表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/58

第16話 王のプライド

 このコカトリスは普通なら、レベル50以上のパーティーで討伐する相手だ。


 文字の力、ジョブの真髄を引き出し、最大限に能力を発揮しているとはいえ、Lv15のレンジャーでは太刀打ちできない。

 この単純な物理的攻撃でさえ、とんでもなく強力だ。


 たとえリディを救えても、今の俺では間違いなくあの世行きだろう。しかし。


「負けるかよ、うおーーーーー!」


 絶望的な攻撃が胸元に迫る。そして、いまだ俺はそれに対抗する手立てがない。

 そして、遂にクチバシが俺をとらえた。


 ――ガキィンー!


 なんだ? 鋭い音が響くも、衝撃が全くこない。


 それに痛みもなく、むしろ小鳥についばまれたような優しい感覚だ。

 よく見ると鋭いクチバシは、1ミリも刺さることなく、コカトリスは()け反っている。


 予想外のことに、この場の三者全員が驚いている。


「オマエ、本当にニンゲンか?」


 その中で俺がいち早く正気に戻り、次の攻撃を仕掛けた。

 クチバシを掴み、もう片方の手で胸元に1発叩き込んでやった。


 牽制ぐらいになるだろうと思っていたが、これまた予想以上の威力だった。

 コカトリスは、遠くの岩場まで吹き飛んでいった。


「エイダン、何が起こっているの?」


 分からない。俺の頬にはレンジャーがまだあり、剣王と左右に並んでいる。

 事態を把握するため、ステータスを確認した。


「な、なんだこれは!」


 そこには信じらんないものがあったんだ。


 エイダン·イーグル

 Lv :15

 ジョブ:レンジャー+剣王

 HP :65+440

 MP :25+160

 力 :45+320

 体力:50+265

 魔力:30+285

 早さ:40+180

 器用:50+180

 運 :5+25

 スキル:サバイバル術 気配察知 短弓術 覇王剣 縮地 合剣法 地雷震 .


「ゆ、夢と夢が合わさっているじゃないか!」


 まさかの2つのジョブが、俺に力を与えてくれている。剣王さえも上回るステータス。

 この事実に興奮をし、俺は剣を抜き構えた。


「リディ、説明は後でするけど、剣王が戻った。少し耳を閉じていろ」


 リディはその言葉で理解してくれた。さあ、ここからは今までの借りを返すぜ。


 体勢を立て直したコカトリスが、こっち向かってくる。

 それに対して俺は、レンジャーで設置した罠へと誘い込んだ。よし、ポイントにドンピシャだ。


 ――ファーーン!――


 大音量の汽笛が鳴り響き、鼓膜を破り平衡感覚を狂わせる。

 ステータスの向上で効果の上がった罠に、コカトリスはもがき苦しんでいる。


 それにこの個体は、この大地と同じく毒の呪いに侵されていて、体の至る所が崩れかけているんだ。


 暴れるたびに体の肉が剥がれ落ち、さらに痛みが重なる。


 苦しみ、半狂乱で暴れるから隙だらけだけど、苦悶と憎しみが混ざるその視線は一切俺から外れない。


「ニンゲンめーーーーーー!」


 大地を踏みしめ、怒りをあらわにして構えている。


「エイダン、新手がきたわ!」


 100匹以上ものモンスター達がなだれ込んできて、コカトリスの間に入ってきた。


 俺を牽制しつつ、コカトリスを守ろうと盾になってくる。

 種族が違うのに、まるで自分の王を守る兵士のような行動だ。


「でも何か動きが変よ。傷ついた身体を無理に動かしている感じだわ」


 他のモンスター同様、みんな毒に侵されている。

 吐く息さえも苦しんでいる者や、崩れかけた足を引きずる者、顔の半分がすでにない者と様々だ。


 それでも傷を構うことなく、全力で襲いかかってきている。

 それにより傷が広がり、足は折れ、腕はもげ、見ていて痛々しい光景だ。


 それなのに動けるだなんて、普通ならあり得ない。


 だけどみな共通して言えることは、虚ろな目には自分の意思はなく、何か別な意思によって動かされている感じがするんだ。


「邪魔だ。【八相連続剣】」


 意思がなく、限界を考えずに襲ってくる無数のモンスター。

 その圧力に押し潰される前に、できるだけ数を減らしたい。


 1つのミスが俺だけじゃなく、後ろに控えているリディの運命をも握っているんだ。


 大型の鬼ムカデや動きの速いキラーアントを先に討ち、うしろには絶対いかせない。


「凄いわ、鬼ムカデを一太刀だなんて!」


 だけどこれが本命じゃない。コカトリスが奥にいる限り安心はできない。


 しかし。


「意思のナイ人形め、我の邪魔をスルでない」


 コカトリスは、自分を守っているモンスターを次々となぎ倒している。

 献身的な一方通行の愛の拒否。いや愛どころか、奴隷とすらも見ていない。


 あまりにも無慈悲な振る舞いだ。


 だが間にいるモンスターの数が多く、倒しても倒してもきりがない。


「このままじゃ、いずれ呑まれるわ! 【パライズショット】」


 これほどの大量のモンスターを相手にするのだから、恐ろしいと思うのも当然だよ。

 でも、安心していい。多勢にはそれに対する戦い方ってモノがあるんだ。


 剣王が無敵と言われるのは、1対1の技だけじゃなく、多勢を蹴散らす広範囲攻撃もあるんだよ。


「巻き込まれて飛んでいけ【サイクロンソウル】」


 剣が切り裂く圧力と魔素が絡み合い、巨大な竜巻が現れる。

 その竜巻は多くの敵を巻き込み、中で引き裂いては上空へ放り出す。


「そっちもだ、喰らえ【迅雷】」


 目がくらむ激しい雷の剣。斬ったエモノの周りも全て喰らわんとイカヅチが走る。

 大きな音と、派手なエフェクトで一気に半分を蹴散らした。


「ほらな。こんなの何んてことないさ。俺を信じてサポートしてくれ」


 リディはハッとした顔で頷き、杖を握り締めた。


 さぁてとリディのバックアップがあれば、怖いものなんて何もない。

 まだ何十体も残っているモンスターと、その奥にいるコカトリスを睨みつける。


 コカトリスは痛みと憎しみで暴れているが、俺から意識が逸れていないのが分かる。


「私あの目が怖いわ、エイダン気をつけてね」


 リディの言う通りだ。あの薄暗い瞳の奥に怒りが満ち溢れている。


 それに他のモンスター達のように、時折意識を持っていかれそうになる事もある。

 ただその度に自身で体を傷つけ、激しく抵抗している。


 石化の王として、操られる事が我慢ならないみたいだ。


「なぜお前は、俺を求めるんだ。初めて会って俺がそんなに憎いか?」


「憎いかだと? お前らが穢れのモトを置いたセイで、苦しんデいるのだ。その代償を払ってもらうぞ」


 そう答え、削げ落ちた頬肉から瘴気を漏らし、苦しみながらも前に出てくる。


 やはりか、他の誰かがこの地に何かをしたようだ。

 その原因を取り除けば、この汚染も収まるかもしれない。


「エイダン、何かしてくるわ!」


 間に挟まれるモンスターの層が、数列となったとき、コカトリスが立ち止まり、大きく息を吸い込んだ。


「クアラァーー」


 石化ブレスではなく、麻痺効果のあるコカトリスの咆哮だった。


 リディのおかげで、耐性が高い俺には全く効かないが、あちらの被害は甚大だ。一匹も動ける者はいなかった。


「自滅行為で助かったわ」


 いや、奴の表情を見てみろよ。わざと狙ったようだぜ。


「うそっ、そんなことしたら1匹で戦わなくちゃいけないのよ」


 ああ、それが望みのようだ。リディ、すまないが手出し無用で頼む。少し下がっていてくれ。


「うん、あなたが勝つって信じているわ」


 毒に侵され、行動も支配されそうになっている。

 それなのに石化の王としてプライドが、1対1の対戦を望んでいるんだ。


 ならば、俺も数ある剣王の剣技の中で、最大奥義で応えてやるよ。


 剣技の中には一瞬で幾千もの刃を送り出す【千桜万華(せんおうばんか)】や、

 切り取った空間を異次元に幽閉する【次元斬】と、どれも相手の存在を許さない超絶剣技がある。


 だがその中で唯一、他の剣技とは一線を画する技がある。


 その剣技には一切の殺気を必要としない。

 ただひたすらに、相手の血を肉を魂を滅し、邪を祓い清め、幸を願う剣技。

 一度繰り出せば相手は絶対逃げられない。それでお前を送ってやるよ。


「我は王、何者にも屈シヌ!」


 コカトリスが石化ブレスを吐き、それと同時に突進してきた。この一撃に全ての力を込めた目だ。


 それを正面から迎え撃つ。


「穢れた体と心よ、解き放たれよ。天照流【神笑給(カミエミタマ)え】」


 放たれた光る剣閃が迫るブレスを割り、敵を捕え一刀両断する。


 コカトリスをとらえた剣閃の勢いは止まらず、大地を割り、雲を引き裂き、天へと光りの道筋を作り出した。


 それでもコカトリスの目は、まだ俺に向いたままだ。

 あまりにも一瞬のことで、相手は斬られた後になって、初めてそのことに気づくんだ。


 斬り口は光の炎で燃え上がり、端へと身を焦がしていく。

 焼けた体は灰から光の粒へと変わり、天へと昇っていく。

 あまりにも儚くて、あまりにも悲しい魂の輝きだ。


「ウラッコァ……」


 コカトリスもようやく気づき、焼かれるがまま浄化の炎に身を任せている。

 そして、完全に昇天し、最後にコカトリスが見せたのは、憑き物の落ちた瞳だった。


 上手く送れたみたいだな。


 そして、それを見届けたモンスターが、せきを切ったかのように押し寄せてきた。


「お前たちも送ってやるぜ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ