第3話 青春のやり直し。
「朝比奈くん。君に絵本の内容を考えてほしいの」
僕は校舎の裏庭で出会った同級生にそう言われた。
次の日、僕は今まで創った設定の中で、一番子供ウケが良さそうな設定を選び、香月さんが待っている裏庭に向かった。
香月は裏庭に生えた大きな木に座って寄りかかり、静かに絵本を読んでいた。
「あ。朝比奈くん来てくれたんだね!」
香月さんは満面の笑みで僕に手を振ってくれた。僕は設定を細かく書いた資料を香月さんに渡した。
「へえ。虫になった少年が、虫の世界で生き抜くお話か! そうとう面白い設定だね」
どの会社にも通らなかった設定を、香月さんは褒めてくれた。
僕は嬉しくなって詳しく説明をした。
「実は主人公が虫の研究をしていてね、それで虫の能力や弱点に詳しいんだ。だから主人公はその力を使って虫と戦うっていう物語なんだけど……どうかな?」
「面白いよ。こんなに面白い設定は初めて見たよ」
香月さんは設定を書いた資料をくしゃくしゃにしそうになるほど、設定を何度も見た。その時の表情はとても楽しそうで、僕が頭の中で小説を書いているのと同じ表情している。
もしかしたら香月さんは頭の中で絵本を描いているのかもしれない。
設定を読み終えた香月さんは、茶色いリュックの中から、スケッチブックと鉛筆を取り出した。
「今から絵を描くの?」
「うん。ピークが来たタイミングで描かないと、良い絵本が描けないからね」
それから香月さんは無言で鉛筆を走らせる。その画力は、ピカソをも圧倒する腕前だった。
僕は香月さん真剣な眼差しを見て感動した。
こんなにも僕の設定を形にしてくれるなんて!
嬉しくなって、心が騒ぎたいと言っている。誰だってこんなに嬉しいことは無い。
そんなことを考えている内に、香月さんは絵本を描き終えた。その絵は……言葉に表せないほどの才能だった。