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プロローグ

「五〇一番さん? 五〇一番さん?」

 天井の高い空間で響いた声に何度も呼ばれてやっと気づいた。こんなに呼ばれなければ気付かないなんて、こちらの世界に来た時以来だ。

 次の狙いをあのターゲットに決めた日から何故か心がほわほわする、というか何だか苦しいような気がする。こんな感情は初めてだ。

 そんなことを考えていたから気付かなかったんだな。何とも恥ずかしい失態だ。しっかりしなければ。

 五〇一番は今まで考えていたことを忘れるように頭を横に振って、待合室の椅子から勢いよく立ち上がった。

「五〇一とは(わし)のことだ」

「では、ついてきてください」

「わかった」

 案内人の後ろを静かについていく。

 永遠に続くのではないだろうかと思わせるくらい長い廊下には二人のヒールのコツコツとした音だけが響き渡る。二人の間を通り抜ける風はスカートをふわりと浮かせるので余計に寒々しく感じる。

 何度も来たことある場所だが、改めて不気味な場所だと、五〇一番は思った。

 時間にして五分くらいだろうか。やっと目的の場所に着いた。

 相変わらず大きく禍々(まがまが)しい扉がある。何度見ても趣味が良いとは言えない。

「こちらで呼ばれるまで待っていてください」

 案内人は扉の間の前にある、これまた禍々しい椅子を指した。

 五〇一番は何も言わずにその椅子に座った。

 呼ばれるのを待っている間、五〇一番はまた次に狙うターゲットについて物思いにふけっていた。


 次の狙いをあのターゲットに決めたのは、日数にするとちょうど一週間前だ。『日数にすると』や『時間にすると』という言い方は、この世界ではそういう概念が無いからだ。

 五〇一番が今までターゲットにしてきた奴らには、こんな心が温かいような苦しいような、そんな感情を抱いたことはない。

「儂のこの感情は何なんだ……」

 そう呟いてしまうくらいには戸惑っていた。

 誰をターゲットにするか、それぞれ決め方は自由だ。五〇一番は特に「誰を」という部分に興味がなく、現世に降りてたまたま目についた奴に決めていた。今回も同じだ。ただいつもと違ったのは、目についたときに雷が落ちたような、そんな感覚がしたことだ――。


「五〇一番どうぞ入ってください」

 そう言われると同時に大きく禍々しい扉が自動で開いた。

 急に扉が開きビクッとした五〇一番だが、すぐに立ち上がりスカートを手で直して姿勢を整える。

「今入るぞ」

 五〇一番はそう言って部屋に入っていく。

 黒い壁に赤いライトが部屋の中の禍々しさをより一層演出していた。部屋の真ん中には大きな机があり、その上に骸骨が乗っていた。この骸骨こそ今回五〇一番が会いにいた相手だ。

「いつもの申告ですか?」

 骸骨が喋る。何度も訪ねているからもうこの骸骨に驚きはしない。初めて見たときは驚きすぎて腰を抜かしそうになったなんて口が裂けても言わない。

「そうだ。現世に行ってこようと思う。何になるかも決まった。だから申告しにきたぞ」

「五〇一番さんはよく働きますね。さすがです」

 骸骨は見た目の歪さからは想像もできない優しい声で褒めてくれる。

「それで今回はどんな?」

「今回はターゲットにしか見えないようにしてほしい。そして化けるのは小さい黒猫だ」

 この情報はここ一週間で調べ上げた成果だ。ターゲットに近づくためにはこういう下調べが大事だ。

「わかりました。ではここにサインをしてください」

 骸骨に言われ五〇一番は慣れた手つきで『五〇一』とサインをした。

「はい。ありがとうございます。受理致しますのでこの後ろの扉をくぐってお仕事に行ってらっしゃいませ」

 骸骨の乗っている机の後ろにある扉は異様な光を放っており、もの凄い存在感だ。

「ありがとう、行ってくる」

 この作業は何度目だろうか。もう現世での名前など忘れたな。そう思いながら501番は何故かはやる気持ちを抑えながらゆっくりと落ち着いた足取りで、異様な光を放つ扉をくぐった――。


 読んでいただきありがとうございます!

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