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死神⑴

 ゆらーりゆらーり、揺りかごの上にいるような安心する気持ちよさ。ザバーンと打ち寄せては引いていく波の心地よい音。ああ、ここは天国なのか? そうか、俺は自殺に成功したんだな。ん? コレーはどこだ?

 コレーを探すために侑里は目を開け、起き上がる。

「ん?! ここはどこだ?!」

 侑里は真っ赤な河に浮かぶ小さな船の上にいた。異様な景色に驚く侑里。取り敢えず自分の手を触ってみる。しっかりとした感触がある。いまいち自分が生きているのか死んでいるのか理解が出来ない。

「すみません」

 急に真後ろからした声に動揺した侑里は声にならない声を上げる。侑里はすぐさま真後ろの声の主を確認するが、今度はその声の主にびっくりしてまたも声にならない声を上げた。声の主は頭の先からつま先まで真っ黒の布を被っており左手には大きな鎌をもっているまさに死神というにふさわしい格好だ。その死神のような奴がこちらに顔を近づけているからもう度肝を抜かれる。

「誰だ?!」

 侑里は慌てて呼吸を整え真後ろにいた人物に訊く。

「私はカロンと申します。この渡し船の船長をしております。ちなみにこの河はアケロン河と言います」

 その不気味な容姿とは裏腹に丁寧な言葉づかいで侑里に語りかけた。その言葉遣いに少し侑里の警戒は解けた。

「カロンか……、あ、俺は侑里だ」

 丁寧なカロンに釣られて侑里も自己紹介をする。

「わかっております。岸本侑里様ですよね。首吊り自殺をしたんだとか」

「え?!」

 全てがバレていることに侑里はまたも驚きを隠せない。

「何で知ってるんだ? というかここはどこなんだ」

 侑里の頭の中はハテナでいっぱいだった。

「そうですね。ではここがどこか、というところからお話いたしましょうか」

 カロンは顔を上げて船の進行方向を見ながら続ける。

「ここは冥界へ続く河でございます。冥界とはいわゆるあの世のことです。このアケロン河を渡った先が冥界の入り口です。この船にあなたを引き取ったときに一緒にあなたの情報も引き取りました。なので全てを把握しているのです。ここまでは大丈夫ですか?」

 そう訊かれたが、侑里の頭の中は既にいっぱいいっぱいなのでなかなか整理できない。

「俺はちゃんと死んでいるのか? コレーはどこにいる?」

 取り敢えず気になっていることをカロンに訊く。

「はい。侑里様は首吊り自殺に成功しまして無事に死んでいます。コレーという名前の者はおりませんが、あなたを迎えに行った使者なら冥界のほうに先に着いていると思いますよ」

 カロンは丁寧に答えてくれた。

 『あなたを迎えに行った使者』という言い方に多少の違和感はおぼえたが、たしかにコレーは侑里が着けた名前だったのでそういう言い方になるのかと自分で解釈した。

 そう考えていると急に霧が濃くなってきた。

「この船このまま進んで大丈夫なのか?」

 侑里は心配でカロンに訊く。

「はい、大丈夫です。少し眠くなるかもしれませんが安心して寝ていてくださいね」

 カロンがそう言い終わると同時に急激な眠りに襲われ侑里は気を失った――。


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