第五話 出会い
身に覚えのない、突然の通知メール。
うーん、悪い夢かな? と今朝見たその内容に現実逃避する美都は、一度大きく息を吐きながら内側で眠るヒトミに呼び掛けた。
そして、眠たげな声で返事を返す彼女に対して美都は尋ねる。
チャレンジイベントに優勝したとか、そんな事なかったよね? と。
対するヒトミは未だ眠り足りないのか、眠たげな声のまま、しばし沈黙。
そして、
『なんかイラッとしたから、速攻で倒した』
そう答えて、眠りにつくのだった。
…………え?
「ねぇ、今なんて言ったの!? 嘘だよね? ちょっと!!」
『ぐーー、ぐーー』
「ちゃんと答えてよー! ヒトミーー!!」
ーーーーというのが、今朝起きたちょっとした騒動だった。
◆ ◆ ◆
食事を終え、家事を片付けてゲームにオンラインした美都。
だが、今現在彼女の心境は全くゲームを楽しめずにいた。
ーーーーというのも、
『ねぇ、聞いた? レベル20のガモンを倒した奴がいるんだって』
『なんでもレベル5がだろ? いやいや、嘘だろ』
『いや、それがマジらしくて、見てた人たちもいたって』
セーブポイントでも始まりの街。
その中央広場では今まさに、ヒトミの噂が新米プレイヤーたちの間でもちきりであったからだ。
しかも、その上、
『ねぇ、あの子じゃない? 例の』
「!?」
『いや、違うだろ。だって例のプレイヤーって侍の職業だったんだろ? あれ、格好からして魔法使いだろうし』
どうやら格好とは別に、美都の顔立ちなどがまんまヒトミと似ているらしい。
なので、かれこれ数回声を掛けられ、
『人気者じゃない、美都』
「(誰のせいかな、本当にっ!!)」
クスクスと頭の中で笑うヒトミに、ムカムカしながらローブのフードで頭を隠す美都。
そして、泥棒みたく物陰に隠れたり、人目を避けたり、としていたが、それも次第に限界を感じ、
『うーん、まぁ、仕方がないわね』
「そうだね、はぁ〜」
ヒトミと話し合った結果、この街を離れ、一足先に次の街へと向かうことが決定したのであった。
尚、注目の的であるヒトミが出ていくわけにもいかず、話の流れで美都が先行する羽目に遭うのであった。
◆ ◆ ◆
『いや、なんていうかこのゲームだと私の認識って普通の人よりちょっと早いみたいなのよ』
「ファイアーっ!」
『それで体も動かしてみると、また偶然にも動きもついてきてね。……つまりはちょっと早く動けるってわけ』
「ウォーター!!」
『だから皆より少し早く動けるあたり、チート的な感覚を感じるのよね。本当に』
「ウィンド!!」
一人ぼやくのように語るヒトミは、そこで言葉を止め、美都に声を掛ける。
『ねぇ、聞いてる?』
「今この状況で言う!? 私モンスターの大群に襲われてるんだよ!?」
街に出て数時間後。
森の中で虫型モンスターの大群に襲われていた美都は、涙目で悲痛な叫びをヒトミに返す。
『だってこっちは暇だから』
「こっちは全然暇じゃないから! 後にして!!」
迫り来るバカデカミノムシモンスターに魔法を撃ち、逃げる美都。
とはいえ、不幸中の幸いにも、ミノムシモンスターの動きが遅かったおかげもあって何とか凌げている状況だった。
すると、そんな中で、
『ねぇ、美都』
「何!」
美都の動きを茶化しながら見ていたヒトミが、不思議そうに声色で彼女に尋ねた。
『モンスターの場所くらい、美都なら感覚でわかるでしょ?』
「…………はい?」
全くわけわからん事を言うヒトミに目を点にする美都。
しかし、対するヒトミは冗談で言っているわけではなく、
『だから、美都ならわかるでしょ? モンスターがいそうな気配とか』
「何その常識? 普通に考えてもわかるわけないんだけど」
『そぉ? 私はわかったんだけど』
自分の常識で話すヒトミに美都は片眉をピクピクさせる。
しかし、ヒトミは少し考えた上で、
『 何も自慢してるわけじゃないのよ? えーっと、気配っていうか。あ、そうそう、美都が私を感じるような、そんな感覚を周囲に向けてみて』
「…………あ、あの」
『はいはい、文句はやった後で聞いてあげるから。ほら』
ヒトミの言葉にモヤモヤしながら、美都は何となくの感覚で周囲に意識を向ける。
ーーーーそして、それはほんの小さな感覚を感じ、
『はい、そこに向かって撃つ!』
「う、ウォーター!」
急かされるように、手から水の魔法を撃ち出す美都。そして、魔法は少し離れた茂みに向かって直撃した。
すると、その直後。
水が当たる音に遅れて、
「ギャウ!?」
虫型モンスターとはまた違った鳴き声がその茂みの奥から聞こえてきたのだ。
『ほら、言ったとおりでしょ?』
「いや、今はそれよりもっ」
ヒトミは自分の言ったことが当っていた事に得意げな声を出す。
だが、対する美都にはそれに反論する余裕はなかった。
ーーーー何故なら、
「ギャァゥゥゥッ」
茂みから唸り声をあげて出てきたのは、何と犬ぐらいのサイズをした二足歩行の鳥型モンスターだったからだ。
そして、びしょ濡れになった顔を振りながら、怒りの形相で美都に向かって突進して来ようとする。
『美都! 魔法!』
「えっ、え!?」
ヒトミの声に慌てつつ、美都は急いで魔法を撃ち出そうとした。
だが、そんな時だった。
「待ってください!!」
その叫びに続くように、鳥型モンスターに向かって飛び掛かるようにして一人の少女が姿を現した。
そして、美都とヒトミが呆然とする中、少女は暴れるモンスターを抱きしめながら、叫ぶ。
「ごめんなさい! この子は私のモンスターなんです! だから攻撃しないでください!!」
自分の子だと言って、モンスターを引き留め涙目を浮かべる少女ーーーカナ。
それが二人の出会いだった。