第27話 捕獲方法を考えた?
俺たちはまずギルドの資料を、隅から隅まで目を通していく。
というか、何の下調べもせずに、飛び出すアニキーズの心境がわからない。
そのことが気になるのか、周りの人達が寄ってきて、口々にさっきの3人組について話してきた。
「よっ、剣王。あの3人組みどうだった? 迷惑なヤツラだろう」
いや、絡まれただけで、迷惑ってほどじゃないぞ。
「そっかー、良かったよ。ほら、アイツらってあの風貌だろう。いいやつらなんだけど、誤解受けやすいんだよ」
あれ、下げてからのフォロー? なんか予想していなかった会話に戸惑っていると、別のほうから女性が参戦してきた。
「あんた何言ってるの。あんなゴリマッチョ、キモいだけじゃん」
「そういうなよ。あれでも面倒見が良くて、カワイイ所あるんだぜ」
「カワイイってどこがよ!」
…………なんだこれ。2大派閥の激突か?
1つは女性中心のキモい派と、マニアが混じった困りがちの擁護派だ。
あの3人、テンプレかと思っていたのに、なんか微妙なマスコット的なキャラみたいだな。
彼ら3人はさておき、俺たちはカメレオンヤンミーが発見された場所に向かってみた。
「周囲の風景と全く見分けがつかないのよね?
幻って呼ばれるモンスターを、どうやって捕まえる気なの?」
幻て言われても、本当に姿形がないわけじゃない。
だから、こちらは【幻術師】でいこうと思っているんだ。
エイダン·イーグル
Lv :19
ジョブ:幻術師+レンジャー
HP :65+75
MP :70+30
力 :40+55
体力:25+65
魔力:90+55
早さ:25+50
器用:25+65
運 :5+5
スキル:幻術 たゆたう心 魅了 サバイバル術 気配察知 短弓術 .
このジョブは幻覚を見せたり、感覚を狂わせたりするトリッキーな戦い方が得意だ。
そのぶん直接戦闘は得意じゃないけど、パーティーに1人いると、爆発的に狩りが楽になる人気職だ。
「でも、エイダン。幻術にかかっても、姿が見えないのは変わりないわ」
その幻術でカメレオンヤンミーを、包み込んでやろうと思っているんだ。
例えば、驚きの擬態能力を持つカメレオンヤンミーが、ショッキングピンクの森にいたとしたら、何色になる?
「あっ!」
そうさ、幻に騙され体の色を変えても、現実世界は元の色のままだ。
深い森の中で、ショッキングピンクがウロウロしていたら、簡単に見つけられるよ。
「エイダン、アッタマいいー! スケキよ。そんな考えで来るとは思わなかったわ」
そこまで言われると照れるぜ。
でも、リディのこの励まし方は効くんだよな。いつもやる気が出てくる。
この作戦で絶対見つけられると思っているけど、森は広いし、見渡せる範囲も限りがある。
だから、探す範囲を前方30メートルに絞って、根気よく行くつもりだ。
敵から身を隠す極端に臆病なモンスターだ。
本当は捜索範囲をもっと広げたいけど、森の中は視界が悪く、それ以上は限界なんだよな。
臆病なので出来るだけ刺激しないよう、慎重に探索を始めた。
――カコーン、カコーン、カカコーン――
すると遠くの方から、木を叩く音が聞こえてきた。
「木こりさんの音じゃないよね」
正体がわからないが、あの音は捕獲の邪魔になるな。
「止めてもらえないか聞いてみましょうよ」
もし相手に交渉の余地がなければ、クエストの延期、または場所移動を考えなくちゃいけないもんな。
俺たち2人は音のする方向へ近づいていった。
尾根の方から見下ろすと、その音の原因がはっきりとわかった。
見えたのは、スキンヘッドの男が木を叩きながら、連れの2人の男の方へ進んでいる。
「アニキーズだわ、追い込み漁のマネをしているみたいね」
たいして大きくもない網を張って待っているが、そもそも姿が見えないのに、それは無理があるだろ。
――カコーン、カコーン――
「そっちに行かすからしっかり捕まえろよ」
「アニキ、任してくれー」
こんな離れているのに聞こえてくるなんて、バカみたいに大きな声だ。
あんな騒がしくしたら、絶対に逃げられているぞ。
それにカメレオンヤンミーを捕まえるどころか、逆に他のモンスターをおびき寄せるぞ。
「ガゥーオー!」
やっぱりだ、アーマードベアがやってきた。
危険度Cランクの強敵。危険はないと思うが、一応無事を見届けておこう。
「オリャー!」
肉弾戦専門の3人は、そのまま順番に突っ込んでいった。
それをアーマードベアは、カウンターで迎え撃つ。
カウンターはきれいに入り、20メートルほど飛ばされ、木に当たってようやく止まった。
「オイオイ、あの打たれ方はヤバいよな?」
防御もしないで攻撃に集中をしていたから、KO間違いない一撃だったぞ。
予想外の展開に戸惑ったが、いま助けに行けば間に合うはず。
しかし、俺たちが走り出す前に、アニキは何事もなかったようにムクッと起き上がり、またアーマードベアに向かっていった。
「……へっ?」
しかも他の2人も同じように吹っ飛ばされ、同じように起き上がり、平気な顔をして向かっていく。
「なんだあれ! タフなのかバカなのか分かんねえぞ」
完全にHPだよりの特攻。典型的な倒される前に倒してやれだ。
しかも相手にしてみれば、気味が悪いことこの上ない。
殴っても殴っても、平気な顔をして立ち上がる。まるでゾンビのようなプレッシャーをかけてくる。
「倒しきっちゃったわね。HP回復どうするのかしら」
そんな心配をよそに、3人は傷口を舐めたあと、また木を叩き始めた。
呆れた獣のような戦い方だ。イヤ、アニキーズなら漢の戦い方って言いそうだな。
「これはダメね。私たちは離れた場所でやりましょ」
絡むのも面倒だし、それが1番だよな。発見場所から、少しずれるのは残念だけどしょうがない。
俺たちは索敵スキルのある【レンジャー】と【幻術師】の2つで仕切り直した。
念のために索敵を併用しての探索だ。
「じゃあ始めるから、前方に注意してくれ」
慎重にゆっくりと探していく。
カメレオンヤンミーの生態がわからないので、どこを生息範囲にしているのかがわからない。
つまり、木上で生活しているのか、それとも地上なのかさえもわからない。
ただ今回の探索で良いことが1つある。
それは他のモンスターにも、全く襲われないということだ。
「そうよね、みんな目をまん丸にしているもの」
幻覚で、ショッキングピンクの世界を見せられているんだ。
ドギマギしながら、敵もそれどころじゃない。
長い時間が過ぎた。覚悟はしていたけど、まったく雲をつかむような話だぜ。
広い森の中から、姿が見えないモンスターを見つけ出すんだ。
探し終えた範囲も全体の1%にも満たない。
しかも相手は、同じ場所にとどまっているという保証もない。
心が折れる前に休憩がてら、ギルドで聞いたことをもう一度洗い直すことにした。
発見場所は森の中。パーティーとモンスターの戦いに巻き込まれ死亡。
死因は首の小さい切り傷からの出血で、弱りながら擬態も解けていったという。
「あれ? パーティーのメンバー構成て何だったかしら」
たしかモンクが2人に、盾使いが1人、それと回復役が1人だったはず。
「打撃中心のパーティーだから、切り傷が出来るのは少し変よね?」
それについては答えが出ている。
戦っていた相手のモンスターが、風属性の魔法を使う相手だったようだ。
「そっか、冒険者達に放たれた魔法が原因ってことね」
そうなんだが、何か引っ掛かる。巻き込まれ方が変かもしれない。
冒険者の攻撃に巻き込まれたのじゃなくて、モンスターから冒険者側の方向への攻撃ということだ。
安全となる横や、モンスターがいる方向じゃなかった。
それは何故なんだ? 疑問に思うということは、考えるべきだ、ということだ。
冒険者側にいた。
モンスターからの魔法にやられた。
攻撃が届く範囲にいた。
絶対的能力で、今まで発見されることはなかった。
あっ、そういう事か。分かったぜ、リディ。
この推測が正しいなら、このクエストすぐに終わりそうだぞ。




