第3話 さっそくリベンジ
ホントーに本当に、今朝から何かがおかしいぞ。
どこを向いても女の子。少し離れたところにも女の子。うおぉ、背中にもピッタリ女の子ー!
しかもキラキラした目で、こっちを見てきている。絶対あの目は恋する乙女だよな。
でも、なんで俺なんだ。服装の仕立てはいいけど、血や埃で汚れているし、顔も腫れていて見た目は最悪だ。
でも、見られている。注目されている。期待されているーーーーー?
や、ヤバい。緊張して、同じ側の手と足が同時にー。
「あの歩き方、カッコイイわぁ。何をしても、サマになるなんて無敵よね」
ち、違う! こんなダサダメ行進ちっとも良くない。
顔もこわばってきたし、体の動きもグチャグチャ。
今の俺どうなっている? 腰も引けてガニ股なのか内股なのか分かんねー。
「キャーーー、ダンスまでしてるわよ」
だからー違うんだよー。ただ歩いているのに、カクカクと手足が。〝アワワオドリ〞とかいうダンスにしか見えーん。
んんん、なんだか釣られてみんな踊ってないか? 嬉しそうに近寄ってくるし、おかしくねぇ?
「ねぇ、お兄さん、お名前は?」
「エイダン·イー。た、ただのエイダンだよ」
もう俺は貴族でもなんでもないんだ。今日から1人の人間として生きていくんだった。
「ねぇ、ねぇ、なんでそんなにカッコいいの?」
うーわ、……めっちゃ答えにくい。うはっ、みんなキュンキュンした仔ネコみたい。
「ねぇねぇ、この人達は放っておいて、あっちで2人になりましょう」
「あら、エイダン様は図々しい女はお嫌いよ、そうですわよね?」
「ふん、ご自身を下卑しなくてもいいですわよ」
「なんですってー!」
み、みなさん、落ち着いて。とにかく仲良くな。
「はーい、エイダン様ー」
この変わりようって、こ、こわい。どちらも自然なのがヤミ深い。
で、でも。
「みんな、ありがとう。助かるよ」
メッチャうれしいーーーーー!
腕を捕まれ、右へ左へと取り合いになっている。
甘い香りと圧力が、こんなにある? っていうぐらい俺の周りに溢れているよーー。
危うく自分というものを、見失いそうになったその時、俺を取り囲む女の人の外側から、野太い声が聞こえてきた。
「オイ、いないと思ったら他の男に色目を使っていたのか。ふざけんなっ、承知しねぇぞ」
予想はしていたけど、恋人がいるのにこの輪に入っちゃダメでしょ。
「あん、テメーか。俺の女にちょっかい出しやがったヤロウは!」
詰め寄ってきた男は昨晩、酒場で絡んできたあの優男だった。
しかし、ナゼだか俺を見た反応が、昨日と全然違う。
「な、なんだこの男前は、ま、負けた。いや、負けてない。お、お、お前なぁ、ちょっと顔がいいからって、クッソ調子乗るなよ」
こいつも変だ。確かにいまモテているけど、別にイケメンじゃないぞ。
むしろパンパンに腫れ上がった顔だから、怖いはずだろ。
「ちょっとやめて、エイダン様に失礼でしょ」
彼女さんのその言葉に男は激昂し、思いっきり頬を張り飛ばした。
手をあげるなんて信じられない。これはもう他人ごとだと言ってられないぞ。人の尊厳に関わることだ。
「そうよ、女に手をあげるなんてクズね」
他の女の人たちも騒ぎ出し、これでもかと男を責め立てた。
これには優男も居たたまれなくなり、タジタジになっている。
「オ、オメーらに関係ないだろ。おい、行くぞ」
彼女さんの腕を掴み、この場を立ち去ろうとしたが、彼女さんのほうがその手を振りほどいた。
「もうあんたにはウンザリなのよ。いつも威張ってばかりで、あんたなんて下の下の下よ。
それにエイダン様の足元に、何1つおよばないじゃない」
「ど、ど、ど、何処がって言うんだ、ふざけんな」
男の切り返しに、一瞬この場が静寂に包まれた。
それから女の人が全員、こんなに出るのと思う位の大声で笑い飛ばした。
「あははは、解ってないようだから言ってあげるわ。まずエイダン様の魅力は声よ。心に響く安らげる音色。あんたに女を酔わすセリフが言える?」
「う、うっ」
いや、俺は口説き文句なんか言っていないぞ。
「ふん、浅いわね。エイダン様はこの深みのある瞳がいいのよ。全てを見透してくれるのよ。この人の前なら素直な自分でいられるわ」
いや会って間もないのに、そんなの分かるはずないぜ。買い被りすぎだろ、マジで。
「あら、お子ちゃまだわ。エイダン様の魅力はこのかぐわしい匂いよ。すーはーすーはー、クンカ、クンカ。もう最高よー」
ク、クンカ? それはどういう事なの? もうおれ自身がついていけないよ。
「それにね、エイダン様の全てには心があるわ。上辺だけのあんたとは大違いなのよ」
「嘘だ、俺はイケメンだ。それに、俺は将来もっとビックになるんだ」
薄っぺらい、なんだか可哀想になってきたよ。流石にもうやめといてあげたら?
「ほらね、スカスカのあんたはその程度。エイダン様のお慈悲で、生かされているのよ」
散々煽られた優男は、悔しそうに唸っている。
何を言っても、女の子たちに言い負かされる。
その腹いせか、また女性に手をあげようとした。
これには俺も構えていたので、素早く駆け出し間に入ったが、それでもやめようとしない。
不本意だけど優男を止めるため、顔に裏拳をお見舞いした。
「グベッ、イデーイデーよー」
手加減はしたんだけど、拳はちょうどイケメンの文字が書いてある鼻にあたり、文字と鼻をへし曲げた。
「キャー、エイダンさま無敵ーー!」
「これでわかったでしょ。エイダン様には勝てないって。もうこの街には誰1人、あんたが良いっていう女はいないわよ」
優男は泣きながら逃げ出した。あの分だと本当に、この街からいなくなってしまうかもな。
自業自得とはいえ、ちょっと不憫に思えてきたよ。
「あんなクズにも優しいだなんて、もう完璧ですー」
ちょっとさっきから気になっていたけど、なんか女の子の圧力すごくないか?
普段聞いた事がない褒め言葉で、グイグイと詰めてくるし。邪魔者がいなくなったと大はしゃぎだ。
いつまでこの街にいるのとか、好みのタイプとか、さっきのダンスの事や、足のサイズまで聞いてきて、答えても答えても、質問の波はおさまらない。
「ちょ、ちょっと、みんな落ち着いて」
制止をしても、その仕草がカワイイとまた跳ねるし、こ、怖い。
女の子たちの顔は笑っているが、目はまさに獲物を狙う獣のようだ。
喰われそうな雰囲気にいたたまれなくなり、ダッシュでその場を逃げ出した。
「どこ行くのかしら、あとを追い掛けましょ」
ヒィィィィ! 女子って、もっと足の遅いものだろーーー。
俺の全力疾走にもついてくるし、圧迫感が半端ない。
「スゴーイ、足も早ーい。きゃーーー」
ドドドドッと音を立て、余裕なのか喋りながら走っているんだ。
日頃鍛えているこっちの息が続かねーーー。
あああ、女性って、美しく儚げなモンじゃねぇの?
こんな逞しさや、図太さとは無縁の存在であって欲しいのにー、なんなんだーこれはー!
この集団で押し寄せる恐怖と、子供だった自分を置き去りにする気持ちで、肺が潰れんばかりにおもいっきり走った。
そして、どこをどう走ったか分からないが、ようやく全員を撒くことができたんだ。
「はぁ~、モテるというのが、こんなに大変だと思わなかったぜ」
さっきの優男にも、他人には言えない苦労があるのかもしれないな。
人それぞれか。
「ふははは、それにしても、良いことがあったよな」
腹の底から笑えてきたぜ。遺産相続の件は残念だったさ。でも、悪いばかりの人生じゃなかったんだ。
男なら誰もが憧れる、モテモテハーレムを味あえたんだぜ。
こんなこともあるもんだ。まぁ、今日だけのことだろうけど、少しは人生というものに、期待を持つことができたぜ。
もしかしたら明日には、全てがもっといい方向に変わっているかもな。
「よし、ギルドに行って、新しいスタートを切るか」
気持ちも軽くなり、そう決意をし拳に力を込める。
その姿が家の窓ガラスに映っていて、何気なく自分のことを確認した。
「ん? えぇえーーー! こ、これはなんだ?」
いや、こんな驚きの表現じゃ足りないぞ。あまりの衝撃で、目の前の現実に頭が全然追いつかない。
それは本来あるはずのないモノで、俺の人生を大きく覆す、とんでもないモノが映っていたんだよ。
新作をスタートさせました。【悔しいですが】こちらより【好評】な作品です。
題名
スキルレベル1/神から始まる、従魔なしのテイマーくん~奇跡のユニークジョブなら、その支援効果と従魔が桁違い。最強種族でさえ、僕のチビッ子従魔には勝てないです。それでも追放なんですよね?
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ぜひ読んでください。