第四話 チャレンジャー
第四話 チャレンジャー
「ふっ!!」
街を出て直ぐの草原。
そこに出現されるモンスターを狩り始めて、早二時間。
「こんなものかな」
刀を鞘に収めるヒトミはそう言って、大きく息を吐いた。
視界の左上表示にはレベルとゲージが書かれており、そこには既にレベル5の数字が記されている。
(それにしても、結構モンスターを倒したつもりだったんだけど、思ったよりレベルが上がらなかったわね)
本来そこらにあるゲームでなら、二時間ぶっ通しならレベルは十桁をいっていてもおかしくはないはずだった。
だがしかし、そこはVRMMORPGの世界なだけあり、難易度も高く、中々簡単に上はあがらせてくれないのだろう。
ーーーーとはいえ、
(そう考えると、私って色々ずるいのかな)
この数時間が、偶然にも知ってしまった、ある事実を気にしながら、
「……まぁ、……とりあえず街に戻ってみようかな」
これ以上、あーだこーだ考えても仕方がない。
ヒトミは一先ず考えることを止め、セーブポイントがある街へと帰ることにした。
何も今日が最後、というわけもないのだからと思いながら……。
◆
街に帰り、今日はこれでゲームを止めにしようと思っていたヒトミ。
だが、そんな時。
『はい、やってらっしゃい、みてらっしゃい! これよりチャレンジイベントが始まるよー!』
街にある少し大きな広場。
呼び子であろう女性の声が聞こえてきた。
そして、その声に反応して人の溜まり場が出来つつある中、ヒトミは首を傾げながらもちょっと興味本位で近づいていく。
『ルールは簡単! ここにおられる大男。ガモンを倒せた人に賞金十万ゴールドをお渡しします! さぁ、挑戦したい人は寄って寄って!!』
それは個人プレイヤーが主催する非公式のチャレンジイベント。
このジェルダクタスオンラインの世界であるからこそ出来る、ちょっとしたミニゲーム的なものだった。
そして、イベント内容もまた簡単であり、プレイヤー一人を倒せば賞金が出る。
その額は、十万ゴールド。
だが、その額は決して高級なものではない。
何故なら、高レベルになれば早数時間で簡単に稼げてしまうほどの値段だったからだ。
ーーーーとはいえ、
(でも、初心者でそれだけ貯めるのって大変なのよね……)
草原でモンスターを倒しまくって、貯まったゴールドはたったの五百ゴールド。
…………十万ゴールドは、初心者にとっては途方もなく、また間違いなく飛びつきたいほどの値段だった。
『さぁ!どうぞどうぞ!!』
そして、主催者の思惑どおり初心者プレイヤーたちが続々と挑戦しては倒れを繰り返していた。
もう早、五十人近くが挑んでいるが、未だ勝利者が現れない。
だが、それは無理もない。
何故ならガモンという大男のレベルは20。
ここにいるプレイヤーたちとはゆうに10レベ近くも差があるのだから。
そして、大男もまたその勝利に優越しているのか、隠す気のない笑みが顔から零れ落ちている。
(……あー、これってアレか。初心者イビリか)
どこにでもある弱者へのいじめ。
それはリアルでない、ゲームであっても消えることはない。
ヒトミはそんな現場を目にしながら、関わるのがアホらしくなり、その場を去ろうとした。
正直、男の笑い声を聞いているだけでも虫唾が走って仕方がなかった。
ーーーーだが、その時。
「きゃぁ!?」
「ほらどうした! 俺様に勝てなきゃ、お前ら皆このゲームをやる価値すらないぜ!!」
その場に背を向けようとした、ヒトミの瞳に。
大男が嘲笑いながら、まだ歳はも行かない少女プレイヤーを蹴り倒す。
その光景が映ってしまった。
そして、脳裏に差し込む。
もう一人の少女がいじめられていた光景が。
「…………」
そして、ヒトミの歩んでいた足を止まった。
「…………」
そして、ヒトミは無言のまま足を踏み出した。
「…………」
ーーーーそして、倒れる少女プレイヤーの隣を通り抜け、
「あ? 次はお前か?」
そう言って次に現れた低レベルのプレイヤーに対して、笑うガモン。
その上、ガモンは、ハンデとして最初の攻撃を許してやる、と意気揚々にその言葉を口にした。
だから、ヒトミはーーーー
「そう…………だったら」
口を開きつつ、刀を抜き構える。
そして、目を細め、足や手に力を溜めーーーーーー
「アンタから先にやった事なんだからーーーー後から反則だなんて言わないでよね」
そして、次の瞬間。
ガモンの笑い声を切り裂くように。
ドドドドドッ!!!!! というクリティカル時に発生するヒット音がその場に響き渡り、
「……が、ッ」
周囲にいたプレイヤーたちが驚く中、ガモンという名のプレイヤーは事切れるように地面に倒れ落ちたのであった。
◆ ◆ ◆
ーーーー翌朝。
外から聞こえる小鳥の声で目を覚ました美都は、両腕を上げながら大きく体を伸ばす。
そして、視界を開けたそこは自分の部屋であり、感覚もヒトミではなく自分にある事を確認しながら、
(ヒトミもちょっとはゲームを楽しめたのかな)
枕元に置かれたVR機を見つめながら、そう思う美都。
と、そんな時。
スマホから着信音が聞こえてきた。
「ん? なんだろ、メールかな?」
美都は至って普通にメールのアイコンを押して、今届いたメッセージを開く。
どうせ広告メールだろうと、思いながらーーーー
「…………え?」
だが、そんな気軽な思考も瞬間に固まった。
何故なら、そのメールの内容には、
『チャレンジイベントに勝利しましたヒトミ様には、賞金として十万ゴールドをお送りさせていただきます』
というった記述が堂々と大文字で記されていたからだった。