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お嫁にいきたくない巫女姫  作者: 葛リ漣
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婚約なんてしません

『アルメア大公国』


 神が造り上げた国とされ、純粋で豊富な神聖力で満たされた何にも侵されることが許されない大国である。

よって他の国との交流は少なく、謎で満たされた国としても有名だ。

 神の城をモチーフとされた王城はとても神秘的で、国の周りは神聖力を使った結界で視認できないようになっているため見つけるのも困難だそう。


 そこの唯一の公女であり歴代最高の神聖力を持って生まれた巫女姫―—―『シャロン・リューヤ・アルメア』

 彼女の(ひかり)に照らされると彩り輝く長い白銀髪はそよ風にもふわっと靡き、琥珀の瞳は宝石のようで、所謂美少女の部類に入るのだが…その綺麗な顔は今、とても不機嫌な顔をして、王の間で玉座に座っている父こと聖王、『レイガウス・リューヤ・アルメア』を見上げていた。


「…何でしょうか、お父様。」

「…何でそんな不機嫌そうなのだ…。」


 それは当然、お菓子を楽しく頬張っていたのに急いで来るようになんて呼び出されでもしたら誰でも機嫌悪くなると思うけど…。


 と、心の中で思うが口には出さない。


「ほん…!それで内容というのがな、アルディーノ帝国の事は知っておるな?」

「まぁ…この大陸で1・2を争うほどの戦力を持つ大帝国という事と、第二皇子は類稀なる魔法の実力者で《戦場の鬼神》と言われる程だとか…。その位しか頭に入ってませんが。」

「うむ……先程、アルディーノから伝令が入ってな…。」


 お父様の顔が険しい…何だろう。まさかアルメアに戦を仕掛けてくる馬鹿ではないだろうし…というか、それは世界協定で侵してはならない規律で定められてるから万一もないと思うけど。


「その戦場の鬼神と呼ばれる第二皇子が、『天災』の障りに触れたらしく意識不明の重体だそうだ…。」

「“天災”…。」


【天災】


——約600年前、“天災”と呼ばれる混沌が世界を襲い終焉をもたらそうとした。全員が絶望したその時、一人の神の力を宿した少女が力を全て使い打ち破ることが出来た。しかし、完全に倒す事は叶わず、封じることで戦いを終わらせた———―


 その天災の障りと言うのが、封印から僅かに漏れ出る瘴気の事である。封印しても天災の力は強く、解放されようと封印を破ろうとしているのだ。その抵抗が瘴気を外界に漏れ、それが魔物を生み出す害で、人間にとって毒になり身体を蝕む。


「第二皇子はどうして瘴気なんかに?今どことも戦争してませんよね?どこかに戦いに行くことなんて…。」

「事の経緯(いきさつ)が、アルディーノ帝国の東にトレイヤの森があるんだが、精霊の知らせでその森に魔物が増えてきてるらしくその討伐に向かったらしい。そこで瘴気に当たりすぎてしまった…と言うのが聞いてる話だ。」

「精霊が何故?」

「第二皇子は精霊に好かれているらしい。」


 珍しい。まだこの時代に精霊に好かれる人間がいるなんて…まぁ、一応私もその珍しいのに入るのだけれど。


「それと私が呼び出された事に何が関係あるんですか?」

「うむ…その第二皇子をお前の神聖力で助けてほしいと頼まれたのだ。」

「えっ…別に私じゃなくても神殿の司祭とか神官の人でも治せますよね?」

「普通ならそうなんだがな…駄目だったそうだ。どの神官達の神聖力も効果が無いらしい。」


 神聖力が効果が無い…?


「それって私の神聖力も効果が無いんじゃ…。」

「それは分からん。ただ、皇帝からシャロン指定で頼まれたのだ。最後の頼みの綱のつもりなんだろう。」


 そう言って私を見ては渋い顔をするお父様。流石お父様、私の考えてることが分かっているようで。生まれてこの方16年。何処かに赴くとかが面倒で、鍛錬を言い訳に国に引きこもっていただけの私が素直に行きますと言うと思っていないんだろう。

 そしたら知らない間に歴代最高の巫女姫とか言われるようになって、すっかり有名人扱いになってしまった事がかなり解せない。


「行ってくれるな?」

「他の方にお願いします。」

「シャロン…お前を甘やかして外に連れて行かなかった儂も悪いと思うが、そろそろ外界を知ってもいいと思うぞ…。それに助けを求めてる人がいるのだから少しは返答に躊躇うなどなぁ…。」

「………………。お父様、私怖いんですっ…私が外の事を知らないと分かっててたった一人の娘を行かせるんですかっ…!?」

「王命だ。行ってこい。」


 …チッ。


 必殺うるうる涙目攻撃が遂にお父様に効かなくなってしまった。


―――――――—―

――――—―


「姫様、馬車の準備が出来たそうですよ。」

「…今行くわ。」

「いいじゃないですか。王子様を助けに行く天使様。ロマンチックだと思いませんか~!」

「頭の中に夢が詰まってるのね…。」


 この女性は私の専属世話係の侍女でエリーという。今城を出る私の背中を押して馬車に乗せようと頑張っている。エリーと私は対面で椅子に座ると、私の不服そうな顔を見て苦笑いをする。


「そんなに国の外に出るのが嫌ですか?帝国の皇子を救う事が出来るなんて名誉な事じゃありませんか。」

「…面倒だから助けたくない訳じゃないのよ。」

「?では何が…。」


 そう。助けたくないとかじゃない。……私が本当に小さい時に一回だけ何処かの帝国の建国際に行くためにお父様とお兄様達と出た事があって、その時に不気味な声が聞こえたことが怖くて直ぐ国に帰る事になってしまった出来事がある。


 またあの声が聞こえるんじゃないかと思うと…出来れば出たくない。


『シャロン……』


 悍ましく冷たいあの声。小さい頃の私にってはかなり印象づいた記憶になった。


「…ま、私に治せるかも分からないけどね。」

「姫様の神聖力を前に敵なしですよ!」


 少し不安を抱え、私は数十年ぶりに国の外に行く事になった。

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