第20話 ごっちゃんクエスト
初動の失敗で八方塞がりとなり、低ランクだけど剣王の俺ならばと、すがってきたギルド。
「気にするな、俺に任せろって言ったろ」
ギルド長は大きく目を開き、俺を見つめてくる。
「うむ、状況を説明するぞ。
実は薬草採取で有名な山で、事件が起きているんだ。
原因は不明だが、魔法災害により山全体が毒に侵されている」
ん?
「信じられないよな? こんな事例、今まで聞いたこともない。
ただこの影響が周囲に広がれば、この地域一帯は壊滅してしまうだろう」
んん? 何処かで体験したような。
「解決してくれとは言わない。せめて原因だけでも突き止めてくれ。
これは時間との戦いだ。この地域、いや、この国を揺るがす大事件なんだ」
「あのー、ギルド長さん。それなら……」
「ああ、分かっている。これがいかに危険な任務なのかは。
それに2人だけで行かせはしない、私もあの地へ同行するつもりだ」
……ムッチャ熱い。
「あのな、この事件は大丈夫だ。実はな……」
「その言葉おまえが言うと重みがあるな。やはり頼れるヤツだ。
それに私も引退したとはいえ元Aランク冒険者だ。
盾役ぐらいまかせろ。生きて帰してみせるからな」
ダメだ、責任感強すぎて全然話をきいてくれねぇ。もうスイッチ入りぱなしだよ。
原因不明の魔法災害、それに解決策の糸口さえも見つからない。
頼る相手は新人で、ギルド内部はゴタゴタだ。
そんな状況を乗り切り、皆を導くのは並大抵のことじゃない。
うん、わかる、分かるよ。自分に酔うのはわかるよ。
……でも、ゴメン付き合えないわ。
「では、さっそく……」
「もう、行くのか?」
「いや、報告だ」
「……はぁ?」
「だから、原因と処理についての報告だよ」
ギルド長はポカンとし、あまり理解出来ていないようだ。
くっ、ひげ面だけど潤んだ瞳がカワイイぜ。
俺は山であったことや、コカトリスを倒した事、オベリスクを浄化したことを話した。
「えーっと、つまりなんだ。もう終わったってことか?」
プッ、! プルプル震えていて血管が弾けそうだ。
「ああ、綺麗サッパリとな」
「サギじゃねぇーかーーーーーーーーー!」
魂の絶叫! 俺も堪えていたのに、大笑いしちまった。
「ははは、ちゃ、ちゃんと仕事はしたぞ。それを非難するのは……」
「いーや、言わせて貰う。俺がどんな気持ちでお前達に頼んだと思う?
死地に人を送り込む気持ちがわかるか?
何サラッと解決してんだよ。規格外もいいところだろー!」
普段冷静沈着なギルド長のこんな一面を見れて、マンゾク満足。
「まぁ冗談はこれぐらいにして、真剣な話だ。
オベリスクについては不可解のことが多い。調査が必要だと思うぞ」
まだ興奮気味のギルド長だったが、この言葉に鋭く反応した。
「今まで見たことない文字だと言ったな?
わかった。専門チームを派遣してみる。他に聞いておくことはないな?」
話も終わり、退室しようとしたら呼び止められた。
「忘れ物だ。それと聖女さんにも同じ報酬をさせてもらう」
食い気味に金貨の入った袋を渡された。
いいのか? 報酬ならガマゲンから踏んだくるつもりだぞ。
「むしろ少ないぐらいと言っただろ。
さっきのやり取りは別にして、本当に感謝しているんだ。
改めて礼をいう。ありがとう」
「気にするな。次こそは無茶な頼みを言ってきな。パパっと解決してやるぜ」
やっと、しかめっ面のドワーフが笑ってくれた。
この後は、宿に戻って、いつもの検証会議を始めるとしよう。
食事も終わりリディと2人、部屋の中で向かい合う。
「議長、質問です。ジョブのダブル書き込みは確実なのに、何を検証するんですか?」
「リディ君、いい質問ですね。先のダブル効果により、新たな疑問が生まれました。今回はそれを検証します」
「おお~、もしかしてそれは新発見ですか?」
その答えとして、ニヤリと笑って返した。
ジョブの複数取得は、慣れがいるけど2個でも3個でも可能だ。
これだけでも凄いことだけど、更に足を踏み入れていく。
「それよりも議長。いつまでこのノリを続けるんですか?」
始めたのはそっちなのに、なんだよ。気を取り直して、考察するか。
この世界では、誰でもが1つのアザを持っている。
言い方を変えれば、1つだけしか持っていないとも言える。
その例外として、リディには複数のアザがある。
そして特例中の特例。何もない俺が書き足すことで、複数のジョブを持てるようになるんだ。
この3つの事実をつなげて考えてみたんだ。
「一般の人も文字を書き足すことで、新しいジョブを手に入れられないかってね」
誰もそんなバカらしいことを、わざわざ試さない。
「つまりリディには、自分自身にジョブを書いてもらいたいんだ」
もし成功したら、誰もが本当になりたい自分になれる。そんな世界が来るかもしれない。
「す、凄いじゃない。やってみましょうよ」
ただ、どんな風に影響するかわからない。
万が一のこともあるので、消えるインクと、実績のある剣王で試すことにした。
ウンウンと言いながら、鏡を見て苦労しながら書いている。
ようやく出来上がり、オデコに書かれた剣王を、上目遣いで見せてくれた。クッ、カワイイ。
「えっ、ナニ?」
いや、何でもない、オホン。
今更だけど、こんなことに付き合ってくれるリディには、感謝しかないぜ。
「リディ。ジョブが足されているか、ステータスを覗いてみてくれ」
ドキドキする。神様が作ったこの理を、人類は超えていけるのか。
「……エイダン。……残念だけど何もなかったわ」
「そ、そっか」
そう簡単に世界は変えられないか。仕方ないさ。
剣王の文字をハンカチで拭いてあげ、軽く頭を抱きしめた。
「くやしいね」
「ああ、…………いや」
「どうしたの?」
「リディ、もう1つ思いついたから、試していいか?」
「うふふ、切り替えが早いね」
リディ自身が書いた結果はダメだった。しかし、俺自身には効果ある。
だったら、俺がリディに書いたらどうなる? 軽い気持ちでササっと書き、ステータスを確認してもらう。
「ねぇ、エイダン。聖女の横に剣王って書いてあればいいの?」
その通りだよ。
「数字も2つになっていればいいの?」
え、もしかして!
「うん、成功よ」
2人で抱き合い喜び、これをもとにいろいろ試した。
この俺を押し上げてくれる最強システムには、ルールがあるみたいだ。
①ジョブやスキルの書き足しは、俺が書くと効果がある。
②他の人が俺に書いても効果がある
③他の人がその人自身や他人に書いても、効果はない。
「つまり、エイダンだけに与えられた物なのね」
世界中のみんなとはいかない。でも、自分と周りの人は幸せに出来る。
元々、貴族社会に嫌気がさし、冒険者に身を置いたんだ。好きに生きてみるさ。
「ええ、エイダンなら世界の方が、ついてくるんじゃない?」
ははは、そうなったら最高だ。そっちを目指していいかもな。




