恋情⑵
それから数日後、アイアコスの前にペルセポネが現れた。
予想をはるかに上回るスピードで出てきたことにアイアコスはびっくりした。それと同時にこの前とは別人かのように元気になっていて安心した。
「地獄から出てきたぞ。復讐とはどうやってやるんだ」
開口一番にそう聞いてきた。
アイアコスは冥界の使者の説明をして、使者として両親に復讐すればいいと伝えた。
それを聞いたペルセポネはすぐさま行動に移し軽くやってのけた。
そして自分は現世で手に入れられなかった権力欲しさに名前持ちを目指して走り続けた。
ノルマ達成を目前に控えたある日、ペルセポネの様子がおかしいことにアイアコスは気付いた。
心配したアイアコスはすぐに駆け寄る。
「次のターゲットを始めて見たときから何故かずっと胸が痛いのだ」
戸惑いながら言うペルセポネ。
その後すぐに現世に行かなければならなかったから話はあまりできなかったが、アイアコスは全てを察していた。
ペルセポネは最後のノルマも無事達成し。念願の名前持ちとなった――。
「懐かしいなあ」
「だから過去の話などやめろ」
ペルセポネは相変わらずツンツンしたままだ。
「そういえば」
アイアコスは突然思い出したように言った。
「何だ」
「貴様の最後のターゲットのこと、まだ覚えてるか?」
そう訊くとペルセポネは軽く頷いた。
「あいつ、地獄を脱出したぞ。貴様と同じように」
「何故お前が知っている」
ペルセポネはキッと睨んだ。
「まあまあ、そういきり立つなって。あいつの地獄行はたまたま我が伝えたのが出会いだ。それからしばらくして牛頭と馬頭から連絡が来た。貴様以来の地獄脱出が出来そうな奴がいると。それで我が面接をしたと言う訳だ。なかなか面白い奴だったな」
「そうか」
ペルセポネはどう反応したらいいか分からないという感じだった。それを感じ取ったアイアコスは質問を続ける。
「貴様は何であいつを選んだんだ? いつもと同じように目についたからか?」
優しく訊くとペルセポネは最初にアイアコスと出会ったときと同じようにぽつりぽつりと話し出した。
「あいつをターゲットにしたのはいつも通り目についたからだ。それは変わらない。ただいつもと違ったのは……、何故かあいつが目に入ると儂の心が温かいような苦しいようなそんなよく分からぬ感情になることだった。でもそんなこと関係なくいつも通り事が進むはずだったのだ。あいつが儂に名前を付けるまでは……」
ペルセポネは遠くを見つめているようだった。
「名前をつけられた、か……」
それは貴様にとっては初めての経験だったな、とは言わないでおいた。
「あいつは、侑里は元気だったか?」
消え入りそうな声でアイアコスに訊くペルセポネ。
「元気だったぞ。ようやく自分の目指す先を見つけたように力強い目をしてた。貴様だぞ」
「儂? そうか、儂のことを恨んでいるのか……」
「違う!」
悲しそうに言うペルセポネにアイアコスは大きな声で否定した。
「違うぞ! 貴様のことを想って会いに来ると言ってた」
ペルセポネは目を見開いて驚愕している。
「本当に貴様が大事なんだと我には伝わったぞ」
そう言うとペルセポネは顔を真っ赤にして涙を流し始めた。
「ど、どうしよう。この気持ちはなんだ? 暖かくて何も喉を通らないような、そんな気持ちだ。何なんだ。自分がおかしくなっている感じがする。これは何だアイアコス」
慌てふためくペルセポネの頭を優しく撫でて答える。
「それはな、恋というんだよ」
「これが恋……。なんだか本当に暖かくて……涙が止まらない」
アイアコスに背を向けペルセポネはこの気持ちを受け止めた。
ペルセポネは初めて恋情を感じた――。




