表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/58

第17話 未来とは夢が形になったモノ

 コカトリスを祓ったあと、随分と多くの敵を打ち払った。


 だがそれは異様な光景で、どのモンスターもこちらには攻撃をしてこなかったんだ。

 その代わりに、身を差し出すようにして斬られていった。


 コカトリスのように、苦しみから解き放たれたいのか、斬られたことを喜び、光の粒へとなっていった。


「そうなんだな、全てを俺に任せろ。楽に送ってやるよ」


 そして最後の1体を光の炎が焼き尽くし、全てを葬り終えた。

 【神笑給(カミエミタマ)え】は肉体も魂も、穢れたものを一切残さない。


 戦いの痕跡は大量の経験値と、それぞれの魔石だけだ。

 2人でレベル20に達した喜びよりも、虚しさが残りやがる。


「エイダン、府に落ちない顔ね」


「ああ、こいつらの苦しみの原因が、この山のどこかにあるはずだ」


 山の(ふもと)の方には、あまり影響がなかった。

 山頂に近づけば、苦しむモンスターが多くなり、よりはっきりと大地の汚れを確認できた。


「そうね、浄化をしながら、原因を探ってみましょうよ」


 聖女の力【クリアラ】と【キュアル】で、大地の解毒を行っていく。

 さすがはリディ。広い範囲の浄化力とそのスピードで、あっという間に半分を終わらせた。


「あら、なんだか、毒気が強くなってきたわ」


 中央部に差し掛かった頃、そんな気配とともに奇妙なもの発見した。


 高さ3㍍の黒曜石のオベリクスが建っていて、これまた奇妙な金色の文字が彫られている。

 そして、くぼみから青黒い液体を出し続けているんだ。


「これが原因で間違いないわね」


 後始末をギルドに任せるためにも、壊さないほうがいいんだが、リディ出来るか?


「ええ、浄化の魔法と聖障壁で無効化できそうよ。ついでに重ねがけをして、コーティングもしておくわ」


 これ以上の被害を食い止めるため、素早く行動に移した。


「【クリアラ】【キュアル】うん、いいわね。仕上げに【聖障壁】」


 黒く光っていたオベリクスは、聖なる力で闇の色が抜けていく。

 最後には無色透明となり、水晶のような輝きを放つまでになった。


「毒も止まったわ、これでひと安心よ」


 発生源さえなくなれば、これ以上に苦しむものは増えない。

 そして、すべての浄化を終える頃には、日も傾いていた。


 振り返ると、美しく輝く大地へと変貌していて、夕陽に照らされとても綺麗だった。

 これが元々あるこの土地の力なのだろう。


 ただ、大地がきれいになっても、草木が持ち直すのには少し時間がいるようだな。


 今日はここでキャンプを張って、様子を見ようか。

 モンスターはあらかた片付けたし、危険はまずないはずさ。


 食事の準備をしている間も、植物はどんどん元気になっていく。

 自然の力は偉大だ。そう、足元だけじゃない。


「リディ、上を見てごらん」


「うん、えっ嘘! なんて綺麗なの」


 月のない夜空には、満天の星空が広がっている。

 特に地平線沿いに広がる帯状の星の海。〝スターリング〞と言われる夜空を一周するモノだ。

 とても神秘的で、恋人たちにとってはド定番だ。


 ここまではっきり見れるなら、ここに来た価値があるってもんだぜ。


「エイダン、連れて来てくれて、ありがとう」


「いや。付いてきてくれて感謝しているよ。

 ここはいい思い出になったよ。将来はお互いに素敵な人とここに来ようぜ」


「え?」


「え!」


 俺は何かマズイこと言ったのか? リディはムッチャ拗ねて先に寝てしまった。

 明日のあさはココアでも作って、ご機嫌とりしなくちゃな。





 次の朝になり、あたりを見回すと草木が元気を取り戻していた。

 瑞々しく茎も太くなり、ハリが出てきている。


 月光草ををはじめ、あらかじめ言われた数よりも多めに採取した。


 それと、中には珍しい薬草もたくさんあり、ツイツイそれを集めるのにも必死になったぜ。

 こういった物は、すぐに使わなくても必ずあとで必要になってくる。


 採れたのは福寿草、魔力草、背伸び茸に運命蔓。


 更に図鑑でしか見たことのない、虹人参や積乱茸まであり、片っ端から袋に詰め込んだ。

 マジックバッグがあって、本当に良かったぜ。


 帰り道は、リディが不機嫌なこと以外は何の妨害もなく、スムーズに進めて街へと無事にたどり着いた。




 少しでも早く薬草を届けるため、道具屋へ直行した。

 しかし息子さんの容態が悪くなったのか、奥さんは店先で暗い顔をしている。


「ウソ、間に合わなかったのかしら。エイダン、急ぎましょ」


 せっかく薬草を採ってきたのに、こんな結末はありえないぞ。頼む間違いであってくれ。

 俺たちの顔を見ると奥さんは、安堵の声を漏らし、その場に座り込んでしまった。


「よ、良かったよ。あんたたち無事に帰ってこれたんだね」


 どうやら俺たちを心配していたようで、子供は大丈夫のようだ。

 話を聞いてみるとその理由がわかった。


 実は俺たちが向かったすぐあとで、山から逃げ帰ってきた冒険者がいたらしい。


 月光草が高値になると出向いたけど、山全体のモンスターが毒されていて、山頂どころじゃなかったらしい。


 冒険者ギルドでも、山の危険度が跳ね上がったと判断して、調査団をすでに派遣している。


「知らなかったとはいえ、危険な目にあわせてゴメンよ。

 でも、途中で引き返してきてくれてよかったよ」


「あ、月光草だが」


「いいのよ、代用品はまだあるし、気にしないで」


「いや、採取してきたぞ、ホラ」


 話が進まないので、取ってきた物を全て店先にだした。


「ど、ど、どうやったんだい? 山頂にしか生えていないのに」


「言われた以上の数があるはずだ。確かめてくれ」


 どれも状態がよく、質も最高級だと驚いている。


「これだけあれば……ありがとう。うっうっ、さっそく作らせてもらうよ」


 月光草の光のもとをじっくりと絞り出し、数種類の他の素材と混ぜていく。

 根気のいる作業で、見ているこっちも力が入る。


「私たちも手伝います。なんでも言ってください」


「助かるよ、これをしばらく練っておくれ」


 3人とも汗をかき長い時間をかけて、ようやく薬が完成した。


「さぁ、これで良くなるよ」


 淡く光る薬が息子さんの口に入っていく。


 すると、みるみる内に容態がよくなった。

 苦しそうな息づかいや汗もおさまり、もう心配はなさそうだ。


「他の患者さんにも届けるから、ここで待ってておくれ」


 疲れているはずなのにタフな人だよ。


 それから、しばらくして奥さんが戻ってきた。全員無事に回復へと向かったと喜んでいる。


「さぁ、次はあんたの分だね。最上のものを作るよ」


 おいおい、少しは休んだらどうだ。


 奥さんは首を横に振り、命の恩人を待たせられないと、鼻息が荒かった。


 ははは、父様に人の心を動かすのも、鎮めるのも難しいと教えられたが本当だよ。


「俺の注文は、難しいけどいいんだな?」


「私のスキルを信用しなよ!」


 今日は長い夜になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ