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第十七話 脅迫




第十七話 脅迫



カン、カン、と音が弾けさせ、鉄を打つ。

熱によって発光する鉄を何度も鍛え、鉄を打つ。

現実のきめ細やさを再現した、まるで本物であるかのような材質の手触りを確かめながら、鉄を打つ。


ヒカルはそれらを、この一週間ずっと鉄に向けて注ぎ続け、作業に熱中した。

ーーーそして、


「…………出来た」


ついに、完成する。

汗を拭うことすら忘れるヒカルの手元にあるのは、完成した一本の刀。

刀身は黒一色で染まり、その刃の表面には光の反射で煌めきが見える。


「…………」


その武器の出来栄えは、ヒカルがこれまで打ってきた中でも最上といえるほどの物だった。

だが、しかし。


「………」


完成と同時に構築される武器の詳細。

それを確認して、ヒカルは小さく唇を紡ぐ。

彼女がこれまで武器を完全に完成できなかった、ある一つの事柄が、今回も同じようにその武器に付け加えられている。


(でも………っ)


だが、それでも彼女がーーーヒトミが言ってくれた言葉を信じ、完成の証ともいえる刀の名を決めようとした。

ーーーーだが、そんな時だった。



「よぉ、完成したのか?」




突然と開かれたドアの前に、一人の男が立っていた。

その男の名は、この鍛治ギルドに長いこと居座る長期プレイヤー、ダレン。


「……ダレンさん、何の用ですか?」


同じギルドに所属している、というだけで、ダレンとは深い交流もなく、ましてや言葉を交わす間柄でもなかった。

ただ、このギルド内でも上位にいるプレイヤーだからこそ、ヒカルはその名前を知っていたのだ。


「何、完成したようなら、俺が先に見てやろうかと思ってなぁ」

「…結構です。……用がそれだけなら、もう出ていってください」


いつから武器の出来を見る団長になったのか。

眉間を顰めるヒカルはそう言って、再び自分の作業に戻ろうとした。


だが、その時。



「いいのか? お前の依頼主が今こっちいんだけどなぁ」

「………え」



その言葉に顔を上げ、振り返るヒカル。

対するダレンはその反応に笑みを浮かべながら、意気揚々と口を開き始めた。


「いやぁ、こっちの了見をきいてみたら、向こうもあっさりと了解してくれてよぉ」

「…………」

「俺たちの武器とお前の武器、どっちか見比べてから武器を選んでくれるって言ってくれたんだよ」


見比べる? 選ぶ? 嘘? 

だって、だって……なんで、なんで、なんで……?

ダレンの言葉に困惑し、茫然とするヒカルの頭の中にそんな言葉が何度も浮かび上がってくる。


「あ、でも、早い者勝ちってことあるとか何とか言ってたなぁ?」


だが、そうしている間にも、ダレンは言葉巧みに戯言を並べ、


「だからさぁ、お前も…………早いとこ、行かないと」


不安を煽りながら、ゆっくりとヒカルに近づいていく。

そして、蒼白した顔色を浮かべる彼女の、その耳元でーーーーダレンは囁いた。



「お前にとって……最初で最後かもしれねぇ、依頼主が俺らに取られちまうぞ?」




◆ ◆ ◆



同時刻。

街の中央地点で待ち合わせをしていたコノハの元に、急足でヒトミはやって来た。


「コノハ、おまたせ」


そして、手を振り、軽く挨拶を交わした二人はそのまま足を動かし目的地である鍛治ギルドへと向かう。

何故なら、今日が武器が完成すると言っていた約束の期日でもあったからだ。


「ふふっ、楽しみねぇ」

「あははは………そんなに、はしゃがなくても」


はしゃいでないわよ、と言うヒトミだが、その足取りは軽い。

スキップとまではいかないが、それでも楽しみにしている事は歩き方で既に明らかだった。



そして、数分と歩いたのち、鍛治ギルドについた二人は周囲の視線を感じつつも気にせずヒカルの工房に向かう。

閉じられたドアを軽くノックし、中にいるであろうヒカルに声を掛けるが、


「あれ、いないわね?」

「うーん、どこかで休憩でもしているんですかね?」


返事がない、誰もいない工房に首を傾げる二人。

だが、そんな時だった。



「アイツなら逃げたぞ」



ドアの前で立つ二人に向けて、背後から口元をニヤニヤさせたダレンが、そう言葉を返したのだ。




◆ ◆ ◆



鍛治ギルドから数キロ離れた街の外。

森林エリアのすぐ隣に位置する草原エリアには、モンスターが滅多に発生しない崖となるが地点が存在する。

また崖の下には森林エリアがあり、そこがエリアの境目となっていた。

そして、そんな崖の上であるフィールドの一角で、


「ぐっ!?」


小さな悲鳴あげるヒカルは突如、別のプレイヤーである男に背後から襲われ地面に組み伏せられていた。

その男もまた同じ鍛治ギルドに所属する上位プレイヤーの内の一人だった。


「は、はなしてよっ!!」


何とかその場を脱しようと必死に力を入れるも、全くびくともしない。

レベル差がありすぎて、反抗すら出来ないのだ。

ヒカルはそのことを理解して、歯を噛み締める。

すると、そんな最中で、


「あんな嘘に、ほいほい騙されてくるって………お前、頭のおつむが弱すぎんじゃねえの?」


その言葉と共に、もう一人。

別の男がヒカルの目の前にやってきた。

その男の名は、ヘグラン。

鍛治ギルドでも先に上をいっていた先輩にあたるプレイヤーだ。

だが、これといって彼とは接点がなく、ヒカルは困惑した表情を浮かべる。


「…………」


だが、対するヘグランは見下した瞳をヒカルに向けながら、視線を変え、地面に転がる一本の黒刀を拾い上げた。


「っ!? か、返してっ!」


ヒカルが叫ぶも、気にする素振りすら見せないヘグランは鞘に納められた刀を引き抜く。

そして、刃の表面や質感を見つめながら、


「ふん、一丁前に外見の良い武器を作りやがる……」


舌打ちを打ち、刃に指先を置く。

そして、武器の詳細画面であるウィンドウを展開させ、


「………けど、まぁ」


その詳細を見たヘグランの動きが、ふと止まった。

突然と固まる彼に、もう一人の仲間である男が声を掛けようとする。

だが、その直後に、



「っ、くくく、っはははは!!!

なんだよ、これ、駄作もいいところじゃねぇか!!」




ヘグランは大声をあげ笑い出したのだ。

その人を嘲笑う声に、ヒカルが悔しげに唇を紡がせる。

だが、一方の仲間である男には一体何があったのかすら理解できていなかった。


「ほら、コレを持ってみろよ」


ヘグランは笑いながら、仲間にその武器を手渡す。

そして、言われるがまま、片膝でヒカルの抑えながら片方の手で武器を持った男に対して、ヘグランは言った。


「ステータスを見てみな、笑っちまうぜ」


言われるがままステータスを開く男。

そこには、武器装備に応じてステータスの上昇が表示されていた。

だがしかし、それは何もおかしいことでは無い。

至って普通で、当たり前の表示であるはずなのだが、


「ステータスの上昇値を覚えたか? それじゃあ、次にもう一度コレを持ってみろ」


ヘグランは男から刀を取り上げ、再度手に持つように言う。

そして、言われた通りに再度武器を取り、ステータス画面を開いた時、


「!?」

「ふっ、気づいたか?」


そこで初めて、その異変に男は気づいた。

何故なら、さっきまでステータスの上昇数値が全くと異なっていたからだ。


「おもしれぇだろ?」


男のステータス画面には、最初。

全体的に加算されていたはずの数値が記されていた。

だがしかし、次に武器を持ったステータス画面には、何故か防御力のみしか数値が上昇していない。


ヘグランは笑い続けながら、真下に倒れるヒカルに顔を近づけ、


「持つたびにステータスの加算がランダムに変化する、か。………お前、本当に武器作る才能が皆無だよなぁ?」

「っ!」


その言葉に対して、ヒカルは何も言い返せなかった。

何故なら、そのことは自分自身が一番に理解していた。

だから、ヘグランの笑いをただ黙って見ることしかできなかった。

ヒカルはその事が、悔しくて、悔しくて、仕方がなかった。




「……けどなぁ」


だが、そんな笑いを続けていたヘグランが、その直後に突然と笑いとやめる。

そして、


「そんなお前だからこそ、許せねぇんだ」


両目を見開き、ヒカルを睨みつけながら、


「なんでお前みたいな中途半端な奴が」


ヘグランは仲間の男から、刀を奪い取り、


「俺たちより、先をいって」


ヘグランはその刀を握り締め、歯ぎしりと共に腕を大きく振り上げ、




「自分だけのッ、顧客を貰えているのか! ッてことがなぁあ!!!」




その次の瞬間。

ヘグランはその刀を崖底に向けて、投げ捨てる。

重量に従い、地面へと落ちていく刀。

仲間の男も口を開けながら、ただ茫然とその光景を見ていた。

だが、その中で、



「ダメ、っ!!!」



男の力緩んだ隙をつき、拘束から抜け出したヒカルが、刀に向かって走り出した。

そして、必死に、地面を蹴飛ばしながら。


「っ!!!」


躊躇う素振りすらなかった。

ヒカルは刀を追い掛けるようにして、崖上から飛び降りたのだった。




◆ ◆ ◆




「逃げた、って。どういうこと?」

「そのままの意味だよ」


鍛治ギルドにて、ヒトミたちの前に姿を見せたダレンは、隠す素振りすら見せない笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。


「大層な事言ってたみたいだけど、結局は完成する自信がなくて逃亡したんだよ、アイツは」

「……………」

「まぁ、よくある話だけど。期待に耐えられなかったんだろうなぁ。けど、小心者でまだまだ未熟者だったからよぉ、仕方がねぇ仕方がねぇ」


そして、ダレンは口元をニヤリと緩ませながら、さっきから顔を伏せるヒトミの顔色を伺うようにして、


「だけど、それに比べて俺たちはここに何年もいる熟練者だ。なぁ、今からでも遅くないから、俺たちに武器を依頼しねぇか? なぁに、ボスにはちゃんと黙っておいてやるからよぉ?」


ニヤニヤと、その提案を持ちかけた。

その言葉に善意など存在しない。

聞いているだけで、人を嘲笑っているのが見てとれるほどだった。

だからこそ、コノハもまた眉間を寄せ、反論の言葉を口にしようとした。


だが、その次の瞬間。

ジジッーーージジジ、というノイズ音と共に。




「さっきから、グダグダとうるさいのよ」




ダレンの眼前に向けて、一本の刀が向けられる。

一瞬の出来事に対して、ダレンが悲鳴を上げながら地面に尻込み、


「ぇ!?」


コノハが驚きの声を上げる中、そこにいたのはーーーーーいつの間にか羽織るようにして装備されていたローブを揺るがせるヒトミは姿だった。


「さっきから聞いてたけど、アンタの言葉は全部嘘だらけ。視線も含めても、不快しか感じない」


そして、ローブから微かに鳩走るノイズの傍ら、ヒトミは再度刀を突きつけながら、


「だから、早く答えなさい」



問う。



「ヒカルをどこへやった?」





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