絶望⑴
それからかなりの時間が過ぎていった気がする。
『気がする』といのは、この世界には時間というものがないことに気付いたからである。時計もなければ太陽もない。ひたすら雲に、いや薄い霧に覆われた薄暗い世界だ。
かなり時間が経ったと分かるのは現世で生きていた頃の記憶があるからだ。もし記憶が無くなったら時間という概念すらなくなるのだろう。
侑里がそう結論を抱いたところで、番号が呼ばれた。
「二六〇三番さん」
「はい、俺です」
やっと呼ばれて嬉しくなった侑里は勢いよく席から立った。
「ではこちらの3番の部屋へどうぞ」
頭から黒い布を被っている案内人は大きく『三』と書いてあるだけの扉を指して言った。
案内人の格好だが、侑里は待っているこの数時間で見慣れたのでもう驚きはしなかった。
コンコンコン
侑里は三回ノックをした。トイレでノックをするのが二回で、他の人の部屋に入るときに二回でやると失礼に当たる、とどこかで見た気がする。
「どうぞ」
中から図太い声が聞こえた。急激に侑里の緊張は最高潮まで達した。
恐る恐る中に入ってみる。そこは面接官の風貌以外はまさに現世と同じまさに面接会場だ。
面接官の風貌というのが、黒光りしている鉄甲冑を着た美青年という異様さだ。
「二六〇三番は貴様か」
意外に優しく喋ったので侑里は少し拍子抜けした。
「はい」
「おい、はやくそこの椅子に座れ」
やっぱりさっき優しいと思ったのは訂正だ。何人も面接しているからか少しイラついているような気がして怖い。侑里は慌てて席に座った。
「我が名はアイアコス。よろしくな。あ、今我は怒っておらんぞ。よく勘違いされるがこれが普通だ」
アイアコスはそう言った。侑里は取り敢えず起こっていないのが確認できてホッと胸をなでおろす。
「自分が天国か地獄か、貴様はどっちだと思う?」
「俺は天国だと思います」
侑里は即答する。
「何故そう思う」
「罪を犯したこともないですしなかなか表面化しないイジメ等にも加担したことないからです」
そう答えると何故かアイアコスは笑い出した。
「ふははは。そうかそうか。貴様、面白いな」
気に入ってもらえたと思った侑里は分かっていることだが天国行で心底安心した。
「貴様、自殺したらしいじゃないか。しかも冥界の使者を追って」
また『冥界の使者』だ。カロンが同じようなことを言っていたの気になっていたのだ。
「冥界の使者って何ですか?」
侑里はたまらず訊く。
「知らんのか? 上手いことやられたんだな」
含み笑いをするアイアコスは続ける。
「教えてやりたくもなるが地獄行の貴様には教えるだけ面倒だな」
「――っ?!」
侑里の声にならない声が漏れる。自分の耳を疑う。
――地獄行?