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第十五話 籠る音色



第十五話 籠る音色



結論。

ヒトミの所持金を含めて考えても、やはり高レベルの鍛治ギルドに行くのはナンセンスだった。

というわけもあって、


「コストも考えると、やっぱりここですよね」


コノハとヒトミは今、最初に訪れたセーブポイント地点の街。

その北部にある鍛治ギルド前にやって来ていた。


「鍛治ギルドは何個かあるんですけど、ここは基本中級プレイヤーたちが多く通う、一目置かれた場所なんですよ」

「ふーん」


入り口の門を潜る前から聞こえてくる金属音。

また熱気が充満しているのか、中と外では室温が断然と変わってくる。

門を開け、コノハと一緒に入るヒトミは、通路に展示された武器の品々を見渡しながら、前を歩く彼女の後についていく。


「それで、オーダーメイドってどうすればいいわけ?」

「一応ギルド長に話を通してから、ギルド長が依頼人に見合う鍛治プレイヤーを選別するっていう感じですね」


そうして通路を進んでいくと、通路に何人かの鍛治プレイヤーが見える。その上、不意に両橋の壁際に並ぶようにして、ドアのついた個室めいた場所が見えてきた。

そして、ドアを閉めているにも関わらず、その中からは、鉄を打つ音が何度も何度も聞こえてくる。


「あ、いましたよ。あの人です」


だが、そんな中で。

ヒトミはある一つの音に気を取られていた。


「…………」

「ヒトミ?」


それは、他の後に比べれば、断然弱々しい音だったかもしれない。

だが、それでも、鉄を何度も打つ音には、何かしらの想いが籠められている。

そう感じるほどに、鮮明な音だったのだ。


◆ ◆ ◆


「ダイアンさん、こんにちわ」


一方で茫然と立ち尽くすヒトミを尻目に、コノハは先にギルド長であるダイアンに話しかけていた。


「コノハか。………久しぶりだな」

「はい、お久しぶりですね。今日はちょっと私の連れの人に合う武器を作ってもらおうかと思いまして」


そして、ほらこっち! と手を取り、ヒトミをダイアンの前に立たせた。


「あ、初めまして、ヒトミです」

「………ああ、初めまして、だな。俺はこの鍛治ギルド長をしているダイアンだ」


どちらも怖じける様子を見せず、挨拶を返す両者。

ヒトミが一瞬その言葉の内容に眉間を寄せるが、ダイアンは気にする様子もなく、彼女の前に手を出し、


「まず、お前さんの武器を見せてもらう」


そう言って、武器の手渡しを要求した。

そして、ヒトミがストレージから耐久値がギリギリの刀武器を取り出し、渡すと、


「…………パリィ、か?」


すぐさま、この状態になった原因を的中させた。

そして、ヒトミが言い訳をする前に、


「はい」


と、コノハが答える。

ダイアンはジト目で苦笑いを浮かべるヒトミを見据え、それから視線をコノハに戻し、


「これを初心者用武器でやってた、っていうのか?」

「はい、マジです」


常識はずれも華々しい。

完全に暴露され、ヒトミはもう何も言えなかった。

だが、その間にもダイアンとコノハでオーダーメイドへの話に進みつつあったが、


「耐久、もあるが。軽量もコミに入れないといけねぇか」

「あー、やっぱりですか」

「ねぇ」


そんな話し合いが行われる中、ヒトミはこのギルドに来てから一番に気になっていた事を質問した。



「あそこで打ってるプレイヤーって、どういう人なの?」



そう言って指を先したのは、閉じられた一室のドア。

だが、ヒトミがその言葉を発した時、いち早く反応したのは周囲にいた鍛治ギルドに在籍するプレイヤーたちだった。

そして、その反応と同時にくる視線。


(……あぁ、嫌な視線だ)


それは、ヒトミにとって、一番に嫌悪するものだった。

苛立ちがグツグツと込み上がるほどに……。


「やめときな」


だが、その反応を見せるより先にダイアンがその言葉を発した。

そして、こちらへ視線を戻すヒトミを見据え、


「アイツはまだ未熟でな。……まだ、まともに武器一つも完成できちゃぁいねぇんだ」

「…………」

「とわいえ、未熟だからって言って、腕が全然ダメとは言わない。そこそこの物は作れる。………だが、それでも、こちとら依頼されたからには完成系を出さなきゃならねえ。だからこそ、それ故にアイツが作る欠陥品を手渡すわけにはいかなねぇんだ」


完全に貶すわけでない。

そう本心とも言える言葉をつくダイアン。


「欠陥品……ね」


だが、その言葉をヒトミが口にすると、周囲から嘲笑うよう声が聞こえてきた。

例えギルド長が認めていたとしても、彼らにとっては、あの部屋にいるプレイヤーは自身よりも格下であると判断しているのだろう。


ーーだが、それでもヒトミはそんなくだらない事には気にも止めず、


「でも、それってつまりはまだ誰も関わってない、有望プレイヤーってことよね」

「え、ちょっと………ヒトミ!?」


口元を緩ませながら、ズカズカと歩き、その閉じられたドアを開けた。


「……え」


カンカン、と叩く音がその直後に止まる。

いや、見知らぬプレイヤーが自分の鍛冶場に入ってきたのだ。

当然と言えば、当然なのだが、


「あ、あの」

「貴女、名前は?」

「え、あ、ひ、ヒカル、です」


黒縁メガネの少女、ヒカルが尋ねられるまま、名前を教える中、


「………ねぇ、コノハ?」


ヒトミは口元を緩ませながら、コノハに尋ねた。


「ギルドを仲介しないと、オーダーメイドはできないって話だったわよね」

「ええ、そうだけど。…………え、ちょっと待って、まさか」

「でも、個人同士でのオーダーメイドなら、ギルドの仲介はいらないわよね?」


ヒトミがコノハにそう尋ねた理由。

それは、ギルド間でのやり取りを切り、彼女たち個人でオーダーメイドを取り合う、一つの抜け道でもあることを確認するためだったのだ。

だが、それは同時に、


「いや、でも、保険とか、メンテナンスとか、色々あって」


色々な制約をすっ飛ばした方法であり、コノハは、どれから説明しよう、と一人悩み混んでいた。

しかし、そんな中で、



「お前さんは、ソイツに同情したからオーダーメイドを頼むのか?」



ダイアンは一際眉間を顰め、その問いをヒトミに投げ掛ける。

その手には巨大な刃のついたアックス武器が握られ、それは、気に入らない返答をするようなら、いつでも乱戦出来る。

まるで、そう言っているようかのようだった。

だが、対するヒトミもまた、怖じける様子を見せず、


「同情? 違うし、何それ? 同情されるような風に持っていったのは貴方たちでしょ?」


ダイアンだけではない、この場にいる他プレイヤーにまで喧嘩をふっかけるような発言をしたのだ。

これには誰もがその手を止め、ヒトミを睨みつけるが、


「なら、何故だ」


ダイアンはそれらを制止するように、言葉を投げかける。

問いの後に落ちた沈黙がその場を重くなる。

コノハですら、アタフタする。そんな状況の中、ケロッとし様子のヒトミは頭をかきながら、簡潔に言った。


「音色が気に入ったから」

「…………」

「この子が武器為に叩く、その想いの籠った音色が気に入ったから、だから選んだの。その答えじゃ不満かしら」


何を馬鹿な、と嘲笑う他プレイヤーたち。

だが、対するダイアンは静かにヒトミを見据え、更に質問を続ける。


「ソイツが作るものは必ず欠陥品となる。それでもいいのか?」

「構わないし、欠陥品かどうかは私が判断する。それに欠陥品だからって、使えないわけじゃない、それをプレイヤースキルで補って闘うプレイヤーも中にはいるでしょ?」


ヒトミとダイアン。

両者が睨み合う、その一方で、


「え、あの、何が」


ヒカルだけが置いてけぼりで、目を瞬かせる。

だが、それでも再度と続く沈黙。

しかし、先にそれを解いたのはーーーダイアンだった。


「………わかった。なら、好きにしろ」

「ええ」

「だが、お前さんは今後。ソイツ以外からのオーダーメイドを頼めなくなる。それだけの事をしたってことだけは、しっかり覚悟しておけ。……いいな」

「了解よ」


ダイアンの心配を気にする事なく、軽く言葉を返すヒトミ。


「なんでこうなるかなぁー」


一部始終を見ていたコノハが頭を抱える中、ヒトミは茫然としたヒカルに歩みよる。


「ヒカル、であってるわよね。名前」

「え、は、はい」

「ごめんね。先にこっちで勝手に話をつけちゃったんだけど、それでも一応は貴女にも聞いておくわね」


ヒトミは体をしゃがませ、ヒカルの顔を見据える。

そして、口元を緩ませながら、


「ヒカル。私のために、一振りの刀を打ってほしいの」

「!?」

「ギルド仲介じゃない、貴女と私、個人同士でのオーダーメイド。依頼できないかしら?」


ヒトミは、改めての依頼を彼女にお願いした。

そして、これがヒカルにとっては初めてのオーダーメイド依頼でもあったのだった。










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