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02

「珠姫ちゃんから聞いたよ」


 ま、頼んだのは俺だから責めるつもりもない。


「でも、学校の時の半場くんは怖い……から」


 学校の時の俺が怖い?

 寧ろ外にいる俺の方が自然体で怖い可能性があると思うが。


「だから話したくないの」

「いや、話したくないなら別にそのままでいいぞ」


 理由が知らないから気になっていたというところはあるし。

 これで拘る必要もなくなったわけだ、しかも大して自分から動くこともなく。

 これほど楽なことはない、話したくないということなら従っておけばいい。


「教えてくれてありがとな、じゃ、俺は続きを走るから」


 よし、俺もそろそろ他に仲のいい女子を作りたいと思う。

 幡中と蓬田を見ているとそう思う、同時に焦れったくもあるがな。

 大体5キロぐらいで終わらせておいた、雨だって降りそうだったから。

 流石に合羽なしじゃ走りたくない、風邪を引いたら毎日継続ができなくなる。


「ただい――なんだと……?」


 明らかに男用の靴。

 しかも学校専用のではなく普通のだからわざわざ家に帰ってから遊びに来たことになる。

 さらに言えばこれは絶対に妹の……ぐぅ。


「あ、お兄ちゃんお帰り」

「い、いるのか?」

「うん、遊びに行きたいって言っていたから」


 そうか、なら兄にできることはなにもない。

 どうせやることもないから部屋に閉じこもっておくことにしたよ。

 俺が変なことをすると悪影響を与えかねない、出しゃばればいいわけじゃないのだ。


「ちょ、見るんじゃなかったの?」

「必要ない、お前が家に連れてきているということは信用できるってことだろ」

「今日のそれは一緒に勉強するだけだけどね」

「ああ、頑張れよ」


 かわりに部屋でやってもらってこちらは飯を作ることにした。


「どいつもこいつも恋しやがって」


 羨ましい、俺もそういう女子と出会いたい。

 年齢=恋人いない歴をこれ以上更新しないためにも努力しなければ。

 だが、学校にいる時の俺が怖いと言われたばかりだ。

 外でナンパなんてできるタイプではないし、どうしたって難しくなる。

 しかも勝手に来てくれるのであれば非モテだったのがおかしい。

 つまり無理、がっつけばがっつくほど怖がられて終わりという感じだろうな。


「お兄さん、ちょっといいですか?」

「お、おう」


 頭良さそう、学級委員とかやっていそう。

 俺に挨拶をしてきたって上手くいくかどうか妹次第だぞ。


「俺は三好知秀ともひでと言います」

「俺は半場謙輔だ」

「よろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」


 わざわざ自己紹介するということは本気だということか?

 そんなの兄として見守るしかできねえじゃねえか、もっと派手なら対応が楽なのに。


「あの、俺と友達になってくれませんか?」

「別にいいぞ」

「ありがとうございます、お兄さんと仲良くなれれば由佳ゆかさんともいられますからね」

「そういうのは思ってても言うな」


 応援してやろうと決めた。

 どんなに応援しようが決めるのは妹だがな。




 

 俺は席に張り付くことはせず、教室には基本的にいないようにした。

 少しでも活動範囲を広げなければ可能性は出てこない。

 だが、


「それで出会えたら苦労しねえよなあ……」


 無理だ、もしできるのなら非モテをやっていない。

 だからあの渡り廊下で座ってぼうっとして。


「なにしてんのよ」

「出会いを探していてな」

「あんたが? つか、それで見つかるわけないじゃない」

「お前らを見てると羨ましくなるんだよ、非モテだから尚更な」


 知ってるよ、見つからないことぐらい。

 来てくれるのだとしても他の場所に用がある人間だけだ。

 それかもしくは彼女みたいに可能性がない人間だけ。


「あたしの場所を奪うんじゃないわよ」

「ああ、譲るわ」


 できれば寝転んで空が見える場所の方がいい。

 屋上がいつでも開放されているから今度からはそうするか。

 で、


「また通せんぼか?」


 怖いと言っておきながらなにがしたいんだろうな。


「……この前はごめん」

「いや、無理して話さなくていいって」


 別にそこを責めようだなんて考えていない。


「もう拘ってねえよ、自由にしてくれ」

「……それって話せなくてもいいってこと?」

「本人が嫌ならしょうがないだろ」


 こうして会話できてしまっているわけだが。

 欲のセンサーってやつか、いつもこんなんだよなと。

 こちらが興味をなくすとこうなんだよな、人生上手くいかないものだぜ。


「半場、来なさい」

「おう、それじゃあな余宮」


 先程まで一緒にいたのになにか言い忘れたことでもあったか?


「せっかく学校で話してくれてるのになに馬鹿なことをしているのよ」

「本人が学校では怖いって言ったんだよ」

「それってあの日の後に?」


 頷いたら「瑶もよく分からないわね」と彼女は呟く。

 とにかく言えるのは無理をしてほしくないということだ。

 無理させてまで話すのは違う、俺は幡中みたいに遠慮せずに言い合える仲でいたい。

 その時にいまのままだと必ず支障が出てしまう、なにより気を使っているのが見えたらこちらが気になってしまうから。


「つかさ、俺って怖いか?」

「全然? 寧ろだらしないから男として見られないぐらい」


 そんなにだらだらしている感じは出してないつもりだったが。

 寧ろ止まっていることに不安を覚えて常に動いているまである。

 寝る時間も短くて早朝から走りに行くこともあるぐらいだぞ。


「直しようがないんだよな、自覚がないから」

「あの子にも特に闇があるというわけではないわ。あ、悪口を言われていたことはあったけれど、それは同性からだからね、男の子とは上手くやっていたと思うわ」


 なら単純に俺が駄目ってことか。

 それなら話は早い、現状維持をしたまま2年生を終えればいいだろう。


「つか、悪口とかしょうもねえな」

「あの子は楽しく走っていただけだったんだけどね」

「ちっ、そういうの聞くとむかつくわ」


 なにができるというわけじゃないとはわかっていてもだ。

 自分も走るということがもう好きになっているから少しぐらいは分かる。

 楽しい、なにより精神が疲れなくて済む。

 自分の思考で精神疲労を起こしていたら馬鹿だからな。


「ふっ」

「ん? なんだよ?」

「いや、もういいわ」

「おう」


 もう教師も来るし戻らないといけない。

 ……席に座ったら滅茶苦茶余宮のやつが見てきたものの、なんとか気にしないように授業に専念した。




 無言で見つめられることほど怖いことはない。

 高校2年生の男が女子に見つめられて恐れているという情けない事態が発生していた。

 余宮よ、本当に怖いのはいまのお前みたいなやつのことを言うんだぞ。

 それでも敢えて喋らないというところが彼女らしい。

 気にせず外に出たら普通に付いてきてさらに怖い思いをすることになった。


「よ、余宮、なんだよ?」


 これなら話しかけた方が精神衛生上いい。

 もしかしたらこれが目的だったのかもしれないな。


「……気にせず走ればいいよ」

「あ、なら一緒に走るか?」

「それなら着替えてからがいい」


 そりゃそうだろ、制服のままじゃ俺だって嫌だ。

 集合場所は俺の家ということにして一旦別れた。


「あ、お兄ちゃん」

「なんだ? 俺、いまから走りに行くんだが」

「私も行く、たまには運動したいから」

「そうか、なら行こう」


 いまの余宮は怖いから由佳がいてくれると助かる。

 乙女心が分からないからモテないかもしれないとハッとなった。


「誰その子」


 外に出たらもういたから妹だと説明しておく。

 由佳は俺の後ろに隠れて「ひとりだけじゃなかったんだ」と呟いた。

 怖いから仕方がなかったんだ、申し訳ない。

 とりあえず走り出す。

 が、流石若いと言うべきか由佳の方が速かった。

 情けない、男なのになにも勝っていないことが。

 そのうえでリア充になれるかもしれないというところまできているんだぞ……。


「余宮先輩と兄はどういう関係なんですか?」

「クラスメイトだよ」

「友達ではないんですか?」

「うん、半場くんのせいで」


 違うだろ! 否定してくれているのは余宮だ。

 彼女と仲良くなれるのなら色々な意味で面倒なことにならずに済むのに。


「兄がすごい顔をしていますけど」

「半場くんはいつもああいう顔だよ」

「そんなことないですけどね、優しくていい兄ですけど」


 嬉しいなマジで。

 特になにをしてやれているわけではないが悪く言われるよりはずっといい。


「由佳ちゃんは学校での半場くんを見られないからだよ」

「む、別にそれでもいいですよ、兄は優しいんですから」

「分かってない、いいところしか見ないのはだめだと思う」

「逆に悪い部分ばかり探そうとするのもだめだと思いますが?」


 凄え、なにが凄えって走りながらこの会話を続けているんだからな。

 というか、やはり余宮の中のイメージは悪いようだ。

 多分どうしたって良くはできないと思う、お互いの相性的にも。


「……生意気」

「そりゃ身内のことを悪く言われたら気になりますよ」

「謝らないよ、本当のことしか言ってないんだから」

「別にそれでいいですよ、ただこのまま続ける気なら兄に関わらないでください」

「そんなの私の自由でしょ」

「違います、兄が受け入れるかどうかですよね?」


 言い争いをやめさせて走ることに専念させた。

 頭を空っぽにして走れるから魅力的だったのにこのままでは駄目だろう。

 終わって別れた後に言われた、余宮といない方がいいって。

 俺も特に拘らず終わらせようとしたのだが、本人によって中途半端な関係になっているわけだ。


「お兄ちゃんこそ関わる人をちゃんと考えなよ」

「あー、まあ悪いやつじゃないからな」

「騙されてるっ、そうやって甘くするからああいう人が集まるんだよ」

「大丈夫だ、心配してくれてありがとな」

「むぅ……」


 多感な時期でも優しい妹でいてくれていることに喜びを覚えている。

 誰かひとりでもこういう人間が側にいてくれるだけで十分だ。

 なんだかんだで幡中と蓬田もいてくれるからな、あのふたりがいれば余宮とも対応しやすいし。


「由佳は三好と仲良くしろよ?」

「今度一緒に映画見に行く約束したの」

「おぉ、楽しんでこいよ」

「うん……ありがとう」


 こちらは現状維持しようと思っていたのにできなくなってしまった。

 いまのままでは怖い、そのために話し合う必要がある。

 そのため、あの場所に連れてって疑似的にふたりになることにした。

 あ、もちろん翌日に、だけれども。


「余宮、俺のどこが怖い?」

「……こういうところ」


 って、それなら詰みじゃねえか。


「待て、それならどうして外ではふたりきりになろうとする?」


 というかここだって本当は外に分類されるだろ。


「ふたりきりになろうとなんてしてないよ、走った先に半場くんがいるだけで」

「じゃあなんで睨んできたんだ?」

「――? 私は外を見ていただけだけど」


 どこか怒っているように見える。

 由佳が俺を擁護したことについての怒りか?

 それかあれか? 由佳を使って言いたいことを言ったと思っているのか?

 まあいい、こうなったら絶対に遭遇できないところを走ろうと思う。

 礼を言って解散することにした。


「半場くん」

「なんだ?」

「自惚れない方がいいよ」


 ちっ、くそこのやろう。

 実際、似たようなことをしているからなにも言えなかった。

 なんだこいつは、蓬田にはしっかり見ておいてもらいたいものだ。

 むかつくから教室まで走ったし、その後の休み時間だって屋上まで走って過ごした。


「絶対に遭遇できないところってどこだ?」


 時間帯も変えなければならない。

 早朝と夕方頃から少し変化をみせないとまた遭遇してしまう。

 だが、シャワーを浴びていくことを考えるとやはり早朝に走るしかないわけで。


「って、普通のところ走ったっていねえじゃねえか」


 全部俺の自意識過剰で片付けられるならこれほど楽なことはないか。

 学校に行ってももうこちらを見てくることすらなかった。

 席替えがしたい、訳の分からないこいつから離れたい。

 で、どんな偶然か実際に席替えということになって離れることができた。


「よ」

「おう、よろしくな」


 しかも幡中の横になるという奇跡っぷり。

 こいつはやかましいが分かりやすいから助かる。

 ここで問題発生、その幡中の向こうが蓬田なんだよなあ。

 ひとりだけならまだしも、ふたりがセットになるとどうしようもないというか……。


「先生、私、あそこに移動したいです」

「え、どうしてですか?」

「視力がそんなに良くなくて、眼鏡を買うお金もないですし……」

「わ、分かりました」


 ……なんで担任もそんなに聞き分けがいいんだよ。

 いままでこいつは1番後ろだったんだぞ? なのに視力がそんなに良くないとかあるかよ。

 ああ、幡中ぁ……あいつはひとつ後ろになってしまった。


「よろしくね、珠姫ちゃん」

「うん、よろしく」

「よろしく、幡中くん」

「よろしくー」


 そもそも期待していなかったがこちらには当然のようにありませんでした。

 蓬田や幡中が目当てだと考えておこう、あの担任にはもう少し強気な姿勢を見せてほしいものだがな。

 どちらにしても俺は休み時間だって教室にいないのだから変わらない。

 あいつも興味がないから追ってくることはないわけだし、屋上というのはなんとも落ち着くものだ。


「走りてぇ……」


 いつの間にかじっとしていたくないからという理由だけではない気がする。


「走ってくればいいじゃない」

「そうもいかねえだろ、俺だってできればそうしてえよ」


 結構遠くではあるが海が見える。

 今日はあっちの方まで行ってみようと決めた。

 フェンスを握って、近くではなく遠くを見つめて。

 なぜか現れた蓬田は俺の横に気にせずに座った。

 汚れるの気にしないのかと聞いたら、「ここは大丈夫よ」なんて無根拠なことを口にする。


「くそ……」

「瑶のこと?」

「当たり前だっ、俺はやっと離れられると思ったのに……」


 勘違いじゃねえ。

 あいつは長距離を走るから走る先で会うというのはまだ分かる。

 でも、俺は何度も時間帯を変更していたのにも関わらず、ああして遭遇していたのだから。

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