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名前⑴

 あれから侑里は順調に冥界の使者としての仕事をこなしていた。

 最初は自分の都合で他人を巻き込んでもいいのか葛藤した。だがペルセポネに会いたいという自分の気持ちに蓋はできなかった。

 吹っ切れてからは他の者が目を見張るスピードでノルマをこなしていった。

 今日は無事にノルマ達成して港町にある自分の家に帰ってきたところだ。

「ふーっ」

 仕事終わりのコーヒーをグイっと一杯飲んで狭いベッドに倒れこむ。

 この瞬間はいつも罪悪感との戦いだ。何とか自分を正当化しないと正気を保てない。

 この仕事を始めてから眠れなくなり睡眠薬を飲むようになった。

 名前持ちになれる可能性が一番高い職業なのにこの職に就く人が少ないのはこういうリスクや葛藤があるからだと今になって分かる。

 でももうノルマを達成したからやっと解放されるのだ。

 枕元に置いてある睡眠薬を一気に飲み込んで侑里は眠りについた。


 ピンポーン

 インターホンの音で侑里は起こされた。

 外はいつも深い霧に覆われていてどのくらい眠っていたのか分からない。

 急いで玄関に向かうと、そこにいたのはアイアコスだった。

「よう」

 まだハッキリとは睡眠から脳が覚めておらず、ぼーっとアイアコスの綺麗な顔を眺める。

「何だよ。貴様、我に惚れたのか」

 そう言ってアイアコスは高笑いをする。

 そこでやっと目が覚めた侑里は激しく首を横に振る。

「貴様、冥界の使者としての最後のノルマをクリアしたんだな。これは招待状だ」

 真っ白な封筒をアイアコスから受け取る。

「招待状……?」

「そうだ、冥界の使者としてのノルマをクリアしたら名前がもらえる。これで今日から貴様も名前持ちになる。よかったな」

 名前持ち……。ずっとずっとそれだけを考えて頑張ってきた。侑里は今にも零れ落ちそうな涙を必死で止める。

「あ、それと。会場はエーリュシオンの野にある。そして名前持ちになったらそこでそのまま暮らすことになるからこの家を片付けてから来い」

 それだけ言ってアイアコスは去っていった。

 一人になったからか大粒の涙が溢れて流れ落ちた。


 やっと、やっと会えるんだ。

 コレー、いや、ペルセポネ、俺はやっとここまで来たよ。会ったらどんな顔してくれるかな。嫌な顔するかな。喜んでくれるかな。分かんないけどもうすぐ行くからね――。


 侑里はいそいそと家の片づけを始めた。


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