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温泉地へ!

 明けて翌日。今日は、合宿の日だ。学校は、土曜日で休みだ。


「先輩……おはようございます」

「ああ、おはよう」


 俺の家まで迎えに来た蔵前に、爽やかに挨拶をする。そんな俺を、蔵前はジロジロと無遠慮に見つめてくる。


「心配するな。もう治った。昨日、日記を読んでたら、正気に戻った」


 昨夜、日記を書こうとして、これまでの日記を読み直しているうちに、俺は正気を取り戻したのだ。いまなら来未のイチゴパンツも鮮明に思い出せる。


「よし。行くか、合宿! いつまでも俺も逃げてられない。しっかり書くわ!」

「ようやく、先輩元に戻ってくれたんですね……。かなり、ホッとしました……よかったです」

「現実逃避していても、しかたないしな。その……返事は、もう少し待ってくれ」

「わかりました。まぁ……先輩が元気なら、それでいい気もしてきましたけどね……」


 そうして、蔵前と一緒に駅まで歩いていく。待ち合わせ場所である駅前の時計台には、すでに妻恋先輩と来未がいた。来未の奴は、妻恋先輩の背中に隠れながら、こちらを警戒するようにチラチラと見てくる。やっぱり猫っぽい。


「安心しろ。悟りの境地から帰ってきた。ここが現実だ」

「先輩、ぜんぜん大丈夫そうじゃないですよ、その発言……」

「う~ん……? ま、いつもの新次かな……。別の意味で変なこと言ってるし」


 なんにしろ俺は変じゃないとだめなのか。


「よかった、新次くんっ……元に戻ったんだねっ……あのままだったら、どうしようかと思ってたよっ……。そ、それじゃ、そろそろ時間だから、電車に乗ろうっ」


 妻恋先輩に引率されて、ぞろぞろと特急電車の発着ホームへ向かう。


「って、……マネーは?」

「大丈夫。ちゃんとあたしがセ●ン銀行でおろしておいたから!」

「そうか。なにぃ!」


 いつの間に俺のキャッシュカードを……! こいつにマネーを渡しておくのは非常に怖い。全額使われそうだ。


「さ、すぐにカードを返して、下ろした金をこちらに渡せ。可及的に速やかに、だ」

「信用ないなぁ。……はい」

「……って、それ俺の財布」


 カードどころか、財布ごと奪われていたのか。こいつの手癖の悪さはなんとかならんのか。そうこうするうちに、電車が来た。


 白とオレンジのコントラストが、ナウい(表現が古い)。

 言葉って、流行り廃りがすごいよな。そんな中から残った流行語がやがて一般化して、今の社会に残っていったんじゃなかろうか。古典読んでても、意味がかなり変わった言葉があるし、ほぼ死滅した言葉もあるし。

 まぁともかく。まずはレッツ乗車。Go To北関東。


※ ※ ※


 電車の中では、ひたすらトランプをして過ごした。しかも、ずっと大貧民。

そして、ほとんど来未の一人負けだった。やはりこいつは人にたかるしかない人生のようだ。


「で、電車とバスを乗り継いでやってきたのは……」

「某温泉ですよ」

「なんで作家って温泉が好きなんだろうな……」

「……温泉が好きとかそういうんじゃなくて、自然だらけで誘惑がなにもないから、書くしかないんだと思いますよ。缶詰です、缶詰」

「俺は山の上ホテルのほうがよかったんだが……」

「思いっきり都内じゃないですか。そもそも、先輩なんか行ったらつまみ出されます。売れっ子作家ぐらいじゃないですか? あそこに缶詰になって書いてるの。まぁ、一般人でも金を出せば泊まれるみたいですが」


 東京都千代田区にある山の上ホテル。そこは、作家が缶詰になることで有名なホテルだ。出版社のメッカである神田神保町からもすぐ近くで、秋葉原電気街からも近い。最寄り駅は御茶ノ水駅。一度、野次馬根性でホテルの前を歩いたことがある。それはそれとして、


「さ、先輩。さっさと旅館に行って、バリバリ書きましょう!」


 そのために、ノートパソコンもアダプターも持ってきている。あとはそう……俺が本気を出して書くだけだ。一方で、


「もぐもぐ……そういうわけで、あたしは遊んでるから、がんばって」


 さっそく俺から再奪還した財布で温泉饅頭を食っているこの駄メイド。


「お前、さっきからすごい目立ってるんだが……羞恥心とかないのか?」

「だって、メイド服好きなんだから、しかたないじゃない。メイドもどきだもの」

「みつを風に言う意味が見出せない……それにお前、本業メイドじゃないだろが」


 こんな会話をしていると酸素と語彙と時間の無駄だ。しかたない、ここまで来たんだ、書くか。


 来未に付き添うという妻恋先輩を置いて(妻恋先輩の原稿の進捗状況は極めて良好らしい)、俺と蔵前は一足先に旅館へ向かった。


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