光明⑶
気がつくと侑里は自分のベッドで寝ていた。
隣では二三一八番がスヤスヤと寝ている。
それにしてもコレーが冥界の使者だったとは……。最近ノルマをクリアしたって一八七九番は言ってたな。俺がそのノルマの最後のターゲットだったんだろうな。俺の気持ちは何だったんだ。両想いになれたと思ったのは俺の思い過ごしだったと言う訳なのか。
そう思うと侑里は涙が止まらなくなっていた。
「おい。」
静かな声で呼ばれた侑里は涙を拭き、振り返る。そこには牛頭が立っていた。
「大丈夫か?」
いつもとは違う侑里のことを心配する声に一瞬戸惑う。
「俺、ここまでどうやって?」
「面会室で気を失っていたから担いで連れてきた。面会人は話すことはもう全部話したって言ってたぞ」
「そうですか……」
「どうした? てめえいつもより元気ねえな?」
喋り方はきつめだが牛頭なりに心配しているようだ。
「俺好きな人を追ってここまで来たんですよ。でもその人冥界の使者だったらしく想っていたのは俺だけだったのかって……」
何故か牛頭に全てを喋っていた。心のどこかで牛頭のこと信用してたんだと気付いた。
「なんでだ?」
「何でって何がですか? 俺でその子はノルマをクリアして名前持ちになったんですよ。利用されていただけだったじゃないですか」
何で? なんて訊いてくる牛頭に対して少し強めの口調で侑里は答える。
「だからなんでだよ」
それでも牛頭は訊いてくる。
「何でって? そんなの少し考えたら分かることでしょ。俺は利用されてただけだって」
「そんなの分かんねえじゃん。相手だっててめえのことまだ想ってるかもしんねえじゃん」
黙るしかなかった。そんな希望が持てるものなら持ちたい。だけど違ったときのショックがあまりにも大きくて怖いのだ。
「今のてめえにはその子のことを信じることしかできねえ。他にできることはねえからな。だったらここに来たように、現世を捨てたように、一途にその子を信じて想ってやれよ」
そう牛頭に言われ涙が止まらなくなった。
「でも、もし会えたとしてもまずここで刑期を終わらせてからになるし、そしたら何百年後だぞ。そんなのもういないかもしんねえじゃん……」
今にも消えそうな声で言う。
「は? てめえ知らねえの? あ、そうか。てめえここ来た時地獄行ってことで落ち込んでたから聞いてなかったのか?」
侑里の頭の中ははてなでいっぱいだ。
「ここから出られる方法は刑期を全うする以外にもう一つあるぞ?」
「え? どうやって?」
侑里の目が一気に輝く。
「やっぱり知らなかったのか。本当にこの地獄から出たいという強い意志のある者のみが受けることができる面接がある。今のてめえの弱気な心じゃ絶対に突破できない。ただ出たいってだけじゃこの地獄から出す価値がねえからな」
「その面接はどうやって受けれるんだ?」
はやる気持ちが抑えられず早口で訊く。
「この地獄を仕切っているのは俺ともう一人、馬頭って奴がいるんだ。俺と馬頭が話し合って決める。そんで面接官のもとに渡す。そしたらてめえは面接を受けれるってわけだ」
「じゃあ俺を面接官に引き渡してくれ!」
「だめだ。てめえの意思はまだそこまで強くない。さっきまで泣きべそかいてたくらいだ。それじゃあ俺らは面接官に引き渡せない」
そう言われガッカリする侑里。
「これからが見物だな」
牛頭はそれだけ言って大部屋から去っていった。