第94話 百人千色
朝比奈たち六人はまずはどんな内容にするかを決めた。そして決めたら、今度は一連の流れを考え、そして小説を書き上げた。
六人六色?違う。
その小説には、それぞれ六人が出会ってきた多くの者たちの色が入っていた。
皆これまで多くの者と出会ってきた。だからこそ、その小説には六色なんかでは足りない。これまで出会ってきた多くの者へ、その感謝のための小説であった。
「では結果、桜河梓100点、そして六人の小説家120点、よって、勝者は六人の小説家とする」
桜河梓は目を見開いて驚いていた。
「120点?ちょっと待ってください。どういうことですか?」
「梓。確かに梓はまだ幼い小説家の中では優れている。いや、優れすぎた」
そう言いつつ、松本蓮華は会場へと姿を現した。
「お前は自慢の娘だ。だがな、一つだけ欠点があるんだ。それは孤独に生きているからこそ、見えないものなんだ。なあ梓、一人で書いている小説よりもな、皆で知恵を出し合う小説は楽しいんだ。梓の小説には楽しさがない。だからいつも満点のまま、その先にはいけなかった」
「でも私は……居場所なんてどこにもないんだ。小説という場所にしか……居場所はないんだ」
「なあ梓、お前にはいるじゃないか。今日の敵は今日の友」
松本蓮華は朝比奈つばめたちに視線を向けた。
「正直者は報われる。だってさ、自分が生きたいように生きられるんだ。それ以上の幸せがあるか。だから梓、前を見て、そして進め。希望なら、そこにあるだろ」
梓は一歩一歩朝比奈へと足を進めた。
躊躇いはあった。悔しさもあった。けれど、そこには希望があった。
歩み寄る梓へ、朝比奈は歩み寄った。
「なあ桜河。居場所が無いなんて言うな。お前の居場所はここにあるじゃんか。僕も最初は分からなかった。自分は何が欲しかったのか。でもようやく気づいた。ここに来て気づいたんだ。なあ梓、僕たちと、小説を書かないか?」
差し伸べられた手のひらは、とても不器用で、そしてとても頼りになるとは言いがたいものであった。けれどその手は、とても温かく、そしてとても優しいものであった。
私は今日、初めて居場所を見つけた気がした。だってここが、一番居たいと思える場所だから。
ーーきっと誰もが主人公なんだ。




