表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/58

第28話 巻き込まれ事故にご用心

「もう、エイダン。また貴方1人で納得しないでよ」


「リディ、ゴメンよ。今から説明するからな」


 俺たちは、カメレオンヤンミーのことを勘違いしていたんだ。


 このモンスターはお肉が非常に美味しくて、襲われる事が多いため、逃げに徹する事に進化した。


「そういった能力がなかったら、あっという間に絶滅したでしょうね」


 そう、ここまでの見解は合っている。


 しかし、そういった能力のせいで、勝手に臆病な性格だと思い込んでいた。


 でも実際には、自分の能力に自信があり、敵がすぐ近くにいっても平気な性格のようだ。

 ただその慢心で、見つからないから攻撃されないと思ったみたいだ。


 実際に、モンスターからの攻撃に巻き込まれている。


「つまりすぐ近くにいるということ?

 でもおかしいわ。幻術にも索敵にも引っかからないのよ。そんなふうには考えられないわ」


 普通に考えればそうだ。匂いも気配もなく、レーダーにも映らない。そうなると、人は視覚に頼ろうとする。


「だから、しっかり見ていたじゃない」


 ああ、目の前のことをしっかりとな。


「だから、どういうことか教えてよ!」


 つまり、カメレオンヤンミーは僕達の後ろにいるんだよ。


 前に集中している捕食者の後ろで、能力を駆使して隠れていれば、これ以上安全な場所はない。


 今から後ろに幻術をかけるから、振り返ってごらん。

 ショッキングピンクのカメレオンが、そこにいるはずさ。


「うそ、すぐそこにいるじゃない!」


 思った以上に近くにいた。ちょっと俺たちをナメすぎだろ。


「に、逃げちゃうよ、早く捕まえないと!」


 心配いらないよ、すでに別の術をかけ、動けないようにしてあるんだ。

 そうして俺は用意していたカゴを取り出し、首輪もつけて中に入れた。


「やったわ、幻獣を捕まえるなんて、あなた歴史に名を残したのよ。おめでとう、エイダン」


 リディに飛びつかれてハグをされた。

 自分では、考えたことを行動に移しただけと思っているので、リディの言葉に驚かされる。


「いいえ、あなたは誰も成し得なかったことをしたのよ。もっと誇っていいと思う」


 俺が他人に誇れるだって?


 報酬の図書館に目がいき、そんな風には考えていなか。

 でもリディに言われて、心が熱くなってきたよ。


「俺は無能じゃない」


「うん、うん、良かったね」


 幼い頃から、心のどこかにあったコンプレックスが、たったいま溶けてどこかに行ったようだ。


「ありがとう、リディがいてくれて本当に嬉しいよ」


 これでまた1つ、俺は前に進むことができたぜ。


「こんな簡単に見つかるなんて。ねぇ、もしかして、姿が見えないだけで、本当は沢山いるんじゃない?」


 もしそうなら、幻の肉を食べれる?


「さ、探しましょ!」


 そのあと俺たちは、森を歩き続け、3匹のカメレオンヤンミーを捕獲するのに成功した。

 今夜の夕飯が楽しみだぜー!


 良い時間帯になったので、ひらけた場所で帰り支度を始めた。


「あれ、またアニキーズかしら。何か聞こえてきたわ」


 耳を傾けると聞こえてきたのは、木を打ち付ける音というより、折れる音だった。


 すると、森の切れ間からアニキーズたちが出てきた。何か叫びながら走っているぞ。


「ぶ……に……ろー」


 急用だろうか、必死になっている。


「あぶねー、にげるんだーーー!」


 アニキーズが出てきた所から、体長5メートルはある大型モンスターが出てきた。

 それは危険度Bランクのクリスタル・アーマードベアだった。


 剛腕だけでなくスキルや魔法を使ってくる。

 それに何より厄介なのは、その防御力の高さだ。

 フルパーティーなら、Lv60超えでやっと討ち取れる、Bランクでもかなりの強敵種だ。


 人の体よりも太い木々をなぎ倒し、それでも進むスピードを落とさないでいる。

 あそこまで興奮していると、まいて逃げ切るのは無理だろう。


「リディ、討ち取るんで援護を頼む」


 ニコリとうなずき、強化呪文をかけてくれた。


「バ、バカやろう。逃げろっての!」


「アニキ、そんなヤツ放っておこうぜ」


「巻き込んだのに、そ、そんな事できるか」


 強敵モンスターを前にして、それだけの啖呵を切るのも大したものだ。

 でも邪魔にしかならないから、下がっていろ。


「しっかり受け取れよ。【暗黒牢】【天地反転】【肢体欠損】」


 クリスタル・アーマードの視界をまず()くし、次に平衡感覚と身体の自由を奪い取った。


 術の効果により、勢いそのまま倒れ込み、仰向けのままピクリとも動かなくなった。

 しかし、あくまでこれは幻覚であり、キッカケがあれば解けてしまう術である。


 無防備な状態なので、早くとどめを刺そうと刃を入れたけど、ミスリルナイフではちょっと足らなかった。


 しょうがない、死の幻術をみせるか。


「それってどうなるの?」


 自分は死んだと脳にマボロシを見せて、信じこませるんだ。

 そうすると、脳は本当に活動を止めてしまう。


 だけどすげー難しいし、集中力が必要なんだ。まぁ見ててくれ。


 クマの眉間に指をあて、魔力を送り込む。すでに視覚、聴覚を奪ってあるので、あとは脳を闇に包むだけ。


 やがてクリスタル·アーマードベアは、断末魔をあげることなく息絶えた。


「こ、こんなにも簡単にだなんて、信じられん」


 アニキーズが驚いてくれているけど、見ているほど簡単ではないんだけどな。

 相手の精神状態を見極め、最適な度合いで幻術をかける必要があるんだぜ。


 先にかけたものが強すぎると、後にかける術の効果が薄くなる。幻術は結構繊細のもなんだ。


「すげーな、次元が違い過ぎる。漢だよ、まさしく真の漢だよ。No.1の漢だぜー!」


 危険度の高い、モンスターとの力の差を見極め、撤退したのも1つの実力だと思うぞ。


「はは、エイダンさんに言われても、慰めにしかならねえぜ」


 しかし、思わぬ獲物で売値が楽しみだぜ。

 早速解体し始めると、アニキーズたちも手伝うと申し出てきてくれた。


 大物なので、人手があるのはありがたい。

 それでも1時間以上けかり、ようやく全ての素材を、マジックバックに収納することができた。


「ありがとう、すげー助かったぜ。2人なら半日はかかっていたかもしれないな」


「こんなの助けてもらった礼にもならねえよ。ところでよ、このピンクのはなんだい?」


 アニキーズたちに事の顛末を教えてやった。


「討伐でも助けられ、クエストも先を越されたか。

 これはもう認めるしかねえな。この勝負俺たちの負け」


「待ってくれよ兄貴!

 なんでそんな簡単に、負けを認めちまうんだよ。オカシイじゃねえか、俺は納得いかないよ。絶対こいつらズルをしてるんだよ」


「バカヤロー、それが漢に対して言う言葉か?

 幻獣を捕まえ、Aランクを倒し、しかも見返りを求めない。

 これ以上ないくらいの立派な漢じゃねえか」


 なにやら揉めだした。

 漢って、俺をそっちの世界に持って行かないで欲しい。


「それじゃあコイツは兄貴よりも漢だって言うのかよ?」


「ああ、世の中で一番だろうよ」


 あ、弟くんの目に涙が。

 う~ん、美少女なら絵になるけど、スキンヘッドのおっさんだと可愛くないな。


「ク、クソー。それでも俺は認めねぇぜ」


 そう叫ぶと弟くんは、カメレオンヤンミーを入れた籠を抱えて走り出した。


 オイ、走り方まで女子になってるじゃねえか。これは許せないぞ。


「何言っているのよ、エイダン。幻獣が盗まれたのよ。取り返さないと!」


 そ、そうだった。ヤバい、あれをギルドに提出されたら、報酬を横取りされてしまう。

 俺たちは逃げた弟くんを追いかけ、街を目指した。頼むから、早まったことをするなよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ