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第十一話 駆けつける



第十一話 駆けつける


 偽の緊急イベントが発信された頃、森林エリアの中間部では、運営から依頼された高レベルのプレイヤーたちによる数多くリポップするモンスターの討伐が行われていた。


「よっと! それにしても、この数はやっぱり異常じゃねーすかねぇー」

「口動かす前に手を動かせ」


 運営からの依頼で集められたプレイヤーの中でも、トップギルドと称されるクラウンド。

 その中の副隊長こと巨漢の鎧騎士である男性プレイヤー、シブンは同期の特攻隊長である騎士服の青年、セカイにそう言いつつ目の前から襲いかかってくるモンスターたちを自前のランスで貫き、セカイもまた軽い調子で相槌を返しながら、双剣で敵を切り裂き続けていた。


「クナ! そっちはどうだ!」


 そして、粗方の敵を倒し尽くしたシブンの呼び掛けに反応して、聖騎士のジョブを持つ女性プレイヤーであるクナは彼の元に駆け寄り、


「大半は倒せたと思います。後は広範囲に散ったモンスターだけかと」


 現在の状況確認を伝え、隊長の指示を待つ。

 それに続くようにその場にいたプレイヤーたちが続々と集まる中、


「よし。それなら今から各隊で散らばったモンスターたちの討伐に取り掛かる! だが、油断するな。いくらレベル差があろうとも、数で負ける可能性もある! 緊急時は即座に救援を呼べ! 決して先行するな!」


 シブンはマップ内に表示されたモンスターの位置を確認しながら今回の依頼で集まったプレイヤーたちにそう指示を伝え、再び討伐を再開するのだった。


◆ ◆


 シブンの指示の元、各プレイヤーたちが各自散開してモンスターの討伐に向かう中、


「フッ!!」


 聖騎士クナもまた、迫り来るモンスターを剣で切り裂きながら周囲に警戒を強めていた。


「よし、ここら一帯の敵はもういないな。次は…」


 そして、次のモンスターを見つけるべく自身のマップを広げるクナだったが、そこで彼女はある事に気づく。


「っ!? これは…」


 マップに表示される森林エリア。

 その表示されるエリアの隅っこ位置に数多くのモンスターの表示がされている。

 その数は、ざっと数えても五十体以上。

 そして、何よりこの何かを追いかけ集まったような配置に対してクナは状況を察する。


(おそらく、プレイヤーの誰かだろうが……どうする、この数を相手に私一人で対処できるか?)


 確かに、今から急いで向かえばギリギリ追われるプレイヤーの元に辿り着けるだろう。だが、表示された数のモンスターを完全に倒し切る実力は今のクナにはない。

 何より、つい数分前に伝えられた隊長の言葉をクナは脳裏に思い起こしながら、


「っ! 仕方がない、ここは応援を呼んで…」


 急いでシブンたちにこのことを伝えようと振り返った。

 ーーーーーーその時だった。


「!?」


 視界の端に映る茂みから、二組のプレイヤーが飛び出す。

 それは、一人のプレイヤーが必死に服にしがみつくのよしとしながら走り抜ける着物姿のプレイヤー。


 ーーーーヒトミの姿だった。


◆ ◆


「ちょっ、ちょっと待って!?!?」

「うるさい。時間がないんだから、黙って私の服を死ぬ気で掴んでなさい」


 一瞬誰とすれ違った気がしたが、今はそんな事を気にしてる暇はない。

 モンスターが蔓延る森林エリアの中を一直線に突き進み、ヒトミは普通ではあり得ない速度で疾走していた。

 ーーーその経緯は、遡ること数分前。

 隠し出口から街の外に出たヒトミたちは、直ぐさま森林エリアの入り口へと突入した。

 そして、走る最中でヒトミはコノハに着物の袖を掴むように伝えて、その袖を掴ませると、


「それじゃあ、行くわよ」

「え?」


 その直後。

 ヒトミは力強く地面を蹴飛ばすと共に、一人のプレイヤーを抱えた状況の中、疾走を始めたのだ。


◆ ◆


 森林エリアからリポップするモンスターたちを抜き去りつつ、目的地へと向かうヒトミたち。

 そして、必死に袖を掴むコノハは、慌てふためきながらもマップを確認しながらカナの居場所を見失わないようにしていた。

 だが、そんな最中に、


「きゃ!?」


 さっきまで疾走していたヒトミが突然、地面に着地するようにして動きを止めたのだ。


「いったーーっ! なんで止ま」


 コノハは地面に尻もちをつきながら、抗議しようとした。

 だが、顔を上げたその視界に、



「……………ぇ」



 ヒトミたちを囲むようにして、ゴブリンの大群が群がっていたのでいたのだ。

 それも、まるで意思疎通をしながら逃げ場をなくすかのように、後方の道すらもその体で塞いでいた。


「に、逃げよう!? 流石にこの数は無理があるよ!!」


 逃げられないことを頭の端で理解しながらも、声に出してしまうコノハ。

 だが、対するヒトミは刀を抜きながら、


「悪いけど、そんな時間もないし、それにコイツらも私たちを逃すつもりはないみたいよ」

「ぅ、でも」


 その大群に怯えた表情を見せるコノハ。

 ヒトミはそんな彼女に溜め息を吐きつつ、


「まぁ、ちょっとした試運転代わりにはなるかしら」


 軽い調子で片足のつま先を地面に、トン、トン、と当てる。

 そして、足場を確認した後に、


挿絵(By みてみん)


「行くわよ、美緒」


 ヒトミの体から、0と1の数字が入り混じったノイズが迸った。

 その次の瞬間。

 ヒトミの姿が目の前のゴブリン、その懐へと移動して、肩から斜め下へと斬撃を振り下ろした。

 そのタイムはものの二秒。

 自分の仲間がやられた事に、他のゴブリンたちも動揺を露わにしていた。

 だが、


「次」


 それで、ヒトミの攻撃が止んだわけではない。

 再びその場から消えた、その直後に一体、また一体とゴブリンたちが倒されていく。

 さっきまで連携が取れていたゴブリンたちの動きがまるでアリの巣のように乱れる。

 だが、その光景に動揺していたのは彼らだけではなかった。


「何で、だって、レベル差は二十も………」


 コノハはこの森林エリアにリポップしたゴブリンたちのレベルを知っていた。

 そして、正体不明のプレイヤーであるヒトミのレベルも理解していた。

 ーーーいや、理解していたからこそ、現状に困惑していたのだ。

 だから、コノハは直ぐさま自分のプレイヤーデータ。

 そこに表示されているパーティーメンバーの欄にあるヒトミのレベルを確かめた。

 ーーーーーそこで、コノハは、


「な、何……これ」


 今まで見た事のない、その現象を目の当たりにした。


◆ ◆ ◆


 ーーーー緊急クエストが発令されてから四十分が経過した。

 そして、森林エリアの外郭エリアで、


「はぁ、はぁ、はぁ」


 カナは荒い息をつきながら、その場に倒れ込んでしまう。

 疲労した精神がプレイヤーの動きとしてリンクしてしまっていたのだ。

 カナは小さく歯を噛みながら力を込め体を上げる。

 そして、側にいる自分のテイムしたモンスター、キャロを抱きしめながら、


「ダメだよ、もう。じっとしてキャロ」


 その身に帯びた怪我を労っていた。

 だが、そんな二人を追い詰めるように、


「…っ!?」


 ゴブリンの大群が足跡を立て、迫り来ようとしていた。

 その数は五十体。

 そして、その全てがレベル三十。

 レベル十にやっと到達したばかりのカナにとっては、もはや絶望に近い状況だった。


「大丈夫だから…………絶対に、一人にはしないからっ」


 カナはそう言って心を強く持ちつつ、キャロを抱き締める。だが、その時。

 ふと視界の中でゴブリンの一体。

 ーーーーーその手に持つ、プレイヤーの片腕らしきものを、カナは見てしまった。


「ひっ!?」


 その腕はまるでもぎりとったかのように、付け根から先がなかった。

 そして、その腕に付けられた腕輪に見覚えがあったた。

 何故なら、ーーーーそれは、この森林エリアでゴブリンが初めて現れた時ら自分を逃がしてくれた男性プレイヤーが装備していた物だったからだ。


「ーーーーーーっ!?!?!?」


 認識した直後。

 さっきまで強く持ち続けていた気持ちが、一瞬で吹き飛んでしまった。

 体が恐怖で震え上がり、呼吸は乱れ、目尻が熱くなる。

 だが、そんなカナの様子に満足するように、ゴブリンたちはゆっくりと距離を詰めていく。


 怖い。

 怖い。

 

 カナの心は完全に恐怖に支配される。


 誰か、誰か、助けて!!

 

 誰もいない。この場で助かる手段がないことぐらい、自分が一番に理解していた。


 だが、それでも、

 助けて、っ、助けてっ!!!


 カナは必死に心の中で叫んだ。

 涙を流し、必死に助けを求めていた。

 ーーーーーそして、その思いが行き着く先で、



『カナちゃん』



 美都の顔が、浮かんだ。



「…………たす、けて………みと、さんっ」



 その弱々しいカナの声が出たと同時に、眼前まで迫ったゴブリンの一体が、その手に持つ棍棒を振り下ろす。



 ーーーーー刹那だった。



 ザンッ!!!! と斬り裂く衝撃音と共に、


「…………ぇ」

「何とか、間に合ったみたいね」


 カナの目の前に、一人のプレイヤーが立っていた。

 その姿は着物の上に魔法使いがつけるローブを着ていた。

 またその手には、ノイズが走る一本の刀が握られていた。

 だが、そんな事よりも先にカナの目に入ったのは、


「み、と……さん」

「うーん、美都とはちょっと違うんだけど。まぁ、それでもいいか」


 自分の知る彼女に似たプレイヤー。

 そのカナの問いに対して、そのプレイヤーは頭をかきつつもーーーーー小さく笑いながら、



「助けに来たわよ、カナ」



顔を振り向かせ、そう言葉を繋ぐのだった。




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