第十四話 刀を求めて
第十四話 刀を求めて
森林エリアでの一件から、更に数日が経った頃。
街の休憩テラス場にて、情報屋ことコノハは苦笑いを浮かべていた。
そして、その正面。というか顔間近まで詰め寄るヒトミはイライラした様子で口を開く。
「耐久値、全部ボロボロだった」
何が? と言われれば、それはヒトミが今所持している初心者用の武器の全部が、だった。
「あ、ははは……」
確認してみては、と言った手前、その事実にもう愛想笑いしか出ないコノハ。
というのも、事の発端はコノハに防具装備の素材を集めに行こうと誘われ、フィールドに出たことから始まったのだが。
………まさか、モンスターに向かってヒトミが刀を一振り振っただけで、ポキッ! と音を立てて、刃が折れてしまうとは思わなかった。
(あの後。よく私たち、逃げられたよね……)
ちょっと強めでも大丈夫よ、と言ったヒトミの言葉を信じたのが不味かった。
そのお陰で、中級クラスのモンスターからの全力逃走劇を繰り広げることになったのだが、そんな事を思い返しつつ、コノハはジト目でヒトミを見つめる。
「な、何よ」
「………まぁ、あんな使い方してたら、普通はそうなるでしょうし」
そう言って、コノハ溜め息を吐いた。
武器が折れた原因。中級クラスに挑んだ、というも一理はあるのだろう。
だが、それよりも先に一番の原因は、彼女の戦闘スタイルにある。
(そもそも、初心者用武器でモンスターの攻撃をパリィし続けてるんだもん。そりゃ、先に武器が悲鳴をあげるのも無理はないよね)
本来、初心者を脱し始めた頃に使い始める技法がパリィなのだが、ヒトミはそれを意図も簡単に使いこなす。
そして、今回その戦法が武器損失の原因となった。
彼女自身はダメージは回避してるのに、と言うが。
武器はその分ゴリゴリと耐久値を削られているんですよ、とコノハは述べつつ、
「市販のものじゃ減るスピードも断然速いですからね」
「むむむぅ……」
「解決策としては、戦い方を変える。もしくは、オーダーメイドの武器を手に入れるかのどっちかしかないかな」
ある程度、お金が貯まる事で選ぶことが出来る選択肢の一つだ。
ちなみに言えば、高レベルのプレイヤーのほとんどがそれらを手にしているのだが、
「ただし、オーダーメイドは高いからですからね。お金を貸してとかは無理ですよ?」
「わかってるわよ。そこまで私もゲスじゃないわよ」
眉間を寄せながら、所持金を確かめるヒトミ。
一方のコノハはそんな彼女に溜め息を吐きつつ、出来るだけコストの低い鍛治ギルドを探すべく、メモ帳を開くのだった。
◆ ◆ ◆
ジェルダクタスオンラインの開始して直ぐに立ち寄るだろうセーブポイント地点のある街。
その街の北部に経つ中型鍛治ギルド。
カナヅチの音が騒音のように鳴り響く、その鍛冶場にて、
「ダメだな」
「な、なんでですか!?」
筋肉質のある二の腕を見せる大男、鍛治ギルド長のダイアンは椅子に腰を下ろしながら、その手に持つ短剣を見つめ、そう口にする。
だが、そんな彼に対して小柄な黒縁メガネをした少女、ヒカルは両手を握り締めながら、声を荒げた。
だがしかし、
「お前の武器を売り物として出せるわけないだろ」
「……っ」
「お前自身もわかってるだろ」
その短剣は彼女はこれまで打ってきた中でも一番に出来のいいものだった。
市販の武器と比べても、断然こちらの方が数値的にも優れていた。
だが、
「欠陥品を出す事は、本ギルドからじゃ許可できない」
ある一点、を除けば。
その言葉がいつも、彼女の作り出す武器の全てを不定する。
反論したい、その気持ちはあった。
だが、反論出来るだけの実力は、彼女にはなかった。
「………わかりました」
ダイアンに手渡された短剣を受け取り、ヒカルは小さく頭を下げる。
そして、背を向けながら、自分の持ち場へと戻ろうとする中、
「またかよ」
「本当、いい加減にしてよね」
その場にいた鍛治ギルドに入団する鍛治プレイヤーたちから、口々に呆れ切った言葉の数々が聞こえてくる。
「っ……」
ヒソヒソ声ではない。
聞こえようにして言われたその言葉たちに、ヒカルは唇を紡ぐ。
そして、自分の武器を強く抱き締めながら、逃げるようにして自分の持ち場である個室に戻った中、
「……めん、ね」
何度も何度も思考して、やっと完成した短剣。
ある一点、を除けば、一番である自分武器を見つめながら、
「ごめん、ね……っ」
悔しさを噛み締め……。
ヒカルは、一人涙をこぼすのだった。




