第七話 二つ目の街◆BUG2
第七話 二つ目の街◆BUG2
初めてのフレンド登録をへて、パーティーを組むことになった美都とカナは次の街へと向かうべく、森林エリアに沸き出るモンスターを倒す悪戦苦闘の戦いを繰り広げていた。
「キャロ! とっしん!!」
「ファイア!!」
カナの使い魔である四足歩行の鳥型モンスター、キャロはモンスター目掛けて突進しながら敵を倒していく。
一方の美都も、拙い動きながらもモンスターに向けて魔法を放ちながら敵を倒していた。
ーーーーとはいえ、
「え、っちょ!? なんでこっちに向かってきてるの!? 敵はあっち!!」
「キャロ止まって!!」
カナの命令を無視してキャロが美都に攻撃を仕掛けにいったり、また美都が誤って放った魔法が敵の巣を壊してしまい、蜂型モンスターの大群に襲い掛かられたり、と。
まぁ、色々あったわけなのであるが……。
ーーーーそうこうしながらも、やっとこさ何とか森を抜ける事が出来た二人は、
「「っ、ついたぁ〜!!」」
ついに二つの目の街に辿り着く事ができた。
その大門前で背中を合わせながらその場に座り込み、共に溜息混じりの声を上げる美都とカナ。
「何とか夕方までに……つけたね」
「はい。美都さん、本当にありがとうございますっ」
大門からでも見える広場中央の時計台の時刻を見ながら、そう言う美都に対し、カナは未だ興奮がおさまっていないのかハイテーションで立ち上がり、まだ動けます! と意気込みを見せる。
だが、その時。
「あ、お母さんからだ」
どうやらカナに向けて、一通のメールが届いたらしい。
カナが自身の瞳に映るメールを開き、その内容を確認する。そして、文面を読むにつれてさっきまでのテーションがゆっくりと落ちていくのが目に取るようにわかった。
「あ、あの、美都さん。私……そろそろ、夕飯の時間があって」
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから」
今の時間を見るに、夕飯の準備を手伝って、と親に言われたのだろう。
「……ぅぅ」
唇を尖らせ少し残念そうな表情を浮かべるカナ。
そんな少女に美都は苦笑いを浮かべつつ、
「まぁまぁ、何とか二つ目の街まで来れたんだから。また時間がある時にでも一緒に行こう?」
「い、いいんですか?」
「うん、いいよ」
「あ、あの! 明日とかも! い、一緒にクエストに行ってもいいですか!」
「いいよ。私も時間はあるし」
美都の言葉を聞き、嬉しそうな笑顔を見せるカナ。
そして、二人で明日の何時頃に集合するかを話し合い、
「それじゃあ明日のお昼が過ぎた一時頃、あの広場の時計塔で集合しよう」
「はい!」
カナは元気良い返事を返した後、それじゃあ、また明日! と手を振りながら一足先にゲームをログアウトしていくのであった。
美都はカナを見送った後、小さく息をつきながら夕暮れが差し掛かる空を見上げる。
そして、ふと親のメールを見るカナの姿を思い浮かべてながらーーーー美都は思い出してしまう。
「お母さん……か」
『………………」
その独り言にどういう意味があるのか。
それは、美都を除く、もう一人の人格であるヒトミにしか理解できない言葉であった。
◆ ◆ ◆
ゲームからログアウトし、軽い手料理で夕食を食べ終えた美都はテレビを見ながらヒトミに尋ねる。
「ヒトミはどうする? 今からでもする?」
『うーん、そうね。ちょっとあの街の中とか探検したいし』
「うん、わかった。それじゃあ、ちょっと先にお風呂だけ入らせてね」
『りょーかい』
そして、ヒトミの返事を聞いた後、美都は固まった体を伸ばしつつ風呂場へと歩いていくのだった。
『あ。後言っておくけど、またお風呂で寝落ちたりしないでよね』
「うぐっ、わ、わかってるよー」
◆ ◆ ◆
美都がVR機器をつけたまま眠りについた後、人格を交代したヒトミはゲームへとログインした。
そして、二つ目の街の中を見渡し、身振り容姿を確かめたのち、
「さーて、と」
ヒトミは一瞬立ち止まりながらも、何事もなかったかのように足を動かし色々な情報収集をかねた街の探検を始めるのであった。
「………………」
ーーーーヒトミから数十キロ離れた場所の物影からこちらをジッと見つめる者の監視をされながら。
◆ ◆ ◆
時間帯は、夜の十一時。
後一時間で深夜に入る頃合いだった。
とはいえ、ゲーム内ということもあり、街中にプレイヤーが絶えないこともそうだが、まるで現実のリアル感を出すかのように露店が通りにちらほらと開店している。
ヒトミは露店の一つでちょっと串焼き一本買い、食べ歩きをしながらそんな通りを歩いていた。
鍛冶屋や薬屋といった場所を確かめつつ、また街の配置なども確かめていた。
「…………」
そして、三十分ほど歩き終えた上で、ヒトミは露店の直ぐ横にある細道へと進んでいく。
そのジグザグとなった、死角の多い通路を進んでいく。
ーーーー先に行ったヒトミの足跡を慌てて追い掛ける、その人影もまた……
「ねぇ」
「!?」
だが、その次の瞬間。
その人影の首元に刀の刃が寸止めの距離で横から差し込まれた。
そして、
「私に何かよう?」
空に浮かぶ月光で地上が照らされる中、ヒトミは武器を構えながら、そう尋ねるのだった。
ーーーーそこにいたのは、ニット帽を被った一人の少女に対して。
◆ ◆ ◆
路地裏から場所を変え、今いるのは街の中の一角にある酒場。
和気藹々とプレイヤーたちがはしゃぐ中、ヒトミと謎のニット帽少女は二階の隅にある席に腰下ろしていた。
そして、
「情報屋、ねぇ」
「本当ですよ!? 嘘じゃなくて、その、職業にはないんですけど一応このゲーム内でのサークル的な感じで作ってて」
ニット帽少女ーーコノハはヒトミによる尋問を掛けられていた。
まぁ、尋問というよりはーー恐喝に近い気もするが……、
「いやぁ、それにしてもそのレベルでこの街まで来るなんて凄いですね! 流石、レベルが十も離れたプレイヤーを倒しただけはありますね!」
「そんな大層なことじゃないわよ。それに、それを言うなら貴女の方が凄いじゃない。ーーーー街での噂を聞きつけ、待ち伏せ、尾行までするんだから」
ニッコリと笑って言うヒトミ。
対して、その笑みに若干ビビるコノハ。
「……あ………あの、やっぱり怒って」
「怒ってないわよ? ただ昔から誰かに目をつけられるような視線に対して『ちょっとイラっ』とすることがあるだけだから」
「やっぱり怒ってるじゃないですか!?」
絶叫して椅子に縋り付くコノハにヒトミは眉間をピクピクさせる。
まぁ、正直怒っているのは事実であるのだが。
だからといって、すぐに斬りつけるつもりは毛頭もなかった。
「とりあえず私の事をこれ以上、後をつけない・探らない・言い触らさない。この三つを守ってくれるなら、私からは何もしないわ」
「は、はぁ」
「まぁ、守らなかったら、この刀のサビにするだけだし」
脅し込みでそう言うヒトミにコノハら顔をひくつかせ、この人なら本当にやりかねない、と思う彼女なのであった。
そして、コノハは大きな溜息を吐きながら渋々その約束を了承した。
だが、それでも諦めがつかずで愚痴をこぼす。
「はぁ、せっかくの大きなネタだと思ったのに」
「他にもあるでしょ、ネタくらい」
ヒトミはそう言って呆れた表情を向けるが、そんな中でコノハは、
「あるといえば、最近だとバグが出た、とかぐらいで」
「バグ?」
その言葉に反応を見せるヒトミ。
だが、そんな彼女の様子に気づかずにコノハはテーブルに出された飲み物を飲みながら、その詳細を口にするのだった。
「何でも、初期地点のフィールドに高レベルのモンスターがリポップされるそうなんですよ」
◆
その場所は、ゲーム初期開始地点とは別の場所。
二つ目の街に向かうために通らなければならない、森林エリアの深い場所だった。
そして、その森の木々に隠れたそこには、ひっそりと穴の空いた洞窟があった。
ーーーーそして。
バリバリ、ボリ、バリ。
グギャ、ガギッ、ゃめ、バキバキ。
ぁ、ああ! っバキっ!!!
穴の中から聞こえて来るその音は恐怖を深く刻み付けるほどの不気味さを含ませていた。
手に取る、素材、モンスター、そして、プレイヤー。
それらを己の欲を満たすべく、食べ続ける音。
そして。
穴の奥で光る無数の赤い光。
それらは皆同じ事を思考する。
ーーーー食べたい。
ーーーーーー食べたい、食べたい、食べたい!!!
と。