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第十三話 詮索



第十三話 詮索



ボスレベルのモンスタークラスにまで突然変異したその存在は、ヒトミによって倒された。

そして、それが終止符を打ったかのように、騒動はピタリと止まり、バグの増殖は沈静化する形で終わりを迎えた。


だがしかし、そんなヒトミとカナ、そして、コノハたちのやりとりを木陰から盗み見る者がいた。


その者は、戦闘が始まる数分前。

ヒトミの姿を目視した後、急ぎその後を追いかけ、遅れてきたやってきた者。

そして、その場所で、信じられない光景を一部始終、傍観していた者。


ーーーー聖騎士のクラスを持つクナだ。


彼女は、ヒトミが繰り広げる戦闘に言葉を失いながらも、情報を持ち帰るべく、その現場を密かに録画していたのだった。



◆ ◆ ◆



「それで、これが例の録画映像……か」

「はい」


VR型MMOジェルダクタスオンライン。

その世界の中で、戦力一位に属するギルド、クラウンド。

その本部にある隊長室の席に座る男。クラアンドのトップである総隊長ゴルファは、部下であるクナによって手渡されたその録画映像に対して溜息を洩らした。


というのも、その記録を人通り見たかぎり、最初期のプレイヤーができる動きではないものだと直ぐに理解できたからだ。

……だがしかし、何ともタイミングが悪かった。


「……わかった。これに関しては俺の方で当たっておくから、お前さんは通常の素材調達に行ってくれ」

「直ぐに運営に報告しないのですか?」


クナ自身、こういうチートを扱う者に対して遺憾の感情を持っていた。

だからこそ、直様動こうとしないゴルファに対して、疑問の声を上げたのだ。

しかし、対するゴルファはというと、


「ああ」

「っ、何故」

「上も今回起きたバグの一件でてんてこ舞いになってるようだからな。それに続けて、コレもやれと言うのは、ちと酷だろう。だから、こっちで色々下調べしたのちに報告するつもりだ」

「………なるほど、分かりました」


そう言われて、渋々と了解するクナ。

対して、見るからに不満げな顔を浮かべる彼女にゴルファは愛想笑いを浮かべながら、口を開くが、


「おまえさんにも苦労をかけたな」

「いえ。…………それでは私はこれで失礼します」


……どうやら拗ねさせてしまったらしい。

クナはそう言うと、頭を下げ、そそくさと部屋を後にしてしまった。


(ありゃ〜、また言いにくるな)


彼女との付き合いが長いこともあって、これから数週間は機嫌が悪くなるな、と思うゴルファ。

ーーーとはいえ、だ。


「それにしても……だ」


ゴルファは目の前のウィンドウに表示された録画映像をもう一度流し、着物姿にローブを纏うヒトミの姿が映った所で、映像を止める。


「こいつは魔法剣士……か? いや、そもそもそんなクラス自体まだ実装していなかったはずなんだが」


チート? んー、やっぱりチートかー? と唸りながら頭をかくゴルファ。

そして、大きな溜め息を漏らした後、キーボードコンソールを画面したに表示させて、カタカタと文字を打っていく。


プレイヤーコードから、マスターコードへとアカウントライセンスを切り替えながら、



「しゃーねぇ。俺がやるしかねぇな」



総隊長の裏の姿、ジェルダクタスオンラインの中間サーバー管理職を担うゴルファはそう言って口元を緩ませるのだった。



◆ ◆ ◆




森林エリアでの一件から既に数日が経過している。

そんな中で、情報屋コノハ個人が所有するプレイヤーホームの一室で、


「つまり、ミトさんは二重人格を持っていて、あの時助けてくれたのが……その、もう一人のヒトミさん、ってことなんですね?」

「……うん、大体はそうかな」


テイマー職を持つカナによる、取り調べが行われていた。

ちなみに相手はヒトミ……ではなく、美都であるのだが、


「……………」


そんな二人の話し合いを遠い席で見守るコノハ。

すると、そんな彼女のウィンドウ画面にチャットの知らせが届いた。

そして、チャット画面を開いた先で、


『どう? 美都は上手く話せてる?』


ヒトミの名がついたコメントが映し出されている。


『一応バグ、っていう言葉を隠しながらお話してますよ? まぁ、でも』

『美都は嘘が下手だから、なぁ。まぁ、仕方がないんだけど』


コノハが打つコメントに、即座に返信されるコメント。

その目の前にある現象に対して、コノハは苦笑いを浮かべながら、一人冷や汗をかきつつあった。

というのも、


(…………いやいや、ありえないよね。こんなの)


………二重人格はおいておくとして。


『なんか、美都が操作している間、自分のアカウントを使ったチャットができるみたいなの』


と、ヒトミから聞かされた時には、こっちほうが色々チートすぎるのでは、と思ったまでだ。


(……これ、会話していただけでチート枠に入れられたりしないよね、私?)


そんな不安も感じつつヒトミに返事を返すコノハ。

だが、そこでふと今一番に思う疑問をコノハは彼女に返した。


『それより、どうして全部話す気になったんですか?』


これまで三つのうちの一つを話してあげる。

そう言っていたヒトミが、何故突然と全部を話すようになったのか。

それがコノハにとって、大きな疑問だった。

だが、対するヒトミは、もったい付ける様子もなく、返事を返す。


『隠してても意味がなくなったからよ』

『え?』

『あの時、私たちの戦いを覗き見してた奴がいたのよ。それも、ちゃっかり録画までして』


あの戦いの最中、ヒトミはその視線を密かに感知していた。


『ゲームの中であっても、私は結構シビアなほどに人の視線に敏感らしくてね』


それは二重人格として、自身の身を持たないからこそ敏感に反応してしまう一面なのかもしれないが、


『でも、それだけで全部を打ち明けるのは、ちょっと割り切りが良すぎるんじゃないですか?』


証拠映像まで取られているのは流石に痛い。

だが、それを考慮したとして、全てを話す必要があったのか、とコノハは思ったのだ。

だが、対するヒトミは、


『馬鹿ね。そんなのわかってるわよ。それにプラスして私はアンタに頼みたいことがあるから、ギブ&テイクで先に話してるのよ』


そう答えると、少しコメントに間を取った。

そして、数十秒と経つ中で、ヒトミは返信を返す。



『私がお願いしたいことは一つだけ………もし、チート扱いで運営にアカウントを止められるようなことがあったら。………アンタにも運営に掛け合ってほしいの。後、このチャットの文章も全部告示していいから。そこ代わりに、美都のアカウントだけは残してほしいって』




そのヒトミの返信に、言葉なくすコノハ。

続けて、ヒトミは返信を返して行く。


『美都は私のこともあって、友達が上手く作れなくてね。………あんなに楽しそうに話せてる事すら初めてなの』


学生時代にヒトミが起こしてしまった騒動。

それがきっかけもあって、美都は一人ぼっちになってしまった。

だが、そんな美都が今。ゲームの中であったとしても、友達と楽しげに話し合っている。


『だから。あの子の楽しめる居場所だけは、残したいの』


ヒトミはそう言って返信を返し終えた。

それはどこか親や姉といった目線のようなコメントでもあっただろう。

だが、そんなコメントを見つめたコノハは自分でも後に何故こんなコメントを返したのかと思う疑問をヒトミに投げかける。




『貴女はどうなんですか?』

『え?』

『貴女も、このゲームを凄く楽しんでいたじゃないですか? それなのに、貴女はいいんですか? 自分がゲームに入らなくなっても?』




コノハから返された問いに一瞬固まるヒトミ。

だが、直ぐに感情を緩ませながら、コメントを返す。


『……私はいいの。だって、主人格は元々美都にあるんだから』


自分は脇役。

だから大丈夫。

そう返すヒトミに、コノハは眉間を顰めた。

だが、これ以上言った所で答えを変えないだろうと察したコノハは溜め息を吐きつつ、


『わかりました。それじゃあ、もし何かあればこのチャット文も含めて運営に掛け合ってみます』


そう言って、言葉を締めた。

が、


『ええ、ありが』

『ただ、言っときますけど!』

『?』

『はっきり言って、このまま言われたように行動したら、私は悪者扱いになるんですよ? 薄情者ー!ってなるんですよ?』

『………え? いや、意味が』

『私自身がそう感じてしまうんです! だから、バレるバレないは後回しにしてゲームを楽しみましょう! というか、大人びた事いってますけど、貴女はまだまだこのゲームの楽しさを知ってないからそんなことが言えるです! だから、私が大先輩として貴女にこのゲームの楽しさ、真髄を叩き込んであげますから! 覚悟しておいてくださいね!!』


勢いよくキーボードを叩き終えたコノハは、フン! と鼻息をつく。

そして、ウィンドウを閉じ、美都たちの元へと歩きながら、


「ミトさん! お話し中にすみませんが、ヒトミに変わってもらえますか!」

「え!? わっ、わわ!?」


大きな声と勢いに驚く美都。

そんな彼女の中で目を瞬かせるヒトミはしばし、固まりながらも息を吐き、


(大人びたことを言ってるの、どっちなんだか)


そう思いながら、小さく笑うのだった。





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