天国⑴
「おい、二六〇三番」
いつもの掛け声に侑里はゆっくりと振り向く。
「行くぞ」
「はい」
短いやり取りをして後ろを付いて行く。
長い長い廊下をひたすら無言で歩く。侑里の顔はどことなく凛々しい。
昨夜、牛頭と馬頭と話した部屋に着いた。
「ここだ、今日俺は中まで入らない。一人で入れ」
「分かりました」
侑里はドアの取っ手に手をかけて深呼吸をする。そしてドアを三回ノックした。
「おう、入れ」
中から図太い声が聞こえてきた。ゆっくりと部屋に入る。
中にいたのはアイアコスだった。
「おう、久しぶりだな。二六〇三番よ」
「……お久しぶりです」
前回会ったときにいい印象じゃなかったからか歯切れの悪い挨拶になってしまった。
「なんだなんだ、そんなに我のことが嫌いか?」
そんなことを言いながらアイアコスは高笑いしている。
アイアコスは気のすむまで笑ったのか急に真面目な顔つきになった。もともと性格が悪いだけで顔は美青年のアイアコスに真顔で見つめられたら落ちない女はなかなかいないだろうと侑里はふと思った。
「さて、さっそく本題に入るが、貴様はそんなにも地獄を出たいのか? 何故だ?」
「コレー、いや、ペルセポネに会いたいからです」
侑里は前を向いてはっきりと答えた。
「ペルセポネといえば、貴様を地獄行にさせた張本人だが文句でも言いたいのか?」
「いえ文句などいいません。地獄行になったのは全て自分の責任。ペルセポネにはただ会って訊きたいです。何故俺を選んだのか、今どんな感情なのか」
「ふっ、我には理解できん感情だな。ただそれだけでは地獄を今すぐ出してやることはできん。刑期を全うして出てこればいいだけだからな。そうではないか?」
「たしかにそうかもしれません。でも俺は一分一秒でも早くペルセポネに会いたい。記憶などいつかは忘れるもの。だから忘れる忘れる前に訊きたいのです。真実を。だから一刻も早くこの地獄を出たいのです」
侑里は今までに見せたことのない凛々しい顔をしていた。それに侑里でさえ気づかなかったがアイアコスだけははしっかりと気付いていた。
「そうか。貴様にはもう何を言っても無駄らしいな」
侑里自身は自分が今どんな顔をしているのか気付いていない。思ったことを思ったままに喋っているだけだ。
「貴様、仮に地獄から出られたとしてどうやってペルセポネに会う? ペルセポネはエーリュシオンの野にいて簡単には会えないぞ」
「そんなの簡単です。俺も名前持ちになってエーリュシオンの野に住みます」
それがさも簡単で当たり前かのように言い放つ。
「容易ではないぞ?」
「分かっています。覚悟はできています」
キリッとアイアコスを見つめる。
「はっはっは! いいぞその目! ますます気に入った!」
「ありがとうございます」
「では冥界について少し特別に教えてやろう」
「はい」
突然の気に入られた発言とアイアコスの自由気ままな展開に少し戸惑いながら返事をする。
「冥界は今『地球リセット計画』とやらを進めている」