接吻⑴
それからの日々は仕事が終わると必ずペルセポネの部屋に行くのが日課になっていた。
起きて仕事をして帰ってペルセポネの会いに行く。今までずっと願っていた幸せな日々だ。
今日もハデスはペルセポネに会って自室へ帰っていく。
エレベーターから降りて廊下を歩いていると、またメンテーが寒さに震えながら扉の前に座り込んでいた。
ハデスは疲れていたので通り過ぎようとしたが呼び止められてしまう。
「携帯と鍵を部屋の中に忘れちゃったの」
「また?」
思わず怪訝な顔をしてしてしまうハデス。
そんなことはお構いなしにメンテーは話を進める。
「お願い……。業者さんが来るまで部屋の中に入れてくれない?」
確かにメンテーは可愛いほうではあると思う。だがペルセポネにしか興味のないハデスは極力他の人を部屋に入れたくない。でも寒さに震える人を見逃すことはできなかった。しょうがなくメンテーを部屋に入れて待たせることにした。
この日も業者がすぐに来て鍵を開けてくれた。
さっさと帰らせるためにメンテーに声をかける。
またもメンテーはのろのろ準備をしてハデスはイラつく。
「ありがとうね」
それだけ言って自分の部屋の方に歩き出すメンテー。だが、思い出したように振り返りハデスに向かって歩いてくる。
手をハデスの首に回したかと思うとメンテーはハデスの頬にキスをした。
そしてメンテーはすぐに自分の部屋へ帰っていった。
急な出来事に戸惑うハデス。何故キスされたのか分からず頬を拭っているとエレベーターの前にいるペルセポネの姿に気がついた。
勘違いされたら困ると思ったハデスは慌ててペルセポネの方に向かうが辿り着く前にエレベーターに乗り込まれて上の階へ行ってしまった。
その日を境に時間を作ってペルセポネの部屋に行っても出てきてくれることは無くなってしまった。
絶対にペルセポネに勘違いされたハデスは取り敢えずメンテーのことを完全に無視することにした。現世で生きていた頃に気に入らない女の子には無視をしてやり過ごしていたからだ。そうするといつの間にか相手も諦めて無かったことになっていた。
それから毎日のようにメンテーは鍵を部屋の中に忘れるようになった。
でもハデスは完全に無視をするようになった。二度と部屋の中に入れることもしなくなっていた。
それが何日も続いたがやがてメンテーは廊下にいることは無くなった。




