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第十八話 見据える者2



第十八話


アバター名・ヒカル。

本名、神奈川 燐。


昔の私には、時間すら忘れて夢中になれる趣味といったものがなかった。

というのも、何をやっても中途半端で長続きもしない、ちょっと気になってもすぐに飽きてしまう。

そんな、ただ流れる時間に漂流するような……そんな、退屈な毎日を過ごしていた。


だけど、そんな私にある出会いが起きた。

それは軽い興味本位でやり始めたVRゲーム。その中で体験として鍛治ギルドに訪れ、初めて武器を作った時。


「………っ」


それはあまりに粗末で、耐久もない、棒切れのような出来だった。

……だけど、それでも自分の手で、その武器を完成させた、その事実を私は忘れることが出来なかった。

胸に熱く灯った感情が、やっと自分がやりたいものを見つけた、と。

そう、強く訴えたようだった。


だから、私はすぐさま鍛治ギルドに加入した。

そして、日常の生活をやりきってはゲームに入って、鉄を打つ。

……いつか、自分だけの武器を作って、それを正式な形で誰かに授けたい。


ーーーーそう、思った。



◆ ◆ ◆



投げ捨てられた自身の武器を拾うべく、崖上から飛び降りたヒカルは、地面に直撃した衝撃で気を失っていた。


本来なら、その高さからによる落下ダメージで即死がほぼ確定だった。

だがしかし、ヒカル自身が持つスキル【不屈】の効果によって、体力値を微かに残し、彼女は生存することが出来た。



「………っ」


そうして、やっと目を覚ましたヒカルは、今だクラクラする視界の中で、その手に抱きしめた武器の無事を確かめる。

幸い、落下ダメージをその身で全て受け止めたこともあって、刀の耐久値は一ミリも減ってはいなかった。


「よかっ、た…」


ヒカルは安堵の息をつき、ゆっくりと体を起こす。

そして、どうにか街に戻らないと……、と。ヒカルがそう考えた。

ーーーその時だった。


ガサッ…、と。

草木が揺れ動く音が聞こえてきた。だが、その音は一つではなく、数回と続き、


「………ぇ」


ゆっくりと茂みに顔を向けたヒカル。

だがその直後に彼女の顔に恐怖が差し込んだ。

何故なら、周辺に生える木々の奥から唸り声と共にーーーーー数体の群れを作ったウルフたちが出てきたからだ。




◆ ◆ ◆



「崖上エリアって、ここら辺よね!」


襟首だと首が締まる! と抗議したコノハを背負い直しつつ、ヒトミたちは今、教えられたエリア地点にやってきていた。

そして、背負われているコノハの【索敵】スキルを元に、このエリアにいる二人のプレイヤーを即座に発見することができた。

だが、


「っ!?」

「なんで、お前らがここにっ!」


そこにいたのは、二人の男性プレイヤーのみ。

ヒカルの姿がどこにも見当たらない。


「ヒカルはどこ! 答えなさい!」


ヒトミは刀を構え、彼女の居場所をつき止めようと声を荒げる。

当初はどこかに監禁しているのか、とそう思ったからだ。

ーーそう。

男たちの内の一人がーーーその視線を、崖下へと向けるまでは、


「っ!? まさか、っ」


目を見開くヒトミは視線を変え、崖下を見つめる。

地面との距離を考えても、ここから落ちたら即死は確実だった。


(…遅かった、っ)


ヒトミは怒りに任せて歯を噛み締める。

だが、その時。


「まだ大丈夫ですよ、ヒトミ」

「…え?」


【索敵】スキルを使用していたコノハが崖下に先に広がる森林エリアを見据えながら、口を開く。


「あの場所から少し離れた場所に、プレイヤーの反応が一つある。だから多分、あの子はまだ生きてると思います」

「っ、それじゃあ」

「だけど、まだ楽観視はできないかもしれません。一つのプレイヤーを追い詰めるみたいに沢山のモンスターが群がってるみたいなので」


当初の危機を脱しはしたが、未だ危険な状況にある。

そうコノハに伝えられ、ヒトミは眉間に力がこまる。だが、そんな彼女に対して、コノハは、


「こいつらは、私がどうにかしておきますから。だから、ヒトミは行ってください」


そう言って笑ったのだ。

この状況の中、ヒカルを追い掛けるのは先の目標だといえる。

だが、一人を背負ってでの移動ではもしかしたら、また間に合わないかもしれない。

だからこそ、コノハは先に行くように促したのだ。


そして、何より、コノハ自身。この場にいるこの男たち二人をこのまま見逃すつもりもなかった。


「………ごめん。後で埋め合わせはするから」

「そうですか? それなら、ちょっとは期待しておきますね」


コノハに言葉を残した後、ヒトミはその場の地面を蹴飛ばし崖下へと飛び降りた。

制限なく、最速でヒカルを助け出すために。



◆ ◆


「ふぅー…………さて」


コノハは既に目の届かない位置へと走り去ってしまったヒトミを見送った後、くるりと視線を変えり、


「抵抗してもいいですけど、どうします?」


目の前でそれぞれ武器を構える二人の男性プレイヤーを見据え、つまらなそうな表情でそう尋ねた。



「おいおい、お前今の状況が見えねえのかよ?」



二対一。

数による戦力差を得て、二人の内の一人は既に勝った気でいる様子で、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

一番危険視していたヒトミがいなくなったことで、彼らに優先が向いたと確信していたからだ。


「見えてますよ」


だが、そんな男たちにコノハは嘲笑うように、笑みを浮かべる。

そして、挑発を含めた口調で、



「でも、女の子相手に多数でしか挑めない、クソ雑魚でしょ?」



礼儀正しい口調が一変させ、怒りを逆撫でするように言葉を口にしたのだ。

男たちの顔は一瞬で怒気に染まり、同時に駆け出す。そして、目の前にいる女を叩きのめすべく、力任せにその手に持つ武器を振り上げようとした。



ーーーーだが。


「確かに、数も、レベル差も、重要よ」


バタッ。

バタッ。

と。


「でも、私にとってはそんなの関係ないのよ。だって、耐性スキルも持ってない脳筋プレイヤーなら、どうでもなっちゃうんだから」


それは何の前触れもなく、男たち二人が突然とその場に倒れ落ちる。

そして、彼らのステータス画面に突如として、麻痺エフェクトが表示される。


「な、にが」


わけがわからない。

自分たちの状況に困惑する男たち。だが、その視線を目の前いるプレイヤー、コノハの足元に向けた時。


「「!?」」


彼らはあることに気づいた。

目の前に立つ女の足場を中心に発生させられた電気を帯びた光の小エリア。

それに自分たちが足を踏み入れていた事に、


「くっ、そ! こんなのっ!?」

「まだあるわよ」


そう言って、コノハは再度靴のつま先で、トントントン、と地面を叩いた。

次の瞬間。


「「!?」」


毒、停滞、混乱。

三種類によるデバフが発動し、男たちの動きは完全に相殺される。

しかも、その影響はそれだけには止まらなかった。


「っ、ぅえ」


デバフによって、男たちの感覚が鈍る。

まるで船酔いしたかのような、気持ち悪さが彼らを襲う。


「気持ち悪いでしょ? それは多種のデバフを掛けることで起きる、脳への濃密的な過負荷ストレス。まぁ、本来のゲームスペックならそんな事、起きないんだけど」


普通ならありえない現象。

だが、それは彼女だからこそ起こせることできる裏技的スキルでもあった。

そう。ーーーーこのゲームを知り尽くし、デバフの感度調整を弄れる彼女だけの。



「さて、何分持つかしら? ………まぁ、ログアウトしたとしても」


コノハは片手に突っ込んでいたポケットから、小さなアクセサリーを取り出しくるくると回す。


チェーンの紐で括られた小さな丸いプレート。そこに描かれたイラストには、ゲームマスターを証明する、証とも取れるエンブレムが描かれていた。

そして、コノハはそれに触れている時だけ、ゲームマスターとしての権限を使用できる。


「貴方たちにみたいなのに、このままこのゲームをやらせるつもりもなんて、更々ないんだけどね」


権限効果ーーーバフスキルの上限解放。

VRゲームの技術開発者たちの一人でもあるゲームマスター、コノハはそう言ってプレートをポケットの中に直し、


「はい、おしまい」


HP0となり、ログアウトした男たちを見終え、疲れたと大きく溜め息を漏らすのであった。





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