第11話 今度のジョブはレンジャー
ギルドに行くと副ギルド長はヒマなのか、いつも俺にからんでくる。
「おいエイダン、いつも大量のアイテムを持ってくるよな。
いったいどんな不正をしているんだ。素直に吐け」
俺の活躍が気にいらないようで、盗んだとか、これは偽物だとかと言って難癖をつけてくる。
逆に黒い噂があるのはアンタの方だろ。
金遣いが荒いし、職権乱用や横領の話が絶えないぞ。
それを棚に上げての話は余りにも幼稚だし、構っていたらキリがない。
呆れるのを通り越して笑える相手だけど、そこはグッとこらえて無視をすることにしている。
「逃げるな卑怯者め」
さっきからずっと俺のあとをついて、ぎゃーぎゃー騒いでいるけど、この人このまま来ていいのかな。
「はぁん? やはりな、後ろめたいことがあるから、付いてこられたくないんだろ。
うげっ、メグミン! おぇっぷ、う、う、う、うげーーーぎもぢわるいーーーーーー」
あーあ、冒険者はクエスト完了の報告で、必ずギルド嬢を通すだろ。
今のあんたの天敵に近づいてどうするんだ。救えないヤツだぜ。
こんな奴は別にして、俺自身は冒険者ギルドのクエストをこなし、充実した毎日を送っている。
Dランクモンスターの素材売却により、資金にもだいぶ余裕が出てきた。
装備もミスリルの剣を購入したし、多少はサマになってきている。
それに装備をソコソコだとしても、俺の一番の強みは自由に〝才能〞を書けることだ。
その才能で、世界一の剣豪にもなれるし、真理を追求する賢者にもなれる。
まさに最高の人生を手に入れたんだ。
ただ問題がないわけじゃない。
その効果は、文字の綺麗さで上下するんだ。
にじんだり薄くなったりすると能力が低下したり、ヘタをすると効果を発揮しない。
消えにくいインクもあるが、これもまた問題なんだよ。
書き直すとき、前のが少しでも残っていてその上に書くと、汚い文字としてや、無かったモノとして判断されるんだ。
急いでいるときは、邪魔になってしょうがない。
だから、今日は自分の要望に合う道具を、町に出て探すことにした。
汗水に強く、書き直すときにはサッと消える物がいい。
まずは以前のチョーイケメンの時に、HPポーションをくれた道具屋に行ってみるか。
「いらっしゃい。あれ?
お客さん初めてじゃないよね。でも気のせいなのか、前に会った時とはどこか違うような」
イケメンの時の俺と、同じ人物だと認識はされているみたいだ。
でもイケメン効果がない今、心へのアプローチに若干のズレがあるみたいだな。
ものすごく不思議だけど、このことも文字の効果なのかもしれない。
日替わりで文字が変わっても、みんなに受け入れてもらえそうだ。
安心したところで俺は早速、インクのことを奥さんに相談してみた。
「う~ん、悪いわね。助けてあげたいけど、今の私じゃあ」
少し歯切れは悪さが気になるけど、無理じいするわけにはいかない。
仕方なく他のところを当たることにした。
「これは困ったぞ」
あれから町のどこで話を聞いても、そんなものはないと断られ続けた。
唯一望みがありそうなのは、最初に訪れた道具屋だけ。
しかし、何か事情がありそうで、簡単にお話が進みそうにないんだよな。
チョーイケメンでいってみるか。いやいや、それってロクデナシのする事だな。
俺の性分には合わないし、別の方法を考えるか。
正面から堂々と、誠意をもって当たるとなると【交渉人】という手もあるぞ。
エイダン·イーグル
Lv :15
ジョブ:交渉人
HP :50
MP :20
力 :25
体力:35
魔力:40
早さ:20
器用:20
運 :5
スキル:交渉術 鋼の心 煽り耐性 .
冷静さを保ち、物事に向かっていく交渉人らしいスキルだざ。
「いらっしゃい。さっきの人じゃないの。他のところで見つかったかい?」
よっし! 文字が変わっても完璧じゃん。こりゃすげぇ楽だわ。
「やっぱりダメだったかい。普通の人じゃ難しい注文だもんねぇ」
〝普通の人じゃ〞って事は、この奥さんならできるってことだな。
期待を膨らませ、早速交渉しようとした。
でもさっきは気付かなかったが、店の奥からかすかなうめき声が聞こえてくる。
「奥から苦しそうな声だが、大丈夫か?」
「ふぅ、息子さ。本当はお客さんのも作ってやりたいけど、流行り病の薬を作るので手いっぱいでね。
うちの子だけじゃないし、あの子達の事でかかりっきりなんだよ」
聞けば、近隣の住民が半年ほど前から、体調を崩している。
薬は存在するけど高額だし、市場になかなか出回らない。
奥さんはスキル【改良】を使い、他の薬で代用しているらしい。
ただ最近はその薬も効果が薄く、つきっきりで看病しているそうだ。
可哀想に。幼い我が子の弱っていく様を、見ているのは辛いだろう。
「だったら俺が採ってきてやるよ」
「な、何言ってんだい。材料が採れる山は危険だよ」
「なんてことないさ。全て俺が叶えてやる」
「ほ、本当かい? 信じていいんだね。信じてしまうよ」
Dランクのモンスターが住処とする、険しい山の山頂に生えているそうだ。
ただ一口でDランクと言っても、一般の人には当然無理だし、戦闘スキルを持っている者でもレベル30を超えないと難しいエリアだ。
それと同じレベル帯なら、他にもっと良い稼ぎ場所もある。
つまり危険度が高いのと、実入りが少ないという理由で、敬遠されがちな狩場だ。
だから薬草も入手数が少なくなり、奥さんも困っているんだ。
「目当ては月光草といって、昼間でも淡く光っている薬草さ」
それだったら俺でも見つけやすい。
月の魔力と自らの持つ浄化能力で、これが病の特効薬となる。
「それと日蝕草も採ってきなよ。それで特殊なインクが作れるはずさ」
息子さんの病気が治ってから、改めてお願いしようと思っていた。
しかし、向こうから言ってくれるとは、有り難い。
俄然やる気が湧いてきたぜ。まずはギルドの資料室で、山自体とモンスターの事を調べないとな。
資料室でしらべてみると色々と分かった。
目的の山は、道がないほど草木が生い茂る所らしい。
毒虫にも気をつけながら、道に迷わず登らなくてはいけない。
そうなると、これは剣王の出番じゃないな。
森での行動に強く、自然の猛威に対しても打ち勝てるジョブ。
一番最初に浮かんだのは、【レンジャー】だ。
エイダン·イーグル
Lv :15
ジョブ:レンジャー
HP :65
MP :25
力 :35
体力:50
魔力:45
早さ:40
器用:50
運 :5
スキル:サバイバル術 気配探知 恐怖耐性 短弓術 .
ピッタリのスキル構成だ。
しかし、ステータスの数値は、素の時の俺と比べても、多少高い程度だ。
環境に対してのジョブだといえるな。
ただこれだと、Dランクのモンスターを相手するには、心もとないんだよな~、どうしよう。
出現する上位のモンスターは、ラミア、鬼ムカデ、キラーアント。どれも特殊攻撃を持つ、厄介な相手だし困ったぞ。
いくらサバイバル術を極めているとしても、無傷では済まない。
そうなると、協力者が必要になってくるよなぁ。
例えば、状態異常が起こっても、フォローしてくれる癒し手とか。
何人かの同じレンジャーと組み、罠でハメ殺しをしていくとか。
悩み考えていたとき、後ろから肩をポンポンと叩かれたので振り返った。
「エイダン。やっぱりここにいたのね。凄くすっごく心配したのよ」
そこに立っていたのは、控えめな笑顔の少女。彼女の登場で周りがザワついている。
それは彼女が、とんでもない美少女というだけが理由じゃない。顔にあるアザのせいなんだ。
「辛かったでしょ。1人にさせてゴメンね」
幼馴染のリディ·ローレンス。変わらない彼女を見て、すごく安心している自分がいたよ。




