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第三話 もう一つのアカウント



第三話 もう一つのアカウント


ノイズ音が鳴り止み、バグは正常へと戻る。

ヒトミの意識は内側へと戻り、美都の意識が戻る。

そして、裏表を入れ変えるようにアバターの姿もまた元通りの魔法使いの姿へと戻る。


「…………」


美都は未だ自分の身に起きた事を理解できず、もう一つの人格であるヒトミに対しても同じだった。

だが、戸惑いつつも美都は一先ずセーブポイントのある街へと向かって歩き出し、街の入り口に入って直ぐゲームから一度ログアウトした。


そして、ゲーム世界からゲーム開始直後に入った白い空間の中へと戻った美都の目の前にアカウントが記されたウインドウ画面が表示される。

だが、そこには、



「ねぇ、ヒトミ」

『……何?』


キャラクター名が記されたウィンドウ画面。

一つしかないはずの、その欄の下に、



「ヒトミって、アカウントとか作ったりしてないよね?」



付け足すように現れたもう一つのアカウント。

ーーーーヒトミの名が記された真新しいアカウントが作り出されていた。




◆ ◆



本来アカウントを作るには二つの方法がある。

それは、新しいゲームをやる際にもう一つの新しくアカウントを作る時。

そして、もう一つはバグによってアカウントがダブる時などだった。


◆ ◆



作った覚えのないアカウント。

だがしかし、そのネーム名は間違いなくヒトミと記されていた。

そして、それが出来たであろう原因にも美都たちには心当たりがあった。


「これってやっぱり、さっきのアレが原因かな?」

『うーん、そうかもね……』


それは今ついさっき起きた、現象。

二人の意識が入れ替わり、そして、アバターが持つ職業。

魔法使いと侍。

それら二つが重なり合ったような姿が、脳裏に蘇る。


何かの隠しクエストをクリアしたわけでもない。

また、開始キャンペンの特典などでもない。


なら、これまで起きている事は一体何なのか?

美都は考えながらも、ウィンドウ画面をスクロールさせながら、一番下にある問い合わせのURLを目にする。


「一応問い合わせのページ欄にコメントとか載せれるみたいだけど」


本当なら、ここにコメントしてから修正なりなんなりしてもらうのが一番手っ取り早い対処法であった。

だがそこで美都は、そっと手を止める。

そして、思った。


ここで仮に修正が入ったとして、その後に帰ってきた機材で果たしてヒトミはゲームをやれるのだろうか? と。


修正した結果、出来ていたものが出来なくなるケースは多くある。


「…………」


あんなにワクワクしていた彼女が、このバグを修正したせいでゲームが出来なくなる。

美都はそんな彼女の顔を見たくはなかった。

出来る事なら、このまま楽しく続けてほしい、と思った。

だから、美都は、



「でも、支障とかないし。このままやってみようか?」

『……え』



美都の言葉に驚いた声を出すヒトミ。

だが、そんな彼女の心情、またその言葉から直ぐに意図を察する事が出来た。

だからヒトミは、小さな声で、



『…………ありがとう、美都』



そう感謝の言葉を口にしたのだった。







ゲームを一度やめ、リアルに戻った頃。

時間はすでに夕方に差し掛かろうとする頃合いだった。


「ふわぁ……」

『眠そうね』


冷蔵庫にあった食材を使って、軽い夜食を作る、もぐもぐ食べる美都。

だが、その目尻からは睡魔による涙が溜まっていた。


「うん、昨日からあんまり寝てなかったから」

『うーん、それだったらどうする? 今日はもうゲームはやめとく?』


ヒトミ自身、強引にゲームを続けろと言うつもりはない。

時間もたっぷりある分、美都のペースでやっていってほしいと思う彼女だったのだが、




「私は寝とくから、ヒトミがやりなよ?」

『………え?』




美都から帰ってきた言葉に驚くヒトミ。

だが、美都は小さく笑いながら、


「私は先にやったから、次はヒトミの番だよ」


拒否は認めませーん、と笑って言う美都。

ヒトミもそこまで言われて、はにかみながらも声をモゴモゴさせ、


『わかった……ありがとう』


そして、観念したようにヒトミは折れるのだった。





人格を入れ替え美都が先に眠る中、ゲームを始めたヒトミは再び白い空間に降り立つ。

そして、緊張しながらも目の前に表示されたウィンドウ画面から、ヒトミの名前が書かれたアカウントを押した。


「……ッ」



一瞬のフラシュの後、再び目を開くとそこは、美都がセーブした始まりの街。その初期の地点だった。

周囲には多くのアバターがちらほらと歩いている。


だが、そんなことよりも先に気になる事がヒトミにはあった。

それは、自分の身なり。

視線を下げた先には、美都とは異なり、着物姿に刀。昔ながらの侍を連想させるような格好が映っている。

そして、手や体の感触、借り物でない自分を実感しながら、



『これが私のアバターか……』



ヒトミは喜びを隠しきれない、子供のような表情を浮かべていた。


挿絵(By みてみん)


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