第十二話 救出
第十二話 救出
斬られた腕を宙を舞いながらエフェクトを撒き散らして消失する。
そして、自身の腕を斬られ、絶叫を上げながら倒れるモンスターに対して、ヒトミは耳障りな様子で片耳を抑えていた。
「………」
一方、カナは未だ現状を理解できず、ただ茫然とその場に座り込んでいた。
すると、その時。
「はぁ、はぁっ、だ、だい、じょうぶ!?」
背後から荒い息をあげながら、ニット帽を被ったもう一人の少女ーーコノハが疲れ切った声で掛けてきた。
また突然と知らないプレイヤーが現れた事に対して驚くカナ。
しかし、その一方でヒトミはそんな彼女に呆れつつ、
「アンタ、何もしてないのに何勝手に疲れた顔してるの?」
「なっ!? そ、それをあなたが言うっ!? あんなシートベルトなしのジェットコースターに乗せられた状態で、私連れてこられたのにっ!?」
現在進行形で疲労マックスなんだからっ!! と叫ぶコノハにヒトミは溜め息をつく。
だが、こうしてお気楽に長話を続けているわけにもいかないかった。
何故なら、ヒトミの目の前には殺気を漂わせながら、次第に数を集まっていくモンスターの団体が待ち構えているのだから。
「っ!?」
「あら、もしかして怒ってるの? 自分の仲間がやられたから」
怯えた声をあげそうになるカナ。
しかし、ヒトミはそんなモンスターたちに対して、挑発をしながら刀を構える。
『ガッアアッ!!』
ヒトミに片腕を持っていかれたモンスターは鼻息を荒くさせ怒号をあげる。そして、それは同調するように周囲にいたモンスターたちにも蔓延していく。
それはまるで怒りの連鎖のように、雄叫びがその場一帯のエリアを振動させるほどに。
だが、
「でも、悪いわね」
そんな危機的状況の中であっても、臆する様子を見せないヒトミは刀の柄を握りしめながら、告げる。
「アンタ以上に、もう一人の私の方が無茶苦茶キレまくってるのよ」
そして、ーーーだから、と言葉を続けた。
次の瞬間。
『!?』
片腕を切り飛ばされていたモンスターが一瞬の内に真っ二つに斬られ、エフェクトをこぼして消失し、
「ここで、死んどきなさい」
言葉に続くようにして、一体、二体とその場で硬直したモンスターたちを斬り裂いていく。
数秒遅れてモンスターたちは反応を見せるも、その攻撃をヒラリと躱してヒトミはモンスターを横一閃に斬り払う。
そして、速度を更に上げて、颯爽と走り出すと同時に剣戟を撒き散らしていき、五十いたその数は次第に減少していく。
それは、数体と指で数えれるまでに。
「……凄い」
夢でも見ているのだろうか? と、その光景に対してカナは自然とその言葉をこぼす。
だが、
「まぁ、あんなチート使ってたら、そうなるよね」
「え、チート!?」
側にいたコノハから聞こえてきた言葉に、驚き目を丸くするカナ。
対するコノハは自身の操作ウインドウを開き、手招きしながら自身のパーティーメンバー欄をカナに見せた。
「だって、これみて」
「!?」
そこには確かにヒトミの名前が記されていた。
しかし、その横に記されているレベル表記はーーー
レベルーーー1あer4?€
と、いう文字が記されていた。
「こ、これって、文字化け…ですか?」
「そう。レベルの表示が何かさっきからバグってるの。……チートじゃなきゃ、説明がつかないよ」
驚くカナを尻目に、そう言って溜め息を漏らすコノハ。
だが、
「………」
これまで過去に何回か、チートを使う者たちを見たことがある。
またプレイ内容もそれらに応じて悪質なものが多く、見ていて良いものではなかった。
ーーーーだからこそ。そこでふと違和感を覚えたのだ。
ヒトミと名乗っていた彼女が、果たしてチートを使ってまでゲームを楽しもうとする人間なのだろうか、と。
「さて、後一体だけね」
数々の大型モンスターを倒し、残りラスト一体となった。ヒトミは不敵な笑みを浮かべながら刀を構える。
だが、その時。
『ガッアagjWjw."15twdg1796たな*(ッア』
「ん?」
モンスターの声が突然バグると同時に、その体にノイズが走った。そして、地面か湧き出るようにして現れた黒のエフェクトがモンスターを飲み込んでいく。
ボコボコと音を立てて、大きく、さらに巨体へと姿を変えながら。
「何よこれ、またこけ脅し?」
ヒトミは呆れた様子で走り出そうとした。
だが、その時。背後にいたコノハから驚いた声が聞こえてきた。
「ぅ、嘘、でしょ……っ」
コノハが持つスキル。
アナライズによって測定した、モンスターのレベル。
その数値はーーー五十。
「ご、五十……っ」
カナはその数値に愕然とする。
コノハに対してもそうだ。何故なら、その並のレベルではない。
それこそ、レイドボスモンスターに匹敵するほどのレベルなのだから。
そして、それはこれまでの楽観した空気が一蹴されてしまうほどの、最低最悪のバグだったのだから。
ーーーだが。
「ーーーーーーーーそんなの関係ないわよ」
その絶望的な状況の中、臆しないヒトミは自身にノイズを走らせる。
そして、もう一人の自分に。
ミトに、対して。
「さっさと終わらせるから。ーーーー私に気にせず、ぶっ放しなさい、美都!!」
『ーーーーーーーうん!』
頭の中で、ミトの声が聞こえた。
その次の瞬間。ヒトミの羽織るパーカーのノイズが一際激しく迸ると同時に連続してバフが枷られる。
本来かけられるはずの一つのバフ。
それすらとバグると同時に身体強化系のバフが。
二重、に掛けられる。
そして、
「これなら行ける」
ヒトミは、直前に振り下ろされたモンスターの拳を寸前の差で回避しながら疾走する。
それは、モンスターが反応するよりも速く。
そして、同時に斬撃をその身に刻み込んでいく。
それを何度も何度もーーー何度もと、繰り返す。
斬撃によって飛び散るモンスターのエフェクトが次第に渦を巻き、小さな竜巻を作り出す。
「えっ!? こ、これって…」
そして、その光景に対して、先に驚いた声を上げたのはコノハだった。
何故なら、本来その光景は、毒や麻痺といった多重に掛けられそれが撒き散ってこそ起きる現象だったのだから。
更に言えば、それらを繰り出す技にはーーーー確かなる名前が存在していた。
それは、上位アサシンクラスにだけ習得可能なエキストラスキル。
『死風・ストームウルフ』
「そ、そんなの無茶苦茶よ、だって、あれって上級アサシンのスキルなのよ!? 侍のできるスキルじゃないのにっ!?」
悲鳴に似た声をあげるコノハだが、そんな小さな声すら嵐の音によって掻き消される。
連続に斬り裂かれたモンスターの声は次第小さくなり、ゲージマックスだったライフは急落下と共にゼロとなり、
『…………』
そして、強敵であるはずだったモンスターは大きなエフェクトと上げて消失した。
「……ふぅ」
戦いが終わり、刀をアイテムストレージへと戻すヒトミは、ゆっくりとした足取りで、カナたちの元へと戻っていく。
「あ、あの……」
近づいてくる彼女に対して戸惑った様子を見せるカナは口を開こうとする。
だが、その時。
ザザッ…、と。ノイズ音と共にヒトミの容姿であった着物がローブへと変化した、次の瞬間。
「カナちゃん!!」
カナに抱きついた彼女は。
ヒトミではなく、彼女が知る人物。
ーーーミトの姿をしていたのだ。
「えっ!? み、ミトさん!?」
「大丈夫だった!? 怪我とかない! あぁーよかった、本当に心配したんだよ!?」
まるで別人のように話し続けるミト。
色々なことがありすぎて混乱するカナ。
そんな中、一人置いてこぼりになるコノハは、コホンと咳を吐きつつ、苦笑いを浮かべながら、
「と、とりあえず。さっきの事も含めてちゃんと説明してくれるのかな? みと、さん?」
そう尋ねるのであった。




