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第30話 キノコは乙女をトリコにする

 数年に1度大量発生するジュエル茸。まず前兆として人知れず、1本だけ生えてくる。


 何処に生えるかは分からないが、運良く見つけその1本を抜く事で、地面に隠れている他の茸が触発されて顔をだすんだ。


 つまり最初の1本が大事で、それを見つけギルドに報告した者は恩賞として、売り上げの10%がもらえる。


 この時期になると、みんな一攫千金を夢みて森をうろつくそうだ。


 その特徴は独特で、キノコの傘の部分が本物の宝石で生えてくる。

 種類は多く、ダイヤ、サファイア、アメジスト、翡翠と様々で、その大きさゆえに、大変な高値で取引されるんだ。


「キャー、わたし本物のジュエル茸って初めて。自分だけのものだなんて、いいな~」


 リディも女の子だな。価格より美しさに惹かれている。

 普段大人しいリディからは、想像が出来ないほどのはしゃぎっぷりだよ。


 ジュエル茸はその他にも、かなり変わっている。


 まず5分ごとに次々と生えてきて、採取すると経験値ももらえる。

 これだけ聞くと富と力をイッキにゲットじゃんって、スゲー夢を妄想するんだよな。


 でも、そんなに甘くない。その5分ごとには全エリアで、たった1本しか生えてこないんだ。

 超レアって事だけど、よく調べたなぁと感心するよ。


 それに、そのまま放っておくと1日で枯れてしまい、宝石も一緒に土へと還る。


『ジュエル茸の地図ありますよー。銀貨たったの1枚でーす』


 攻略法かぁ。こんなアイテムがあるなら楽勝かも。そう思って見た地図は、なかなかの曲者だった。


「リディ、出現ポイントが多すぎないか?」


 地図にはこの付近だけでも、何百ヶ所と書いてあるんだ。


「だから、誰でも参加できるのよ」


 ははは、甘く見すぎたよ。まぁ倍率が高いし、気軽な気持ちでの宝探しだな。


「ちょっと、エイダン3等兵。そこに直りなさい」


 いつもの変なノリが始まったよ。軍隊バージョンかぁ厳しそ~。


 青筋を立てているし、いつもの笑顔は? うお、机をたたき立ち上がったよ。


「甘っちょろいこと言わないで、これは戦争なのよ!」


「は、はいー!」


 すげー迫力だけど、叩いた手は痛いみたいだな。


「【ヒール】私はこの日のために、どれだけ下調べをしてきたと思っているの。

 今回は私の指示に従ってもらいますからね」


 そんなリーダーから、更に詳しいレクチャーを受けるとこになった。


 出現ポップする時間帯は、日の出の5時から昼過ぎの3時まで。5分間隔で場所はランダムで生えてくる。


 でも比較的に、ポップしやすいポイントがあるらしい。


「フフフッ、様々な統計で最適なポイント割り出したのよ。

 現代科学にかかれば、攻略はたやすいわ」


 好きなことに向ける情熱はすごいもんだな。

 いつもだったら『計算は苦手よ、グスン』と投げ出す癖に。いつの間にそんなことを調べたの?


「私を甘く見ないで、どんな情報も見逃さないわ」


 そう言って、地図の裏に書かれているモノを見せてきた。


 《これぞバッチリ攻略法! 君も私もジュエルマスターだ》


 大きく書かれた見出しの下に、様々な情報が書いてあった。

 出現ポイント、予想時刻、出現実績ランキング、それに過去の採取者へのインタビューまでも載っていた。


「……こ、これ?」


「凄いでしょ! このデータさえあれば無敵よ。もしかしたら、根こそぎ全部取っちゃうかもね」


 騙されている。でも、高笑いしているリディは真剣そのものだよな。


「さぁ、今夜のうちに最有力ポイントに出発よ」


 こうなったら、俺の力でサポートするしかないか。


「う~ん、データがあるからなぁ、出番ないかもよ?」


 自信満々だな、取り敢えず強運になれる何かを書いてみるよ。


 文字を書き込むにしても、なんて書いていいのかわからない。

 運が極端に高いジョブって、聞いたことないんだよなぁ。


 考え抜いた末に書いたのは、【ヱビス金運ラッキーマン】と探索のためのレンジャーだ。

 適当で無茶苦茶なごちゃ混ぜたけど、効果はかなり高いみたいだ。


 エイダン·イーグル

 Lv :19

 ジョブ:レンジャー

 HP :77

 MP :31

 力 :54

 体力:62

 魔力:54

 早さ:47

 器用:50

 運 :5+500

 スキル:あげくり爆運 サバイバル術 気配察知 短弓術 .


 勝手に作った言葉の、ヱビス金運ラッキーマンはスキル扱いか。〝運〞のステータスだけが上がっている。そのおかげでまさかの500オーバーだぜ!


「ちょっとー、3等兵。自分だけずるいでしょ」


 リディにも書いてあげると、ニヤニヤしている。多分取った後のことを考えてるんだろうな。

 そうして、しばらく進むと目的の地点に着いた。


「……3等兵、これは一体どういうこと?」


 案の定、高確率の人気ポイントは、人でいっぱいだった。でもこれだけの人数で競い合うのか?


「そんな野蛮なことしないわ。1番初めの人だけに採取権があるの」


 だったら、この場にいても無駄か。


「そうよ、ここは気を取り直して行きましょ。

 次は秘密の取って置きの絶対って、書いてあるの所なんだから」


 え、まだその情報のままに行くの?

 そもそも、全エリアでたった1本しか生えないのに、他人の情報を信じないほうが、いいんじゃないかな。


「何言っているの。様々な統計で出た、最適な答えなのよ」


 ダメだこりゃ。ギャンブル依存症の人と、同じようのことを言っているよ。

 数字は信じていいけど、出どころは疑わないと。


 はぁしょうがない、もう1度だけ付き合うよ。


「いいのかなぁ? そんなことを言って。『リディ様、オイラにも教えて下さいよ』てなるわよ」


 はいはい、そうなった方が俺としても楽だよ。

 いつもより多めの煽りを受けながら、次のポイントにたどり着いた。


「……3等兵、これは一体どういうこと?」


 さっきと全く同じセリフ。だから、言ったのに。


「うわーん。次こそは、本当の本物で誰も知らないウルトラスーパーポイントなの」


 リディ、落ち着きなよ。


「信じて、エイダン。次こそ絶対なんだから」


 だいぶ追い詰められた顔だ。


 ああ、いつだって俺はリディを信じているよ。

 だからリディも、そんな紙切れじゃなく、自分自身を信じてみないか?


 リディの好きなミルクティーを出し、切り株に座らせた。


「温かい、グスッ」


 だいぶ落ち着いたようで良かったぜ。

 でもこのまま、書いてある通りに人気のポイントを巡ってもダメだろう。考えることはみんな同じだしな。


 だからここは逆に、人が来ないような危険なエリアを狙うべきだと思う。

 剣王を書き足しせば、問題ないしどうする?


「本当にそれでいけると思う?」


「ああ、任せておけ、俺が全て叶えてやるぜ」

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