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名前⑵

 どこまでも続いているようなこれまでに見たこともないくらい広々と透き通った青空。そこに綿菓子のようにふわふわと浮いている真っ白い雲が二つ寄り添っている。地面には見渡す限り色とりどりの綺麗な花が咲いている花畑。そのたくさんの花の蜜を求めてか、サファイアとエメラルドの中間の色の羽を持つ美しい蝶が飛んでいる。

 いつかの夢で見たような信じられない程綺麗な場所。周りの天国でさえ深い霧に覆われているというのにここだけは青空が広がっている。

 その真ん中にはてっぺんが見えない程大きな塔が建っている。その塔の目の前にタキシード姿の侑里が立っている。

 ここはエーリュシオンの野だ。

「よし、入ろう」

 招待状に書いてあった名前を授けてもらえる式典がここであるらしい。式典と言うことで侑里はすぐにタキシードを調達して慌ててきた。左手には大きめの鞄を持っている。アイアコスに荷物をまとめて来いと言われたのでまとめた。冥界の使者の仕事はほとんど家にいないため片手で持てる程度の荷物しかなかったことに初めて気づいた。

「おう、来たか」

 塔の中から出てきたアイアコスが侑里に声をかける。

「はい」

 背筋を伸ばして答える。

「着いて来い」

 そう言われ塔の中に入る。

 塔の中は三階まで吹き抜けになっていてかなり広い。そしてお城なのかと思うほど装飾が豪華だ。シャンデリアだけでいくつあるんだろうかと言うほどだ。

 床は真っ赤な絨毯が奥の扉へと続いている。アイアコスの後ろを付いて行きながらその上を歩く。

 目の前に大きな扉が現れる。

「この扉をくぐれば貴様はもう名前持ちだ」

 良くやったな、とぽつりと言った言葉に侑里は感慨深いものがあった。

 両開きの扉の取っ手に手をかける。

 深呼吸をして扉を勢いよく開けた。中はコンサートホールのような感じでたくさんの人で埋め尽くされている。

 奥にはステージがありそこに人が立っている。

 その人がゼウスと言う人だとは誰に訊かずとも分かった。冥界の王であるからだ。

「そなたが二六〇三番だな」

 ステージからマイクで話しかけられる。

 侑里は一気に緊張したが、大きな声で「はい」と答えた。

「ははは。威勢がええのお。そういう奴は大好きじゃ。そなたに名前を授けよう。これからそなたの名は、ハデスじゃ!」

 会場内は一気に拍手の嵐に包まれた。

 不意に背中を押された。振り返るとアイアコスが立っていて「はやくステージに行け」と合図をしている。

 侑里は頷いて、大きく一歩を踏み出した。

 その時、侑里に向けられるある人物からの視線に侑里が気づくことは無かった――。


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