第一話 始まり
前回載せた短編を連載版にしました。
感想などいただけると幸いです!
バグ◆ダブルペルソナリティ《魔を着飾りし刀剣使い》
第一話 始まり
ダブルペルソナリティ=二重人格。
一人の人間の中に二つの人格を要する者に対し、その言葉が使われる。
そして、これはそんな二重人格を苦悩する者ではない。
二重人格を認知して尚且つ共存して生きている少女が、新しい世界【VR型MMORPG】に足を踏み入れる。
――――bugが交わる物語である。
◆ ◆ ◆
季節は夏。
炎天下が毎日のように続き、年々気温も上昇。
クーラー等の電気代が諸々加算されていく。
そんな季節頃、
「えーそれではこれで今日の授業を終えます。あ、後……佐藤美都、君はこれから職員室にきなさい」
桂木原高校にある一年の教室。
四時間目の授業が終わり皆が昼休みに入る中、一人の少女。
佐藤美都は数学兼担任教師に呼び出しを受けた。
その理由は、もちろん美都自身もわかっている。だが、その他にいた教室内のクラスメートたちからは、
「(ねぇ、まただよ)」
「(やめなさいよ、聞こえるわよ)」
陰口にも取られるヒソヒソ声が囁かれるようになっていた。
だが、美都はそれに対して気にする素振りを見せないようにしながら、一人淡々と教室を後にして職員室にへと向かった。
「佐藤、これで何度目だと思ってる」
「…………」
職員室の中にある、もう一つの個室。
その部屋に呼び出された美都は、担任教師から一枚の紙を渡されていた。
その紙には簡潔な文字で『停学通知』という文が大きく見えるよう太字で書き記され、
「高学年数人に対して、お前さんはまた怪我をさせた。もちろん、向こう側が大勢でお前さんを痛めつけようとしていた事は、周りにいた人たちからの証言でわかってる」
「…………」
「ただ、お前さんが無傷で向こうが怪我をしてちゃあ、こっちも庇いようがないんだよ。いくら、向こうが十悪いとしてもな」
そう言って、担任教師は大きな溜め息を吐いた。
そして、このやり取りは入学してから、かれこれで三回目となる。
事の発端は、遡ること二ヶ月前。
それは、いじめの一環であったのだろう。
高学年に喧嘩をふっかけられ、それを撃退してしまった事から始まった御礼参りが原因だった。
そして、その都度喧嘩をしては向こうに怪我を負わせる。そんな回数だけが増え始め、今回ついに学校側も大きく動く結果となってしまったのだ。
とはいえ、本来なら向こうから仕掛けてきたことなのだ。
それを踏まえても、高学年たちに対して退学処分が差し向けられてもおかしくないはずなのだが、
「これ以上、騒動を大きくしないようにするための処置だ。だからお前さんもちょっと反省してきなさい」
「…………はい」
噂話で『どうやらその喧嘩をふっかけてきた者の中に理事長に通ずるお孫さんがいたらしく、教師達も強く出られなかった』という話を耳にしていた美都は、それ以上反論する事はせず静かに了承の返事を返した。
そうして、夏休みまで後二週間もあるにも関わらず、佐藤美都は実質長期的な停学処分という名の夏休みにへと一人入る事になるのであった。
◆
停学処分。
本来なら生徒に加えて親もまざって話し合った結果、突き出されるのが、一般的な常識なのだろう。
だが、しかし……、
『親御さんからは、そちらで対応して欲しいと電話をもらっている』
海外出勤で日本を離れていることもあって、中々帰ってこない両親は電話で担任にそう伝えて切ったのだという。
なので、実質一人暮らしでもある美都は親なしで通知を受け取り、トボトボと炎天下の中、その帰り道を歩いていた。
だが、そんな彼女の内心で――――ボソリと、一人の少女の声が聞こえてきた。
『わるかったわね、私のせいで』
その声は佐藤美都ではない、もう一人の声。
しかし、それは何も幻聴ではない。
何故なら、その声の主は美都だからこそ理解できる、最も信頼する相棒でありーーーー
「……大丈夫だよ、ヒトミ。それに、気にしてないから」
二重人格である美都の、もう一つの人格。
それが『ヒトミ』だったからだ。
佐藤美都が持つ、もう一人の人格。
『ヒトミ』の存在を美都が認知し始めたのは、小学校に入学して直ぐの頃だった。
男子にいじめられ、一人泣いていた美都。
そんな彼女に対して男子ら更にいじめを加えようとしてきた。
ーーーーだが、そんな美都を救ったのは先生でも、またやその場にいた同級生たちでもない。
「何、美都を泣かしてるのよ!!」
それは、人格を直後に入れ替え、いじめようとしてきた男子の顔面に拳を振り下ろしたもう一人の人格。
『ヒトミ』だった。
……本当なら気味悪がるのが普通だったかもしれなかった。
だが、美都はそうは思わなかった。
そして、何より美都自身が『ヒトミ』と親交を深めたいと、そう思った。
だから、美都はそれ以降もちょっとずつヒトミとの関係性を深めていった。
たまに人格を入れ替えたり、また美都を助けるためにヒトミが出てきたり。
両親やクラスメート、その他誰にも話すことのない、美都とヒトミは唯一無二の家族となっていったのだった。
◆
『ねぇ、美都! 私の話、聞いてる?』
「……え?」
『あ、やっぱり聞いてなかった! 全く。まぁ、それはいいとして、ねぇねぇ、アレみてよ!』
「アレ?」
ちょっとばっかし、ぼぉー、としていた美都はヒトミに急かされながら視線を横へと向ける。
すると、そこにはこの街中でも少し大きな電化製品屋さんがあり、その入り口の手前にはデカデカとした看板が立て掛けられていた。
そして、美都は目を細めながら、その看板に書かれた文字を読み上げ、
「VR型MMORPG?」
『そうそう! なんでもファンタジアオンリーな世界観でキャラ育成やジョブ選択、またスキルだったり魔法だったりが盛んに取り組まれてて、それからそれから』
「ちょ、ちょっと待って。って、ヒトミ、なんか無茶苦茶このゲームに詳しくない?」
『うえっ!? そ、そう!?』
どうやら前々からこういったゲームに興味津々だったらしい。
わざとらしい口笛を吹くヒトミを尻目に、美都は看板に書かれた詳細を読んでいき、
「VRが今凄いってことは聞いてたけど、うーん」
『…………』
わざとらしく考える素振りを見せる美都に対して、ヒトミは黙りながら、ゴクリと唾を飲み込む。
しかし、そのウズウズさは気持ち的に伝わってたりもする、。
だから、美都は小さく笑みを作り、
「時間もいっぱいあるし、やってみようかな」
『やったーっ!!』
本当なら反省する期間であるのが、普通なのだが。
美都自身、反省する気持ちはさらさら無い。
こうして美都は人生初となるVR型MMORPGーーーーその名も、ジェルダクタスオンラインのソフトを買うべく店へと入っていくのであった。