶかも。

 リディに見てごらんと、傘が開きかけたのを指差すと、リディは鼓膜が破れるほどの悲鳴を上げた。


「あーーーわーーーきゃーーーー、これよーー!」


 え、え、え、マジ? ダイヤモンドのジュエル茸だって?


 冷えた空気の中、日差しに照らされ神々しく光っている。しかも、思ったより傘の部分が大きい。


「エ、エイダン。これ、そのう~」


「うん、いいよ。リディが採りな」


 見つけたのは俺だから、遠慮をしているみたいだ。

 それをリディに譲ったものだから、喜びはハンパない。窒息しそうな位に、ムギュっと抱き締められた。


「は、早くしないとダメなんだろ?」


 リディは慌てて礼を言い、しゃがみ込むと、愛おしそうにキノコを見つめた。


「はぁ~、これがジュエル茸なのね」


 そっと手を添え、一瞬ためらったが優しく掴んで持ち上げた。

 リディの笑顔が見れて本当に良かったよ。


 それにここは地図にも載っていないポイントだし、大発見だぜ。


「リディ、それは君にあげるよ。決めていたんだ、最初に見つけたのは君にあげるって」


「大好きーー!」


 またまた強くハグをされて、ドキドキするよ。もしかしたら、俺の顔に〝恥ずかしい〞っていう文字が出ているかもな。


「大収穫の良い1日になったな」


「エイダンのおかげよ、ありがとう」


 ――ニョキニョキ、ポン――


 え? え? ま、まさか2本目かよ!


「す、す、凄いわ。ステータス向上が効いているのよ。あなたの力よ、さぁ今度はエイダンが採って」


 今度はルビーの傘だ。軸の部分は柔らかいけど、ずしりとくる重さ。

 ジュエル茸の相場は種類によって異なるが、金貨120枚から350枚らしい。


 売ってもいいけど、リディにペンダントでも作ってやるか。


「エイダン、そっちもいいなぁ~」


「ダメ~、これは俺のモノ」


 これはサプライズプレゼントで決まりかな。


「もう、女の子がつけるから映えるのよ」


 ――ニョキニョキ、ポン――


 さ、さ、さ、さ、3本目!!!


 こんな幸運あるかよ、連続3回ってありえないだろ。

 幸運にマジ感謝しかないよ。いや、逆にこのあとの反動が怖くなってきたぜ。


 しかし、それどころか4本目5本目と続けて生えてきたんだ。そして。


「や、ヤバいよな。12本だなんて、言い訳思いつかないぞ」


 運500オーバーは伊達じゃなかった。2人合わせると1000超えちゃうもんな。


 高ステータスの有効性は証明はされたけど、初めからの12連続というのは、異常過ぎるよ。


「なぁ、これ以上の独り占めは良くないと思うんだ。これで終わりにしないか?」


「よかったー、私も同じことを考えていたの」


 よし、文字を消そう。チャンスは全員に与えられるものだ。

 これは1つのお祭りだし、みんなが楽しむべきだ。


 魔力を含ませたハンカチで、2人の顔を拭った。

 みんなが笑顔になることが、1番大切なんだ。


 ――ニョキニョキ、ポン――


 う、そ、だ。消すタイミングが遅かった? で、でも、次からは大丈夫だろう。


 ――ニョキニョキ、ポン――


「…………どうするのよ、エイダン?」


 分かんね~~~~~! 見つからないのも悲しいが、見つかりすぎるのも困ったもんだぜ。


 ――ニョキニョキ、ポン――


「このまま放っておく? 最後は土に還るものだし」


 それだと俺たちが採った分だけになるし、すごく不自然になるよ。


 ――ニョキニョキ、ポン――


「そうね、欲しがっている人もいるから、それは残酷のことにもなるもんね」


 ――ニョキニョキ、ポン――


 この大量のキノコをどうするのかじゃなくて、俺たちがどういう態度で受け入れるかと思うんだ。


 ――ニョキニョキ、ポン――


 こうなったら腹をくくるしかないよ。真実を話すんだ。

 但しいつものように、スキルのことは隠してだよ。


「うん、分かったわ。堂々とね」




 〈ギルドカウンターと併設の酒場にて〉


 夕方戻ってみると、そこはまるでお通夜のような雰囲気だった。

 すでに酔っ払っている者や、放心状態の冒険者でいっぱいだ。


「ありえないだろ、収穫ゼロって、ありえないだろ」


「これでプロポーズするつもりだったのに」


「ダァ~、あぅー、ビャ~……」


 無気力の屍の山だ。ここで取り出すのは勇気がいる。

 襲われるならまだいいけど、これ以上彼らを奈落に落とすかもしれないってのが、一番怖いな。


 いつまでもこのままじゃいられないと、意を決してカウンターに向かった。


「お帰りなさい。その顔はエイダンさんもダメだったんですね。

 今回の不作はなんだったんでしょう。発生自体がガセネタだっていう噂もありますよ」


 やはり、他の人は誰も収穫できなかったらしい。


「いや、反対だ。確認を頼む」


 俺はおもむろに、ジュエル茸を袋から取り出し、カウンターに並べた。


「な、何ですか、この大量のジュエル茸は!」


 この子の大声も役に立つもんだな。これで全員に知れ渡ったな。


「ひゃ、120個って、フルコンプリートじゃないですか!

 常識外れもいい加減にしてください」


 案の定、他の人達は桁外れの結果に、まったく動けないでいる。


 静まり返る室内、ちょっとまずいかな。

 近くの男が体勢を崩したので支えてやった。そこまでショックなんだな。


「エ、エイダン、お、おご、お、お、お~~」


「ああ、独り占めも悪いからな。全員の分を奢るぜ」


 鼓膜が破れるぐらいの歓声が上がる。

 歓喜というよりは、怒気に近い気がするけど気にしないでおこう。


「当たり前だー、勘定を覚悟しやがれ」


「朝まで飲んでやるぜ、ジェントルヒーローマン」


 気が済むまで飲んでくれ。俺もコップを取ろうとしたら、メグミンが忠告してきた。


「いいんですか、今日1日の売り上げだなんて、かなりの額きますよ」


 それはダメだ。


「へ? そ、そうですよね。個人で払う金額じゃないですもんね」


 違う、違う。たった1日なんて寂しいだろ。今日から5日間、みんなに楽しんでもらうぜ。

 その言葉に、今度こそ本当の歓声にかわってくれた。


「うひょー、カッコいい。漢だなエイダン」


「よく言った。さすがはアニキーズの一員だ」


 そのまま俺達2人は、宴会の中心に巻き込まれた。

 何度も抜け出そうとしたけど、なかなか帰してもらえずに、朝まで飲み続けることになった。


 ほとんど人が酔いつぶれ、今喋っているのは俺とギルド長の2人だけだった。


「余分な金を使わせてしまったな」


 気にするな、祭りは楽しむに限るさ。


「すまんな、ただこのバカ騒ぎも当分は出来ないからな。みんなにもいい骨休めになるよ」


 いつになく真剣な面持ちのギルド長だな。


「極秘だが、実は東の国との戦争が決まったよ。なんで人間同士でやるのかねぇ」


 国は間違った方向に、舵を取ろうとしてるんじゃないだろうか。


「お前たちは間違っても、戦になんか出るんじゃねえぞ」


 ギルド長の優しい一言は俺だけにじゃなく、ギルドメンバー全員に向けられたものだった。

次回はブレッド側です。



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