第17話 未来とは夢が形になったモノ
コカトリスを祓ったあと、随分と多くの敵を打ち払った。
だがそれは異様な光景で、どのモンスターもこちらには攻撃をしてこなかったんだ。
その代わりに、身を差し出すようにして斬られていった。
コカトリスのように、苦しみから解き放たれたいのか、斬られたことを喜び、光の粒へとなっていった。
「そうなんだな、全てを俺に任せろ。楽に送ってやるよ」
そして最後の1体を光の炎が焼き尽くし、全てを葬り終えた。
【神笑給え】は肉体も魂も、穢れたものを一切残さない。
戦いの痕跡は大量の経験値と、それぞれの魔石だけだ。
2人でレベル20に達した喜びよりも、虚しさが残りやがる。
「エイダン、府に落ちない顔ね」
「ああ、こいつらの苦しみの原因が、この山のどこかにあるはずだ」
山の麓の方には、あまり影響がなかった。
山頂に近づけば、苦しむモンスターが多くなり、よりはっきりと大地の汚れを確認できた。
「そうね、浄化をしながら、原因を探ってみましょうよ」
聖女の力【クリアラ】と【キュアル】で、大地の解毒を行っていく。
さすがはリディ。広い範囲の浄化力とそのスピードで、あっという間に半分を終わらせた。
「あら、なんだか、毒気が強くなってきたわ」
中央部に差し掛かった頃、そんな気配とともに奇妙なもの発見した。
高さ3㍍の黒曜石のオベリクスが建っていて、これまた奇妙な金色の文字が彫られている。
そして、くぼみから青黒い液体を出し続けているんだ。
「これが原因で間違いないわね」
後始末をギルドに任せるためにも、壊さないほうがいいんだが、リディ出来るか?
「ええ、浄化の魔法と聖障壁で無効化できそうよ。ついでに重ねがけをして、コーティングもしておくわ」
これ以上の被害を食い止めるため、素早く行動に移した。
「【クリアラ】【キュアル】うん、いいわね。仕上げに【聖障壁】」
黒く光っていたオベリクスは、聖なる力で闇の色が抜けていく。
最後には無色透明となり、水晶のような輝きを放つまでになった。
「毒も止まったわ、これでひと安心よ」
発生源さえなくなれば、これ以上に苦しむものは増えない。
そして、すべての浄化を終える頃には、日も傾いていた。
振り返ると、美しく輝く大地へと変貌していて、夕陽に照らされとても綺麗だった。
これが元々あるこの土地の力なのだろう。
ただ、大地がきれいになっても、草木が持ち直すのには少し時間がいるようだな。
今日はここでキャンプを張って、様子を見ようか。
モンスターはあらかた片付けたし、危険はまずないはずさ。
食事の準備をしている間も、植物はどんどん元気になっていく。
自然の力は偉大だ。そう、足元だけじゃない。
「リディ、上を見てごらん」
「うん、えっ嘘! なんて綺麗なの」
月のない夜空には、満天の星空が広がっている。
特に地平線沿いに広がる帯状の星の海。〝スターリング〞と言われる夜空を一周するモノだ。
とても神秘的で、恋人たちにとってはド定番だ。
ここまではっきり見れるなら、ここに来た価値があるってもんだぜ。
「エイダン、連れて来てくれて、ありがとう」
「いや。付いてきてくれて感謝しているよ。
ここはいい思い出になったよ。将来はお互いに素敵な人とここに来ようぜ」
「え?」
「え!」
俺は何かマズイこと言ったのか? リディはムッチャ拗ねて先に寝てしまった。
明日のあさはココアでも作って、ご機嫌とりしなくちゃな。
次の朝になり、あたりを見回すと草木が元気を取り戻していた。
瑞々しく茎も太くなり、ハリが出てきている。
月光草ををはじめ、あらかじめ言われた数よりも多めに採取した。
それと、中には珍しい薬草もたくさんあり、ツイツイそれを集めるのにも必死になったぜ。
こういった物は、すぐに使わなくても必ずあとで必要になってくる。
採れたのは福寿草、魔力草、背伸び茸に運命蔓。
更に図鑑でしか見たことのない、虹人参や積乱茸まであり、片っ端から袋に詰め込んだ。
マジックバッグがあって、本当に良かったぜ。
帰り道は、リディが不機嫌なこと以外は何の妨害もなく、スムーズに進めて街へと無事にたどり着いた。
少しでも早く薬草を届けるため、道具屋へ直行した。
しかし息子さんの容態が悪くなったのか、奥さんは店先で暗い顔をしている。
「ウソ、間に合わなかったのかしら。エイダン、急ぎましょ」
せっかく薬草を採ってきたのに、こんな結末はありえないぞ。頼む間違いであってくれ。
俺たちの顔を見ると奥さんは、安堵の声を漏らし、その場に座り込んでしまった。
「よ、良かったよ。あんたたち無事に帰ってこれたんだね」
どうやら俺たちを心配していたようで、子供は大丈夫のようだ。
話を聞いてみるとその理由がわかった。
実は俺たちが向かったすぐあとで、山から逃げ帰ってきた冒険者がいたらしい。
月光草が高値になると出向いたけど、山全体のモンスターが毒されていて、山頂どころじゃなかったらしい。
冒険者ギルドでも、山の危険度が跳ね上がったと判断して、調査団をすでに派遣している。
「知らなかったとはいえ、危険な目にあわせてゴメンよ。
でも、途中で引き返してきてくれてよかったよ」
「あ、月光草だが」
「いいのよ、代用品はまだあるし、気にしないで」
「いや、採取してきたぞ、ホラ」
話が進まないので、取ってきた物を全て店先にだした。
「ど、ど、どうやったんだい? 山頂にしか生えていないのに」
「言われた以上の数があるはずだ。確かめてくれ」
どれも状態がよく、質も最高級だと驚いている。
「これだけあれば……ありがとう。うっうっ、さっそく作らせてもらうよ」
月光草の光のもとをじっくりと絞り出し、数種類の他の素材と混ぜていく。
根気のいる作業で、見ているこっちも力が入る。
「私たちも手伝います。なんでも言ってください」
「助かるよ、これをしばらく練っておくれ」
3人とも汗をかき長い時間をかけて、ようやく薬が完成した。
「さぁ、これで良くなるよ」
淡く光る薬が息子さんの口に入っていく。
すると、みるみる内に容態がよくなった。
苦しそうな息づかいや汗もおさまり、もう心配はなさそうだ。
「他の患者さんにも届けるから、ここで待ってておくれ」
疲れているはずなのにタフな人だよ。
それから、しばらくして奥さんが戻ってきた。全員無事に回復へと向かったと喜んでいる。
「さぁ、次はあんたの分だね。最上のものを作るよ」
おいおい、少しは休んだらどうだ。
奥さんは首を横に振り、命の恩人を待たせられないと、鼻息が荒かった。
ははは、父様に人の心を動かすのも、鎮めるのも難しいと教えられたが本当だよ。
「俺の注文は、難しいけどいいんだな?」
「私のスキルを信用しなよ!」
今日は長い夜になりそうだ。




