天国⑶
扉をくぐった先は冥界の入り口だった。相変わらず塔の中は吹き抜けの大きなホールになっていて広い。
異様な光を放つ扉はワープポイントだったのだ。
「ここに来たのは久しぶりだろう。我と貴様が出会ったのもここだったな」
アイアコスは懐かし気に言う。
たしかにここでのアイアコスの印象は覚えているところだけでも最悪だ。人のことをひたすら嘲笑うのが好きな趣味の悪い奴というイメージだ。今思うとたしかに性格悪いところもあると思うが地獄行を告げられて侑里が勝手に悪く捉えていたという考え方もできなくはない。
「そうですね、懐かしいですけど早く来られてよかったです」
「そうだな。じゃあ受付カウンターに行って来い」
「分かりました」
侑里は受付カウンターに向かった。
受付カウンターには見慣れた死神がいた。
「番号の確認を致します。何番でしょうか?」
「二六〇三番だ」
もう侑里には名前が番号という違和感はとっくになくなっていた。
「了解いたしました。では三番のお部屋によろしくお願いします」
そう言われ侑里は部屋に向かう。中にはすでにアイアコスが席に座っていた。
アイアコスの前に侑里も座る。
「改めてよろしく頼む」
その一言で侑里の気持ちが引き締まる。
「では冥界の使者について話をするが、貴様本当に冥界の使者になるのか?」
「はい」
侑里はしっかりと返事をする。
「おおまかな流れだが冥界の使者はまず現世に降りてターゲットを決める。それを決めたら一旦冥界に戻ってきてここ冥界の入り口にて報告をする。そのあと冥界に降りて実行する。貴様はそれでここに来たからだいだいのことは分るよなあ?」
分かってしまう侑里は小さく頷いた。
コレーは何で俺をターゲットにしたんだろう、その疑問が頭から離れない。でも今はそんなこと考えてる場合じゃない。冥界の使者として働かなければ。コレーとは違うやり方で。侑里はそう心に決めた――。
冥界の使者としての仕事内容ややり方を一通り聞いてアイアコスとは別れた。
住む場所は港町の小さな家を指定された。冥界の使者はほとんどを現世にて過ごすため、天国にある家は小さめで充分らしい。
それからの毎日は現世に入り浸りターゲット探しに明け暮れた――。