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聖女の『真実の愛』

ガリレオ×アリア バレンタイン小話

作者: 黒木メイ

午前中、ガリレオはリハビリも兼ねて己が纏めている兵士達の中で希望者を募り、手合わせをしていた。

ひとしきり汗をかいた後屋敷に戻ったが、普段出迎えにくるアリアは出てこない。たまにはそんな日もあるか、と内心寂しく感じながらも一先ず風呂場へと向かう。

浴室から出るとアリアに護衛としてつけていたはずの己の従者が待っていた。


「お疲れ様です。いかがでしたか?」


「だいぶ勘は取り戻したぜ。とはいえ、まだまだ本調子とはほど遠いけどな。でも、やっぱ体動かすのはいいわぁー」


「それはようございました。ですが、あまり無理をなさるとまたアリア様に心配されますよ。アリア様も少しずつリハビリするようにと言っていたではないですか…先週も腰を痛めたばかりだというのに」


「あーアレはアリアが可愛すぎて、つい不可抗力というか…そういえばアリアは?」


「(いい歳をして…思春期の猿ですか)…アリア様でしたら調理場に」


「(聞こえたぞ…だが、何も言い返せん)…アリアが?腹でも減ったのか?」


「あなた基準で考えないでください。違いますよ。どうやら、先週街に行かれた際耳にした『バレンタイン』に興味を持ったようでして」


「『バレンタイン』?」


「今年から始まったイベントですよ。スイーツ店発祥のイベントで、『バレンタインデー』には争いごとは止めて、普段言えない気持ちを愛する人にチョコレートを渡して伝える、というものです。これが街中の若者たちに受けて今年はスイーツ店の売上が…」


「あーだから今日は若い参加者が少なかったのか…で?アリアもそのチョコレートを用意してるのか?」


「ええ、アリア様もガリレオ様に渡したいと…せっかくなので手作りにチャレンジしたいとおっしやったのてすが…」


何故か俯いて震え始める従者。


「アリア様は最初、カカオなるものをとりよせました」


「カカオというとあれか、チョコレートの原料になる」


「ええ。しかし、カカオから作るには()()素人には厳しく…諦めて今は、板チョコレートを使って作っています。作っているのですが…ぁあああ!」



顔を覆い叫び出しただ従者に思わず身を引くガリレオ。

何があったのかと聞いても首を横に振る従者。


見ればわかりますと背中を押され調理場に向かった。

そっと中を覗くと、そこには仁王立ちの鬼神(アリア)がいた。


腕を振り上げては包丁を振り下ろし、一心不乱に()()かを切っている。否、もはやあれは粉砕作業だ。

まな板上のチョコレート(仮)は摩擦のせいで所々溶けている。


補助要員だったはずの料理人達は皆壁により、涙目になっている。かろうじて、料理長だけはアリアの隣に立っているが、ここから視認できる程冷や汗が尋常ではない。



「料理長が声をかけても止まらないのです!せめて、あの刃を私に向けてくださればっ!見てくださいあの気迫!あの集中力!もはやあれは天性です!彼女は磨けば立派な戦士となり得る逸材では?!」


「あ"?アリアに傷一つでもつけてみろ…殺すぞ」


興奮冷めやらぬ従者をロープで縛りつけ廊下に放置すると、アリアの後ろに立って包丁を握る手を掴んだ。

物理的に止められたアリアが振り向く。ようやくガリレオの存在に気がついて驚きの表情を浮かべる。

アリアの手から包丁を抜き取ると料理長に渡した。料理長が安堵の表情を浮かべる。視界の端で壁と一体化していた料理人達が手を取り合って喜んでいるのが見えた。




アリアは手元から消えた包丁よりもチョコレートが気になるようで慌てて身体で隠そうとしている。


「ガリレオ様帰ってきてたんですね。いつの間にそんな時間に…こ、これはそのですねっまだ全然できてなくて」


慌てふためいているアリアを落ち着かせようと頭を軽く撫でる。すぐに顔を真っ赤にして固まった。

可愛い。可愛いが、そういう顔は他の男がいる前ではダメだ。

すぐに手を離す。途端にアリアの瞳が寂しげに陰る。

おい…それもアウトだ。



「大きめのマグカップ2つあるか?あと、ミルクも頼む」


動けそうなやつに頼んで持ってきてもらう。

鍋にミルクを入れて火にかける。泡立て器で混ぜながら沸騰させる。沸騰したら火を止めて、アリアにチョコレートを少しずついれてもらいながら泡立て器でよく混ぜる。しっかり溶けたら再び火にかけて温めて完成。


マグカップに注ぎ、少し考えて、ブランデーを少量垂らした。1つをアリアに渡す。

複雑そうな顔をしたアリアが言った。


「ガリレオ様は料理も上手なのね」


「いや、これは料理というほどでは…あー、以前は俺も野営とかしょっちゅうしてたからな。ようは経験だよ経験」


その場にいた料理人達は皆釈然としない表情を浮かべたが、ガリレオから無言の圧力を受け同意するように頷いた。


「それにコレはアリアがほとんど作ったものだろう?俺は混ぜただけだ。大変だっただろうチョコを刻むのは」


ほっそりとしたアリアの手を握って、労わるように口付ける。


「そ、そんなことはありません。…ガリレオ様のことを考えながらしていたらあっという間でした」


ガリレオ(好きな人)のことを考えていて()()()?!と再び壁と化した料理人達が心の中で叫ぶ。

しかし、ガリレオにとってはどんなアリアも可愛いアリアだ。そのアリアが自分のことだけを考えてくれていた。

昂る気持ちを誤魔化すようにマグカップを口に運んだ。


「うん、上手い。アリアの気持ちがこめられていると思うと尚更だな。さぁ、後は二人きりで飲むとしよう」


「え、ええ。あの…皆様ご協力ありがとうございました」


律儀に料理人達に頭を下げたアリアにつられて壁達も頭を下げ返す。



二人が仲良くお揃いのマグカップを持って出ていくのを見送る一同。去り際、ガリレオはアリアの笑顔に見惚れた数人に殺気を飛ばすのを忘れなかった。

二人が出ていった後しばらくして、ひょっこりと従者が現れた。


「今日は1日部屋から出てこなくなると思うのでそのつもりで、手軽にとれる軽食を準備しておいて下さい。…あの様子だと下手したら数日巣ごもりするかもしれませんね」


小さな声で何かを呟いた従者は足早に出ていった。

『猿』とか『対策』とかの単語が聞こえたので駆除の仕事でも任されているのかしれない。


とりあえず自分たちは言われた通りにするだけだ。

平常心を取り戻した彼らは通常業務に戻った。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

ちなみに、王都ではなく辺境が舞台です。

ハッピーバレンタイン!

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