第13話 レンジャーと聖女
リディが心配するように、レンジャーの戦闘能力は高くない。
まず接近戦はスキルもなく、期待するのが馬鹿らしい位だ。
スキルを持っている短弓術も、コッソリ忍び寄り、急所を1発で仕留めるためのモノだ。
その他の強みとしては、サバイバル術に長け、自然に溶け込みかつ活用し、罠とかで獲物を捕まえる。
要は生活術の延長と、生存術を組み合わせて持つジョブだ。
「だけど、達筆に書いたハイスペックなレンジャーは、スキルの効果もバツグンなんだ」
この山には、危険度Dランクのモンスターが多い。
普通のレベル15では、なかなか太刀打ちができない相手で、その倍は必要だ。
しかし、ジョブの特性を活かし、スキルをフルに活用させれば大丈夫さ。いま見せるから待っててくれ。
まずは敵の位置を把握するため、索敵レーダーをかける。すると大きな個体が映しだされた。
気づかれないよう気配を消して、森の中を進んでいくと、獲物を貪る巨大な鬼ムカデを見つけた。
この森で最高ランクの強敵だ。早めに叩いておくのが1番だな。
リディの待つ場所まで戻って話をする。
「向こうに鬼ムカデがいた。準備を始めるぜ」
10メートルを超える巨体で、外骨格は鋼のように硬い。
あれをぶち破るには、相応の仕掛けがいるんだ。
「じゃあ、手助けするわ。《体に翼を》《手先に翼を》」
聖魔法で、素早さと器用さを上げてもらう。聖女の持つスキルは、レンジャーと相性が良いな。
速さと正確さを持って、まずは4㍍のアンカーを地面に打ち付ける。
次に先端に滑車を取り付け、そこへ近くの木をロープで引き寄せた。
仕上げは木の先端に杭をくくりつけ、獲物が来るのを待つんだ。
ここでは力が必要というよりも、狙った通りに動くかどうかが求められる。
大がかりな仕掛けだけど、繊細さが必要なんだ。
そして、ものの1分で出来上がるその様に、リディが驚いていた。
まだまだ、ここからさ。ただじっと待っているだけじゃない。
鬼ムカデのルートを予測し、誘導する道づくりも完璧だ。
ムカデが好きなエサを置くと、すぐ鬼ムカデはやって来た。
そして、鬼ムカデがポイントに到達したので、仕掛けたギミックが作動した。
――ビユッヒュッ――グゴン――
限界まで引っ張られていた木は解き放たれ、目標めがけ襲いかかる。
狙った通りに、鬼ムカデの頭と心臓部分を突き破り、何の抵抗もなく終わった。
剣王の一撃にも匹敵する攻撃だな。
だけど驚く所はそこじゃない。その過程に至るまで、全てが綿密に計算された罠なんだ。
例えば予測したルートも普通じゃない。
足の1本1本の動きまで、思い描いた映像とピッタリと重なり合った。
更にはその力加減も絶妙だ。仕留め損ねることもなく、かといって素材を台無しにするほどじゃなく、ちゃんと歯止めが効いている。
予想はしていたけど、実際にこの威力を見ると自分でも興奮するぜ。
「エイダン、凄いわ。天才よ!
でも、ちょっとズルいわ、私の出番はどこよ?」
いや、リディの補助魔法のお陰だと言うと、笑顔になりながら怒っている。
これはお世辞じゃなく本当のこと。右頬を隠したので、ちゃんと伝わったみたいだ。
そのまま進むと、今度はキラーアントの群れに遭遇した。
なんだか群れはだいぶ興奮している。
痙攣したり、超高音の奇声を発していて、蟻にしては統制が取れていないよな。
仲間を襲いだすし、混乱していて行動の予測が立たないな。
「なんか危険そうだし、あれはパスだな」
殲滅しても良かったが、今回の目的は薬草の採取。
時間節約のため、切り立った崖をショートカット出来る別ルートとして選択した。
高さ50㍍はあるかな。岩肌を登るため、ロープを括りつけた矢を放つ。
ただロープを引っ掛けるだけだと、岩にこすれて切れてしまう。
だから摩擦する場所に、皮と滑車で出来た道具が来るようにしてあるんだ。
こういう細かい所がレンジャーの技さ。
即席ゴンドラを作り、ストレスフリーで上まで登っていくのもお手の物。
するとまた、索敵レーダーに反応があった。
「リディ、この上に10体ほどいる。何個か罠を設置するから、ここで待っていてくれ」
先行して敵の姿を確認すると、なんだか疲れた様子のラミアの集団がいた。
とはいえ、熱感知する厄介なピット器官を持っているから、それをなんとかしたい。
今度は技でなく、スキルを使ってどんどんと罠を設置して、リディの所へ戻った。
「おかえりなさい。どうだった?」
「ラミアだったよ。まずトウガラシで、ピット器官を潰す。そのあとは弓矢と罠で狩っていくよ」
「え~、また私の出番がないの?」
ははは、今回のジョブはそれが一番さ。ほら始めるよ。
予め風上に設置しておいたトウガラシを風に乗せる。
目や器官に入り、ラミアはのたうち回って騒いでいるよ。
転げ回るから、弱点は丸見えで隙だらけ。
素早く矢をつがえ、次々と放つとスパスパ決まるし、むちゃくちゃ楽だぜ。
半分を討ち取った時点で、こちらに気付かれた。
ラミアは涙と変な瘴気を吐きながら、向かってくる。
「キィシャー!」
しかし、設置しておいた落とし穴にはまり、底にある杭で絶命した。
「もう、やっぱり私の出番が……あら、毒?」
風に乗って漂ってきた瘴気に、毒が含まれているようだ。
「気をつけてね。今まで見たことのない毒だわ」
おかしいな。毒を持たない種族なのに、変異種かもしれないぞ。
だけど、身体を開いてみると、何か病気に犯されていたようで、所々変色して嫌な匂いがしている。
弱っていたのはツイていたが、素材は魔石しか取れないのは残念だよ。
「ツイているじゃないわよ。私にもやらせてよ。エイダンの役に立ちたいの」
今度のムギューッは腕に抱きついてきた。ソロソロこの癖、止めてもらわないと、俺の身がもたないぞ。
昔から優しいリディ。この子の言葉にいつも癒されるが、これはちょっと惑わされるもんな。
「ん、どうしたの?」
い、いや、なんでもないよ。そ、そうだ。今更だけど、なんで俺のところに駆けつけてくれたんだ?
聖女としての立場や仕事もあるし、無理をしなくてよかったのに。
そう問いかけると、少し上目遣いで答えてきた。
「だって、2人で誓ったじゃない。どんな時も1人にしないって」
ああ、そうだったな。
その誓いの切っ掛けは、幼いころにリディの母君が亡くなったときのことだった。
そのとき初めて、リディは禁断のスキル【時もどし】を使ったんだ。
死んだ母君にじゃなく、この俺にだ。




