第1話 追放ってなんだよ
2022年2月24日木曜日に新作をスタートさせました。
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詳しくはあとがきで。
「「エイダン様、おはようございます」」
「みんな、おはよう。今日も忙しくなるから、頑張ろうな」
「「はい!」」
俺の名前はエイダン·イーグル。カリプス王国の子爵家の跡取りだ。
だが、両親が突然死んだことにより、〝跡取り〞とノンキに言っていられなくなった。
王家のため民のため、懸命に働かなければいけない立場となったんだ。
「俺に客? ははは、忙しいな」
悲しむヒマもない。いや、これも当主の務めか。
ところが、やって来たのはこの国の法務大臣で、突然おかしなことを言い出したんだ。
「ふん、貴様がエイダンだな。遺産となるもの全てと、その地位をめし上げ、追放処分とする。今日中にここから出て行けよ」
俺を虫けらでも見るかのように言い放った。俺にとっちゃあ『はぁ?』だよ。
国の重鎮が、直接出向いてくるなんてただ事じゃないし、ましてや追放だなんて信じられない。
「ま、待てよ。あっ、お待ちください。これは何かの間違いでは? 領地運営も健全ですし、王の不興を買うようのことは、一切しておりません」
いきなりのことで、全く事態が把握できない。とりあえず、話をきちんと聞いて……。
「なんだ、クズがまだいたのか。この屋敷の中で、お前のものは何1つもないぞ。勝手に触るなよ」
何だこの人。一方的で話が通じないぞ。
俺は嫡男だし兄弟も他にいない。それに書類にも不備はないはずだ。
「書類に不備はないだと? お前自身に不備がありすぎだろ。いや、何も持たない【無能者】め」
まただ、この言葉をなんべん聞いた事か。うんざりだぜ。
「【無能者】とは理解力も乏しいのだな。いいか、この王国に必要なのは、私のように顔の何処かにちゃんと、スキルなりジョブが書いてある【有能者】なのだ」
そう、大臣のアゴには【執政官】という文字があり、俺の目に飛び込んでくる。
この世界では、誰もが自分の生きる道しるべとして、才能がアザとなって、顔に浮き出てくるんだ。
子供が生まれると、このことをすぐに確認し、その子の将来を喜ぶのが慣わしだ。
【勇者】の文字がある者は、その力で人類の光となれるし、【商売繁盛】とあれば、商売人として未来は明るい。
これは当たり前のことだし、誰もがひとつは持っていて、云わばそのアザが名刺代わりとなる。
そう、アザがない人間なんて1人もいないんだ。
「国や民も、君には期待していないのだよ。それとも何か、アザもないのに秘めたる力でも持っているのか? えっ、答えてみろ」
いや、俺にもある事はあるんだ。
ホクロかと見間違えるほど、ゴク小さく書かれた文字【全てを叶える者】だ。
いっけん凄そうなコレも、実は何の役にも立たないシロモノだった。
ステータスを開いてみても、そこにはジョブはおろか、スキルの一つさえも表示されないんだ。
この落差には、両親と共に打ちのめされたよ。
【全てを叶える者】なのに、自分の将来に何一つ希望を見いだせない。
そう、俺は世界でただ1人の世にも奇妙な、何も持たない【無能者】なのさ。
しかしだ! それと相続問題とでは話がちがうぜ。
「私を廃嫡するとしても、他に相続できる者はおりません」
そうなんだ。王国法がそれを許さない。
貴族が遺産を相続することは、王家に対する忠誠や義務も引き継ぐことを意味する。一般のそれとは違うんだ。
とそのとき、扉が勢いよく音を立てて開いた。
「いいや、エイダンよ。それはお前が心配することじゃない。あとの事はこの高貴な英雄、ブレッド様に任せるがいい」
甲高い声で騒がしく入ってきたのは、金髪の太った男だ。
この男は母方の遠い親戚で、俺と同い年のブレッド·ゴールドマン。
【重騎士】のアザを持ち、うちの家より格がある伯爵家の4男坊だ。
小さな頃から家柄を盾に、嫌がらせをしてくる迷惑なヤツなんだ。
「はぁ~ブレッド、また変なこと言い出したな。いくら従兄弟だとしても、君にそんな権利はないんだぞ。
後で相手してやるから、いまは引っ込んでいてくれ」
「おめでたい奴だな。遺言状がここにある。しっかりと見て、現実を受け入れろ」
受け取った内容は、財産すべてをブレッド·ゴールドマンに託す、という内容のものだった。
「お前のクソ親父が、泣きながら頼んでくるからよぅ、しょうがなく受け継いでやるんだ」
しかし、俺は気付いた。
父が書類作成のときに、真偽を明らかにする隠し符丁がどこにもない。
こんな偽物を用意してまで、だまし取ろうとするなんて絶対に許せない。
ちょうどいい具合に法務大臣もいるし、白黒はっきりつけてやるか。
「父を侮辱するのはやめろ。これは明らかに偽物だ。父の隠し印がどこにもない。この偽装は極刑に値するぞ」
こういった細工があるの当たり前。この従兄弟は昔っから、あと少しが足りないんだよな。
「ぶひひ、もしこれが偽物だとしても、【無能者】のお前がいる限り、これは本物になるんだよ」
はぁ~、相変わらずバカは、とんでもない開き直り方をするもんだ。
このあとはいつものパターンで、自分の間違いに気付き、逆切れ発狂してくるんだよな。
だけどおかしい、いつもと違うぞ。今回のブレッドは、余裕の表情を見せている。
「ぶひひ、お前は小さな頃から、何1つ変わっていない。どうせまた、正義が勝つとでも思っているんだろう?」
「当たり前だ。大臣もいらっしゃるのだ。法の裁きを受けろ」
その言葉に大臣は、歪んだ笑顔を浮かべて話し出した。
「愚かだな、エイダン·イーグル。
その書類を作成するとき、私自身が証人として、立ち会っているのだよ。この意味が解るかい?
つまり、私がこれを本物だと言えば、これは本物になるのだよ」
「えっ、今なんて?」
「そして、既にこの遺言書は有効とみなし、ただちに権利の移動をしておいてあげたよ」
言葉を失ってしまった。この偽物を法務大臣自身が作っただなんて。
「やっと気づいたのか? 無能者の存在は偽物よりも軽いのだよ」
これは出来レースだったんだ。
父の病気と俺のハンデをよいことに、全てを奪い取る算段をつけていたんだ。
「新領主ブレッド·ゴールドマンよ。君ならお父上も聡明な方だし、期待しているよ。
さぁ、不遜で役立たずの怠け者を、サッサと追い出すのだ」
分かっていたけど、貴族社会とはなんて汚い世界なんだ。ウンザリするぜ。
「ぶひひ、2度とこの領地に近づきたいと思わないよう、たっぷり可愛がってやるぜ」
ガラゥンと鈍い音を立て、ブレッドは大剣をかまえた。マジかよ、本気でやる気だ。
「うまく避けろよ、そりゃ!」
上段からの迫力ある振り下ろし。当たればひとたまりもない一撃だ。
だけど、遅い、鍛えた俺には遅すぎる。
難なく避けていくと、ブレッドの息があがり始めた。
「はぁっ、はぁっ、チョコマカと、くそ。こんな絵まで俺様を馬鹿にしやがって」
何て事を! イラつくブレッドが父様の肖像画を斬りやがった。
「ぶひひひっ、隙だらけだ《ショルダータックル》」
ブレットの姿が、視界から消えた一瞬の出来事だった。
俺は派手にふっ飛ばされ、壁に激突し動けなくなった。
「がはっ! ま、まだだ」
鍛えていなくても、この威力か。
「おーおー、強がっちゃってよ。だが所詮、スキルのない奴はこんなものだ。ブヒッヒッヒッヒー」
「エイダン·イーグルよ。本日のこの時より、お前の貴族としての権限を全て剥奪する」
「どこへでも行くがいいさ。一般市民のエイダンちゃん。ブヒッヒッヒッヒー」
こうして俺は貴族としての最後の命令を受け、すべてのものを失ったんだ。
しかし、これをキッカケに俺の人生は、今までにない方向へ大きく舵を切っていた。
才能なしで苦しんだ人生。それを脱却する、まさに大逆転の始まりだったんだ。
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題名
スキルレベル1/神から始まる、従魔なしのテイマーくん~奇跡のユニークジョブなら、その支援効果と従魔が桁違い。最強種族でさえ、僕のチビッ子従魔には勝てないです。それでも追放なんですよね?
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ぜひ読んでください。