第9話 小説家の舞台。
香月さんの父は扉を開けた。そこに広がっていたのは、僕が憧れていた景色だった。
「有名な小説家がたくさんいる!」
大きな広間に多くの机が並べられていて、その上には豪華な料理がたくさん並べられていた。
部屋の奥にはステージがあった。
僕が驚いていると、香月さんは教えてくれた。
「実はうちのお父さん、新人賞を受賞した小説家だったんだよ」
僕は驚きすぎて脳が混乱していた。
僕は小説家の娘に小説の内容を教えてたと思うと、少し恥ずかしくなってくる。
「さあ、行こ」
香月さんに背中を押され、多くの小説家がいる中を、僕は香月さんと歩いた。
テーブルに並んでいる料理も豪華で、とても豪華なパーティーだった。
「朝比奈くん。お腹空いてるでしょ」
香月さんは僕に皿にのった肉を渡してくれた。脂がたっぷりとのった豚肉。
だが子供に言われたことを思い出すと、食欲が無くなる。
「朝比奈くん……」
急に照明が消され、辺りは真っ暗になった。と、思えば、ステージの照明だけがパッと照らされた。
そこには香月さんの父がマイクを持って立っていた。
「皆さん。私の記念すべき10作目となる小説。"フェニックス"が発売となりました。既にアニメ化が決定されたのは、非常に嬉しいことです」
確か"フェニックス"の作者のペンネームは、香月 玄武。香月から香月に変えていたから気付かなかった。
そんな大物に出会えただけで、僕は幸せなのかもな。
「だがしかし、私の小説はまだまだです」
まだまだ!? 僕は香月玄武が書いた小説は全て持っている。そんな奴が謙遜すると、無性に腹が立って仕方がない。
僕は会場から出ようとした。
「なぜ私の小説がまだまだなのか?それはある少年に出会って、やっと気付きました」
ある少年?
背中越しから聞こえてくる香月玄武の声に、僕は耳を傾けていた。
「その少年の書いた話は面白くはありますが、説明が多すぎて飽きてしまいます。だから子供からつまらないと言われ、ひどくがっかりしていました」
あれは傷ついたな。
「少年は小説家を諦めようとしていました。私は愚かだと思いました。そりゃそうですよ。たった一言のアンチコメントで、夢を諦めようとしたのですから」
ああ。僕はメンタルが弱いよ。
「それで諦めて何が悪い」
僕は大声でステージにいる香月玄武にヤジを飛ばす。
会場にいる皆が注目するが、僕はそんなことを気にしない。
「僕は向いてないから諦めたんだ。誰も喜ばないから諦めたんだ。進む道を間違えたら、誰だってやり直すだろ。それと同じだよ」
「いいや。君は違う」
僕の言葉を、香月玄武ははっきりと否定する。
「朝比奈つばめ。君は怖がっているだけなんだ。小説を書き、失敗すれば君の親は哀れな目で君を見るだろうな」
「だから諦めたんだ……。それの何が悪い」
「朝比奈つばめ。私が君を雇ってやろう」
「え!?」