光明⑷
牛頭と話してから数日が経った。
一八七九番から聞いたコレーの話。そして牛頭から聞いたこの地獄から出られる方法の話。この二つで侑里は前途に光明を見出していた。
それでやる気が出た侑里は殺し合いにも精を出し全力でやるようになっていた。全力を出した侑里はまさに敵なしだった。途中でやられて回復することもなくなった。侑里の意外な才能が開花した。
「お前ほんと最近強いよな!」
いつも通り大きな声で二三一八番は侑里に話しかける。
「なんか一縷の希望が見えたんだよ。今はそれめがけて踏ん張ってるってとこかな」
「ああ、コレーさんのことか」
二三一八番にはコレーについてのことは言ってある。
「でも良かったな! 今までどうにも頑張ることすらできなかったことが、頑張れるようになって!」
「そうだな」
侑里と二三一八番は二人で笑いあった。
「おい」
その掛け声で誰が声をかけてきたのかはすぐに分かった。牛頭だ。
「二六〇三番、ちょっとついてこい」
「わかりました」
二三一八番におやすみと声をかけて素直についていく。
またあの長い廊下をひたすら歩く。今日は少し暖かい風が吹いている。
「てめえ、最近殺し合いよく頑張ってるな」
牛頭は歩きながら侑里に声をかけてくる。
「はい! あの話を聞いてから頑張る意味が見いだせて力が湧いてきます!」
「そうか」
それだけ言ってまた二人の足音だけが響いた。
この前一八七九番と話した面会室も通り過ぎる。
ひたすら歩いたその先に一つの扉が見えてきた。
扉の隣には赤いランプが置いてあり、禍々しさが増している。
「ここだ」
牛頭はその禍々しい扉をゆっくりと開ける。
キーッときしむ音がすることからあまり使われない部屋なのだろうと推測できる。
部屋の中は面接するところのように手前に椅子が一つ、その奥に長い机が一つありそのさらに億には椅子が何個か置いてある。奥の椅子に人が座っている。
「こいつは馬頭。俺の相棒だ」
牛頭が紹介すると馬頭が席を立って頭を下げる。
「私が馬頭だ。地下の深いほうを担当しているから今までアンタとは会わなかった。今日はよろしく頼む」
馬頭は女性らしからぬ筋肉質な身体に顔は馬だ。
牛頭は馬頭の隣に座った。
「てめえはそこに座れ」
牛頭に指さされた場所は一番手前の椅子だ。素直に従い、座る。
「これは……、どういうことですか?」
いまいちピンとこない侑里は疑問を投げかける。
「わかんねえのか! やる気があるのかないのか分かんねえな!」
「そんな吠えてやるな」
大声で言う牛頭に対して馬頭が冷静に諭す。
「今からこの前牛頭が伝えたであろう面接に送り出せるかどうか確認する。そのためにアンタを呼んだのだ」
「なるほど、分かりました」
呼ばれた理由が分かった侑里はやっと落ち着くことができた。
「それにしてもてめえ最近殺し合いよく頑張ってるじゃねえか」
牛頭が思い出したように言う。
「そうなのか?」
馬頭は担当フロアが違うから全く知らないらしい。
「おう。急にやる気出したみたいで今じゃこいつほぼ敵なしなんだぜ。なあ?」
「はい。今までは何を頑張ればいいのかも分からず暗闇を歩いているような感じでした。でもこの前いろんな話を聞いて一縷の希望が見いだせたっていうか……、何より頑張る意味が見いだせたのでそれからは全力でやるようになりました」
侑里はハキハキと自分の気持ちを伝える。
「アンタは会いたいのか? コレー、いや、ペルセポネに」
そう訊かれた侑里はまっすぐ前を向いたまま答える。
「会いたいです」
「ペルセポネの気持ちがどうであっても、か?」
「はい、例え俺のことをただのノルマ稼ぎのターゲットで何とも思ってなかったとしても、俺はもう一度ペルセポネに会いたいです。会って話しがしたいです」
「そうか」
それから牛頭と馬頭から質問があり侑里が答えることを何度か繰り返した。
「よし、質問はこのくらいだ、いいな? 馬頭」
牛頭がそう訊くと馬頭は首を縦に振った。
「今聞いたことを踏まえて、てめえを面接に出させることにする」
「え!」
念願の答えに侑里は喜びと戸惑いが隠せない。
「いいな? てめえは明日面接だ」
「ありがとうございます!」
侑里は思わず椅子から立って頭を深々と下げていた。
「てめえ! まだだ! まだスタートラインにも立ててねえんだぞ! こんなとこで頭下げてんじゃねえ!」
牛頭はいつも通り叫ぶ。ただその声はどこか優しく感じられた。
取り敢えず侑里は明日の面接の時間まで大部屋に戻された。そこには侑里の帰りを寝ずに待っている二三一八番がいた。
さっそく二三一八番に報告しようと侑里は口を開く。
すると二三一八番は侑里の声に被せるように話してきた。
「分かってる! 明日から旅立ちなんだろ?」
「いや、まだ決まったわけじゃ」
「でも一歩前進だろ? すげえじゃん! 本当におめでとう」
二三一八番は何故か泣き始める。
「おい! 何でお前が泣いてんだよ!」
侑里は笑いながらツッコむ。
「だって……、やっと侑里の気持ちが前向いてんだよ。嬉しいじゃん」
泣きながら言うその言葉を聞いて侑里ももらい泣きをしてしまう。
「お前だって泣いてんじゃん」
「バカ! これは汗が……」
そんな風に笑いながら二人は泣いた。
今日限りで今後最低でも何百年は会えなくなることを二人は分かっていた。でもそれはお互いに言葉にはしなかった。別れが寂しくなるだけだったからだ。
侑里と二三一八番は朝まで泣いて笑いあった――。