出会⑴
午後二時。こんな中途半端な時間だからか外は誰も歩いていない。こんなつまらない世界、生きている意味はあるんだろうか、そんなことを考えながら侑里は家への帰り道をひたすら歩く。
空は青く澄み渡っている。こんな天気嫌いだ。何でこういう晴れた日を良い天気なんて言うんだろう。俺にとっては鬱陶しいだけの天気なのに。
「ん?」
いつもならこんな道のど真ん中にあるはずのない段ボールが、ふと目に入ってきた。
侑里は恐る恐る謎の段ボールへと近づく。
「ふう。」
何故か緊張している自分を深呼吸で落ち着かせ、いざ段ボールを開けてみる。
中には―――、小さな黒猫がいた。
「かわいい!」
大の猫好きである侑里は思わず口に出していた。
成猫には程遠いような小さな黒猫はクリッとした大きな瞳で侑里を見つめる。
「お前のおうちはどこだ?」
優しい声で黒猫に尋ねるが、もちろん返事はない。
毛並みは綺麗だし、目ヤニもついていない。黒猫の大きさではどうやっても自分で入ることのできなさそうな段ボールに入っているということから、この子は捨てられたのかと侑里は考察した。
「お前一人ぼっちなのか。俺と一緒だな」
黒猫に自分を投影しながら話しかけ、撫でてみる。人間に恐怖心はないのか、黒猫は自ら侑里の手にすり寄ってきた。
可愛すぎて仕方がない。
手にすり寄ろうとしてくる黒猫が急にふらついた。
「お前腹減ってんのか?」
そう尋ねると弱々しい声で「ニャー」と鳴いた。
「俺んち基本親父もお袋も医者で忙しくしててほとんど誰もいないんだよ」
侑里は自分でも何故なのか分からないが少し寂しそうな声で言う。
「うち来るか?」
「ニャー」
さっきの弱々しい声と違い、嬉しそうな声に聞こえた気がした。
「よし! 一緒に帰ろう」
侑里は優しく黒猫を抱え上げた。
雨が降ってなくてよかったな、侑里は誰にも見せたことのないような綺麗な笑顔を見せながら黒猫にそう呟き、帰路についた。
侑里は一度家についたら黒猫を置いて走って近くのペットショップに行って猫用のものを一式買ってきた。
侑里の親は二人とも医者で金があるからか、お小遣いはたくさんもらっていたので十分なものを買えた。
生憎今日は土曜日だったので病院に連れていくことはできず取り敢えず買ってきた餌を与え、寝るところを作り温める。
黒猫はもう侑里になついているのかずっと寄り添ってきていた。
「ほんとかわいいな、お前」
侑里は黒猫が眠りにつくまで傍で温めてやり、一緒に眠りについた。
それから侑里はちょうど冬休みで学校も行かなければならないということがなかったので、ずっと付きっ切りで黒猫のお世話をした。
名前は「クロ」と名付け、溺愛した。
クロを拾ってちょうど一週間目の今日も一緒にめいっぱい遊んで同じベッドで一緒に寝たのだった――。