表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/58

第29話 心の広さ

 逃げた弟くんを追いかけ、俺たち4人は街を目指した。


「す、すまねぇ。恩を仇で返しちまった。弟には必ず罰を受けさせるぜ」


「それは捕まえてからの話だろ。ていうか全然追いつかないぞ。あんなデカイ体で嘘みたいなスピードだな」


 レベルも上がってきているし、もともと走るのにも自信はあった。

 それなのに、索敵レーダーに映る影との距離が、一向に変わらないんだ。


「すまねぇ、俺たちが優秀なばっかりに」


 ちょっと自慢が入るのがムカつくけど、今はどうしようもない。


 ジョブを変えれば、追いつくのは簡単だ。だけど、アニキーズの前で手の内をさらしたくない。


「懸命に追いかけるしかないわよね」


 リディは俺の心の内を読み取ってくれた。


 休みも入れずに街に向かっている。本当にクエストを横取りする気だろうか。

 仮にクエスト完了を受領されてしまったら、笑って許すということにはいかなくなる。


 取り戻すため、正式な手続きをしなくてはならない。

 だけどそれはアニキーズの弟くんを、裁きの場に引っ張り出すことになる。


 根は悪い奴じゃないし、この行動も正気じゃなかった。

 だから裁判とかになるのは、極力避けたいんだよなぁ。

 それもこれも、俺たちが追いつけるかに懸かっているか。


「エイダンさんよ。距離の差はこのままじゃ厳しいな。

 たが、ギルドでの受付はすぐには終わらねぇ。並んでいるところを、取り押さえてみせるぜ」


 そう話している間に、もう街へと着いてしまった。

 ギルドへの最短ルートを選び、人をかき分けて進み、そしてドアを勢いよく開けた。


「俺のを先に処理してくれよ。幻のカメレオンヤンミーを捕まえたんだ」


 弟くんが列の後ろで大声で叫んでいた。

 大勢の人に聞かれてしまった、半分だけしか間に合わなかったか。


「お前、アニキーズだよな? それが本当ならマジスゲーぜ」


 不味いな、どんどん人が集まってきている。


 既にアニキーズの2人は背後に回り込み、弟くんの腕と首をキメて押し倒していた。


「は、放してくれ。兄貴の為なんだ、分かってくれよ」


「黙れ、これ以上俺の顔にドロを塗るな!」


 籠も無事に取り返すことができた。カメレオンヤンミーも生きている。しかし内密にはできなかった。

 そしてマズイことに、この騒ぎを聞きつけて、ギルド職員たちが駆け寄ってきた。


「何を暴れているのですか? 状況を説明してください」


 アニキーズの2人はことの顛末をごまかすことなく、ありのままのことを全て話した。

 弟くんを救う気がないのか? こうなったら後戻りが出来ないぞ。


「入手アイテムの横取りと、クエストの虚偽の申請だとー!

 重大違反じゃないか。け、け、け、警備い~ん!」


 職員の号令で、全ての窓とドアが閉められ、武装した警備員もやって来て取り囲む。


「覚悟はできてるだろうな? 3人とも資格停止と長い懲役で反省しろ」


「くそー、こんなはずじゃなかったのに。兄貴すまねぇ」


 バカ正直すぎるぞ、何していやがる。

 悔やんだり嘆いたりすることが、今やるべきことではないぞ。

 正義を貫くのもいいが、それで自分の人生を終わらせるなんて、バカのする事だ。


「確保ーっと、エイダンさん、そこを退いて下さい」


 だけど、そのバカを見捨てられない自分のことが嫌になるぜ。ここは1発かますか。


「いくらギルドでも、少し横暴すぎるんじゃねぇか?」


「エイダンさん、ギルドにはギルドのルールがあります。

 どんな些細の事でも、破ることは許されません」


「はぁ~、あんたたちはギルドや冒険者の権利を守ることが仕事だもんな。

 しかしよ、俺たちの勝負までも、取り上げる権利はないはずだぜ」


 野次馬も含め、この場にいる全員があっけにとられている。

 いや、弟くんさえもポカンとしているんだ。主導権は握れたな。


「エイダンさん。コイツの窃盗と、虚偽の申請を問題視しているんです。

 変な話をするのやめてください」


「いや、勘違いしているのは、あなた達の方だ。

 アイテムは盗まれたんじゃない。まず1つ目の勝負として、どちらが早く運べるかを競争したんだ」


「へっ、競争?」


「ああ、見事にそいつの勝ちだ。しかし、勝利に感極まって、変なこと口走ったようだな」


「そ、そんな子供だましにはノリませんよ」


「ウソも何もこれが真実さ。それと、2回目の勝負が今から始まるんだ。見物するのは勝手だぜ」


 俺は弟くんの肩を掴み、無理やり立たせた。


(3人とも救ってやるから話を合わせろ。いいな、ワガママは許さん)


「な、何を」


 弟くんはが言いたげだったが、俺は構わず話を続けた。


「みんな聞いてくれ。弟くんは1つ目の勝負に勝利した。

 その勝利の報酬として、今から本当の勝負を始める。それに勝った者が、カメレオンヤンミーと栄誉も手に入れるんだ」


「だから、勝手に話を進めるな」


 その態度に苛立った長男が、ゲンコツを喰らわした。


「黙ってエイダンさんの言う通りにしろ!」


 サンキュー、これでやり易くなったこら、話を続けるぜ。


「ルールはいたって簡単。ここにいるカメレオンヤンミーを、再び捕まえるだけだ」


 籠をあけ、幻術を解き放ってやった。


「ギャー、幻獣がー幻獣がー!」


 さっきまでピンク色をしていた姿が、景色と同化して見えなくなってしまった。

 野次馬も我先に捕まえようと必死だ。


 弟くん気づけよ。お前がこれにのれば、既成事実になるんだ。

 そしてそれが兄貴たちも救える手立てになるんだ。


「捕まえれば、俺のもの?」


「ああ、そうだ」


「さっきまでの事も勝負のうち?」


「自分の力を出し切ってやり遂げてみろ」


 弟くんはその後は何も言わず、じっと俺のことを見続けた。

 そんな俺たちをよそに、周りの冒険者は騒ぎ続けている。


「た、頼む、ワシに譲ってくれ。孫に自慢したいんじゃ」


「いいや、あたしが捕まえて有名になるんだ。邪魔しないで!」


 周りは一生懸命捕まえようと動いているけど、こいつらには無理だろう。


 弟くんは顔をクシャクシャにして、その場に座り込んだ。そして大きなため息をついた。


「この勝負、俺の完敗だ。俺の全てを好きなようにしてくれ」


 そうきたか、分かった。その覚悟受け止めてやる。


「では、お前に命令する。今後も兄貴達を助け、自分の幸せを見つけろ。以上だ、わかったな」


「ちょっと待て、それだと罰に」


「納得できないのが、罰になるんだよ」


 それよりもカメレオンヤンミーを捕まえないとな。

 俺は再び幻術をかけると、天井にピンク色を発見した。

 すかさず、気絶させ落ちてきたところを受け取り、カゴの中に戻した。


「「あ~~~~ぅ」」


 ギルドメンバー全員の落胆の声が響き渡る。気を持たせたのは可哀想だし、取り方を教えてやるか。

 俺は全員を集め、全てのレクチャーをした。


「幻術ってそんなやり方、あんたしかできねーよ」


「やっぱ、あんたは別格だな」


 そう難しいやり方ではないから、頑張れると思うんだけどなぁ。

 騒いでいる中、ギルド嬢のメグミンがやってきた。


「エイダンさん、相変わらずメチャクチャですね。でも、実力が示せましたし、これで絡んでくる人は無くなると思いますよ」


 そうだと有難いよ。でもこれでみんなが救われたな。


「そうですね。ギルドとしても、塩漬けにされてきた幻獣を捕獲できて、胸が張れますしね」


 クエスト完了の手続きをすませ、ついでにクリスタルアーマードを売り払った。


「ギルドへの貢献ありがとうございます。

 今年は当たり年です。幻獣は捕獲できましたし、10年ぶりのジュエル茸は見つかるし、もうお祭り騒ぎですよ」


 ジュエル茸、初めて聞く名前だな。


「色々なことで、美味しいキノコですよ。

 明日からのジュエル茸イベント、エイダンさんも参加されますよね? 好景気万々歳ですよー」


 俺の知らないところで、何やら楽しいこと始まっているようだ。これは早速、情報収集を始めるか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ