第26話 報酬目当て
俺とリディはコカトリス討伐の功績により、2人揃ってギルドランクDへと昇格した。
選べるクエストの種類も大幅に増え、なかには討伐系や護衛系などの荒事もある。
しかし、報酬額を見ると、今までやってきたスタイルを、上回る金額は何1つないんだよな。
極端に言えば、ギルドランクを上げるためだけに、クエストを受けることになりそうだ。
まっ、想定していたことなので、別に問題はないか。
ただ、上のランクの内容が少し気になり覗いてみる。その中の一つのクエストに目が止まった。
〈珍獣カメレオンヤンミーの生捕り 報酬 金貨1枚その他〉
その用紙を掴み、すかさずメグミンの所で内容を確認した。
「これは王立モンスター研究所からの依頼ですね。
このモンスターは、今まで死体でしか発見されていない種なんです」
なんだ、その不思議な生き物は?
「エイダン、私も聞いたことあるわ。
普段は周りの景色と同化していて、たまたま死の間際を目撃されて、確認されたモンスターよ」
その生態も謎だらけで、唯一わかっていることは、食べるとムチャクチャ美味しいって事だけ。
食べてみたいが、気になるのは報酬の方だ。
「ええ、ケチな研究所らしい報酬ですね。オマケの王立図書館利用権がセコすぎて、誰も請け負わない塩漬けクエですよ」
いや、俺にとっては、それこそが何物にも代えがたい素晴らしい報酬だ。
王立図書館。 そこは何百万何千万の書物が、収められている知識の宝庫だ。
あらゆる情報が集結していて、知恵を求める者にとっては最上の場所なんだ。
以前は俺もよく世話になっていたが、あそこに入るには資格がいるんだ。
その資格とは貴族であること。それは差別というよりも、区別として設けられた制度だ。
本自体が貴重なものだし、資料としても重要なモノが数たくさんある。
ちゃんとした地位や経済力がなければ、大事な本を触らせてくれないってことだ。
つまり、平民の俺にとっては、ノドから手が出るほど欲しい権利なんだ。
「でも、エイダンさん。これBランクの依頼書ですから、受けれませんよ」
へ? イジワル言うなよ。俺の実力知っているだろ?
しかし、いくら強いとはいえ、Bランクのモンスターが出るエリアに行かせられないと、首を横にふってくる。
メグミンは優しい子だ。ギルド職員として、自分ができる最大のサポートをしようとしてくれている。
「なぁ、ちょこっとさ」
「危険なことはさせれません!」
埒があかない。
でも、こいつ幻の珍獣なんだろ?
誰も捕まえたことのないのなら、ギルドを通さなくても買い取ってくれるだろ。
「えー! 職員を目の前にしてそれを言いますか? やめて下さいよ」
俺が素知らぬ顔をしていると、はぁ~とため息をつきながら、メグミンの方が折れてきた。
安全に配慮して、出来れば誰かと組むようにと言われた。
そして、必ずギルドを通すことも約束させられた。こちらもノセられた感はあるかな。
後の詳しいことを聞こうとしていたら、後ろから声がする。
「おいおい、駆け出しのひよっこが、カメレオンヤンミーとは100年早えんじゃねえか?」
振り返るとそこには、何もかもそっくりな3人の大男が立っていた。
スキンヘッドでゴリマッチョ。装備も同じで、違うのは欠けた歯の数だ。
1本欠けっ歯の頬には【体力自慢】。
2本欠けっ歯には【力自慢】。
3本欠けっ歯には【男自慢】と書いてある。
シリーズものか?
とにかく、見分けるにはそこしかない3人だ。
「なぁ、アニキ。剣王って、ギルドランクの意味がわかっていないぜ。
ちょっと、可哀想だから仲間に入れてやろうよ」
1本欠けっ歯にいきなり煽られている?
「がははは、おい剣王。男を鍛えてやるから、ウチに来い」
「良かったなー、これでお前もアニキーズの一員だ」
いや、違った。アホな会話に巻き込まれただけだった。
こちらの都合も考えずに、話をどんどん進めている。
困惑していると、メグミンがそっと耳打ちをしてくれた。
「Bランクの名物3人組です。
悪い人達じゃないんですが、絡まれたのなら諦めてください」
ナビゲーターが仕事を放棄すんじゃねーよ。
どうあってもメグミンは、関わりたくないようで、これは自分で片付けるしかない。
「あー、誘ってくれたのは嬉しいが、俺たちは2人でやっているんで断るよ」
「遠慮するな。俺たちは強えーぞ」
話が通じない。おそろいの防具を買いに行くと肩まで掴んできた。
ぶん殴ったほうが早いかな。
「ちょっと止めて下さい。エイダンが困っているでしょ。
そ、それにあなたたちと一緒に行ったら、欠けっ歯になっちゃうわ」
俺を庇おうとする時のリディって、恐いもの知らずなんだよな。
「ヘン、賢い聖女さんは黙っていな。これは男の世界だぜ」
いや、違う。アニキーズの世界だろ。
「ひ、引き下がりません。それにエイダンの方がよっぽど強いです」
「な、な、俺たちのどこが弱いってんだ?」
顔と頭を真っ赤にしながら、長男? の3本欠けっ歯が怒っている。
「キャッ、だ、だってこのクエストにすら、手を伸ばさないダメダメ冒険者じゃないの。
そんな人たちに、教えてもらう事なんかはありません」
「言ったなー。じゃあ勝負だ。先に捕まえてどっちが上か教えてやるよ」
おっしゃーと叫び、3人はそのままギルドを出ていった。
俺の意思は関係なく、勝負する事が決まったよ。それに勝っても負けても、ウザそうだな。
「あっ、ごめんなさい。どうやって捕まえるかも考えてないのに、先走っちゃったね」
いいよ。どうせやる事は決めていたんだし、他の冒険者のスタイルを、見れるかもしれない。
それに俺を庇ってくれたんだろ。それが嬉しいよ。
「うん。こっちこそ、ありがとう。でも、どうする?」
まずは情報を確認だよ。アニキーズみたいに闇雲に行ってもダメだろう。
「それなら、ギルドからの情報をどうぞ~」
メグミンが渡してくれた資料には、思ったより色々のことが書いてあった。
カメレオンヤンミーは、体長70センチのズングリとしたトカゲ。
特徴として、周りの風景と同化する能力が高い。
それと索敵レーダーにすら映らない優れたスキルを持っていると予想される。
あと、向こうからは、一切の攻撃をしてこない模様だ。
これらを合わせて考えると、隠れて生きる能力に特化していそうだな。
「足音とか気配もないでしょうね。どうやって見つければいいのかしら」
リディは勝負に持っていったことを、早くも後悔しているようだ。
でも心配するな、これだけの情報でも色々とか考えることができる。
途轍もなくうまい肉。多くの敵に狙われるため、逃げに徹している臆病なヤツだろう。
しかし、1度捕まえているということは、臆病だけど、自分のスキルに自信を持っているのかもしれない。慢心で隙が出たのかも。
「リディ、良い手を思いついたぞ」
「よかったー。あの3人に勝てそう?」
「ああ、キーワードは〝まぼろし〞だ」




