表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

決意⑵

「コレー、ちょっとこっち来て」

 侑里は自室のソファに座って、トランプで一人遊びをしているコレーに声をかけた。

 その表情はいつになく真剣だ。

「どうした」

 コレーは訊く。

「俺……、自殺しようと思うんだ」

 突然の申し出にコレーは驚いた。

「自殺? 何故だ」

「自殺したら死ねるだろ? そしたら俺もコレーと一緒で幽霊になれると思ってさ」

 侑里の目は輝いていた。

「そうか、それがお前の出した結論か」

「おう、そうだ」

 侑里の覚悟は固いようだった。

 コレーは深呼吸をして言った。

「たしかにお前が自殺すれば儂と同じ世界に来れるし、お互い触れるようになれる。ただ、二度と今いるこの世界には戻れなくなるが、それはいいのか?」

 コレーなりに侑里のことを心配しているようだった。

 だが、侑里は違った。

「この世界? そんなもんどうでもいいし俺にとってはこの世界に価値なんてない。両親は近所の人に俺を見られたとき貧乏そうだったら恥ずかしいから金をくれるだけ、女どもは顔がいい俺を隣に置いておきたいだけ、男どもは俺といることによって女に近づけるからいるだけ。そんな本当の信頼なんてこれっぽっちもない、ただ相手を自分のアクセサリーにしたいだけの人間関係なんてもう嫌気が差すどころじゃない。虫唾が走る。こんなクソみたいな世界なんてこっちから願い下げだ」

 嫌悪感を露わにした表情で早口で言い放った。

「そうか……、じゃあ儂と同じ世界に来ようぞ!」

 コレーは満面の笑みで侑里に言った。

「おう!」

 コレーにつられて侑里も満面の笑みで答えた。

「そうと決まればさっそくどうやって自殺するか考えなくちゃだな! んー、何がいいだろうな。首吊りか、飛び降りか……」

 侑里はこれまでにないほど楽しそうに自分の死に方を考える。コレーも楽しそうに聞いている。

 侑里は考えながら何となく天井を向いた。そこには立派な(はり)があった。

「この梁を使って、首吊りなんてどうだろう?」

 コレーに意見を求めた。

「すごくいいと思うぞ!」

 侑里の自殺方法は首吊りに決まった。さっそく侑里はコレーと一緒にホームセンターと本屋に出かけた。ホームセンターでは縄を、本屋では首吊りの縄の結び方の本を買ってきた。

 帰ってきてすぐに梁に縄を設置して準備が整った。

「よし、これで準備ができたぞ! コレー!」

「ふふ、おめでとう」

 そう言いながらコレーは手を叩いて嬉しそうにしている。

「コレー、またあとでな」

 そう言うと侑里は足元の台の上に上った。後は侑里のタイミングで足元の台を蹴り、首を吊るだけだ。

 侑里は目を閉じて、深呼吸をした。

 このタイミングで今までのことを思い出し、やっぱり死にたくないなんて思うのかな、と準備しながら考えていたが、侑里の頭には全くそのようなことは思い浮かばなかった。それは侑里にとって少し寂しい現実だった。


 俺は今まで何で生きていたんだろう。何で生まれてきたんだろう。ここで何も未練が思い浮かばないってことはやっぱり俺の人生には価値などなかったんだろう。でもこれからは違う。大好きなコレーと共に暮らせるんだ。そのためならこんな命など捨てることに何の躊躇いもないな。ありがとうコレー。今行くよ。


 侑里は目を開けた。そこにはさっき結んだ縄ではなく、大きな花の輪があるように見えた。その大きな花の輪を首にかける。あの世から祝福されているような感覚だ。侑里はとても嬉しい気分になった。こんなに自分の存在が求められているような、祝福されているような、そんなことがなかったからだ。窓の外に見える夕焼けで赤く染まった空を見つめながら侑里は足元の台を蹴った。

 その瞬間今まで味わったことのないような苦しさが襲ってきた。でもこれを耐えればコレーと触れ合えると信じ、全身の力を抜く。するとだんだん意識が遠のいてくる。


「おめでとう、よくやった。儂の愛しのターゲットよ」


 そう聞こえた気がした瞬間、侑里は意識を失った――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ