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第15話 コカトリス

 山頂は直径1kmほどのカルデラで、周りが1箇所だけ崩れていて、そこが入り口になっている。


 入り口の両脇も草木に覆われ、イバラとかが生えている。


「あのあとのエイダンったら、『俺のうさぴょん返してよ』ってグズっていたよね」


 まだ幼い頃の話をしているよ。リディは夢中になって話しているから、イバラに気づいていない。


「キャッ!」


 小石に足元を取られフラついたので、腕を伸ばして支えてあげた。

 その拍子にトゲが俺の手に刺さり、それを見たリディが煽ってくる。


「ほらね。やっぱり私がいないとダメね」


 はぁ、勝ちを譲る気がないらしい。まぁ、たまにはいいか。それよりも薬草だ。


 内側は大きな岩も転がっているが、その隙間には様々な薬草、毒草が生えている。

 きっと、ここの大地が薬草にとって、よい土壌になるんだろう。


 あまりにも沢山あり、名前のわからない草もある。

 きっとこういったことに詳しいジョブもあるはずだから、今度試してみるか。


「でも、全体的に弱々しい感じね」


 ああ、俺も気になっていた。(しお)れているものや、中には枯れてしまっている物もある。


 よくよく見ると、問題があるのは植物の方でなく、大地の方にあるようだ。

 土が青紫に変色していて嫌な匂い。毒を含んだ大地になっているんだ。


 さっきのラミアで嗅いだ毒と同じ匂いだな。


「エイダン、なにかおかしいわ。何もないこんな場所で汚染があるなんて。

 もしかしたら、誰かが意図的にやっているのかも」


 広範囲で起こる土壌汚染、生態系にも影響がでている。

 放っておいたら、間違いなくこの付近は、植物も動物も生きていけない、死の大地になるだろう。


 とそのとき索敵レーダーに、引っ掛かるひときわ大きな個体を確認した。


「シッ、静かに!」


 俺の合図に、リディも気配の変化に気付いたようだ。


「既に向こうも、こちらに気付いてるぞ」


 ビンビンと伝わって来る危険な波動。

 こちらの逃げる方向を塞いでいる動きだ。賢い個体のようだけど正体がわからない。


 罠を設置するにしろ情報が少なすぎる。ここは一時撤退を考えたほうがいいな。


 そう思い準備をしていると、まだ敵との距離があるにもかかわらず、黒い瘴気が漂ってきた。


 今までに味わったことの無いほどの、強力な毒の瘴気だ。


「戦闘態勢に入ります。【聖障壁】【リジェネ】【エクストラオールキュア】」


 逃げるにしても、これだけバフがあれば心配ない。


「待って、エイダンのHPがおかしいわ」


 リディには異常がないのに、俺のHPだけが下がり続けている。

 左手に痛みを感じた。さっきトゲの刺さったところが青紫に変色している。


 HP回復を徐々に行なってくれるリジェネ。その回復量をも上回るダメージ量だ。


「どうしようエイダン、回復魔法が効かないの。もしかしたら、呪いの類かもしれないわ」


 毒単体での効果なら、リディの魔力で抑え込める。

 つまり、それプラス違う力が働いているということだ。


 リディはまだ、解呪の呪文を習得していないので、この呪いに対してかなり動揺している。


「これぐらいのキズ大丈夫だ。心配しなくていいぞ」


「でも、HPの減少が止まらないよ」


 正体不明の瘴気、減り続けるHP、そしてヒリヒリと伝わってくるこの気配。

 Dランクの危険度としては、すでにその域を超えている。


 と次の瞬間、毒の瘴気の幕からとつぜん蛇が跳び出てきて、リディに噛み付こうとした。

 それをとっさに矢で防いだ。


 矢で弾かれた蛇も、毒に侵され青紫色に変色し、体の一部がただれている。

 そして、そのあと蛇とは思えない足音が、ズシンズシンと聞こえてきた。


「カァーコッコッコッ!」


 足音の主は、威嚇の声をだしながら現れた。


 鋭いくちばしを持つ雄鶏の体に、羽と尻尾はヘビの鱗でできている。石化のモンスター、コカトリスだ。


「危険度Cランクのモンスターがなぜいるのよ」


「ニンゲンめ。ヨクモ我を(けが)してくれたな。許サンぞ」


「しゃ、しゃべったわ!」


 上位に位置する一部のモンスターは、年月が経つと人語を話すという。


 このコカトリスも、聞いていたサイズよりはるかに大きいし、相当な経験を持つ個体だろう。

 でもそのコカトリスが、人間に恨みを持つだなんてどういうことだ?


「イタイ、イタイ、イタイー。この苦しみお前らも味ワエ!」


 鋭いクチバシで、体を突き刺そうと繰り出してくる。

 だけど痛みのせいか、一瞬タイミングがずれたので、なんとか躱すことができた。


 ただその威力はとてつもなくて、大きな岩に穴を開け2つに割ってしまった。


「ニン……ゲン……め」


 ん、止まっている? さっきまで憎悪を含んだ瞳の色は落ち着き、むしろ心ここにあらずみたいに呆けている。


 このチャンスに一旦退却するべきだな。


 そう思い索敵レーダーを見ると、逃げるべき出口の方には、いくつもの敵が集まってきていた。


 だけどまずは、目の前の敵を振り切らなくてはいけない。


 目と鼻を潰すため、残っていたトウガラシを全部撒いた。これで少しは時間が稼げるはずだ。


 もがき苦しむコカトリスは、緩んだ口元から石化ブレスを吐いてきた。


 そのブレスの色は通常の銀色でなく、青紫色の混ざったモノだった。

 きっとただの石化ブレスじゃなく、毒も混ざったタイプだろう。


 経験を重ねた個体で毒攻撃が加わるなら、危険度はCランクどころかBランクかもしれない。


 逃げなからもスキルで罠を設置していく。


 どれも決定打にはならない威力だが、足止めするには十分だ。

 なんとか振り切り、岩場の影に身を潜めた。


 しかし、コカトリスの探知能力も優れているので、いつまでも同じ場所にはいられない。


 それに集まってきている、他のモンスターが気がかりだ。

 同時に来られたら、ひとたまりもない。


 ここで一気に決めたかったが、もう1度足止めをして時間を作るしかないな。


「リディ、怪我はないな。ヤツが来たら岩を崩す。そのあとすぐに走ってくれ」


「私は大丈夫だけど、エイダンが!」


 HPの減りが早い。何もしなければ、1時間もしないうちに力尽きるだろう。

 しかし、リディに弱いところは見せられない。


「大丈夫、策はある。もう1度振り切って、そのときジョブの交換を行うよ」


 万が一のことを考えて、先に剣王を書き込み、それからレンジャーを消す。

 ジョブのない空白の時間は作りたくない。


 俺を見るリディは心配しながらも、優しく微笑んでいる。


 ――ああ、この子を守りたい――


「クラァッコー!」


 無粋なコカトリスの攻撃だ。もう少しこの雰囲気を楽しませてくれたらいいのに。


 ホントしつこいぜ。だけどこっちは頭上にある大岩に罠を仕掛けてある。

 どこまでダメージを与えられるかわからないけど、今はこれに頼るしかない。


 大岩が崩しコカトリスに直撃させた。

 舞い上がる砂塵の中、虚ろだった目に光が戻り、潰されながらも呪いの言葉を放ってきた。


「うう、またお前か。何処にいこうとも逃がさない。この目がお前を捕らえているぞ」


 その憎悪も気になるけど、この緩急はなんだ?

 意識はなかったのに、攻撃してくるだなんて、まるで誰かに操られているようだな。


 だけど時間稼ぎできたし、ようやく入り組んだ岩場にたどり着けたぜ。


「ふう~、ここなら少しは安全さ。少し見張っていてくれ」


 さっきの事も気になるけど、俺は鏡とペンを取り出し、剣王の文字を書きはじめた。

 すると背中にはリディが寄り添い、暖かく包み込んでくれている。


 もう、こんな時までムギューッを、やっている場合じゃないだろ。

 って、あれ、なんか違うぞ。リディはふざけてなんかいない。


「リ、リディ何をしている?」


 背中に感じる温かな優しい光は、幼い頃一度味わっている。俺が命を落としかけた5歳の時だ。


「ごめんね……約束を破るわ」


 ――禁断の時もどし――


 リディを感じた。


「これで私が倒れても、あなたは生き残れる」


 リディは笑顔とも泣き顔ともわからない顔をしている。

 こんな時にまで、俺を想ってくれている。そして、約束を破った自分を責めている。


 そうじゃないんだ。君を苦しませるために、約束したんじゃないんだ。

 2人でたくさん笑うため、2人で多くの時間を過ごすための約束なんだぞ。


 クソッ、その笑顔のためにも、書きかけの剣王の文字を書き上げるんだ。

 あとはレンジャーの文字を消せば、その想いが叶えられる。


 しかし、コカトリスはそんな時間を与えてはくれなかった。

 リディの後ろから現れ、クチバシでリディの背中を突き刺そうとしてきた。


「させるかよ!」


 俺は両手を盾にしてリディを庇った。


 Lv50が相手するBランクだ。俺が盾になるには圧倒的に力が足りない。

 腕はもげ、体も貫かれるだろう。しかしそんなの関係ねぇ。


 大事な人を守ると決めたんだ。少しでも長く生きていてもらいたい。


 可能性がないのはわかっている。でも足掻いて足掻いて、最後の一瞬まで諦めてなるものか。


 それが2人の約束なんだ。

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