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第13話

第13話


 京都会館。当然まだ工事中である。「配置」と唱え、業平、行平、季乃の三人はその世に足を踏み入れた。


「私、足手まといになるなら、おとりとかやりましょうか?」


「いや……それは大丈夫」


「俺たちがウッちゃんを守るから、安心してよね」


 今日はまだ初戦だから、というくらいの気持ちでリラックスしてほしいと言われたものの、季乃としては何か協力したかった。ただ、その考えも迷惑なのかもしれないとも思った。


「わかりました……とはいえ、何かあって異能力失っても、業平さんも私をナンパしてくださいね?」


 季乃にとって、和ます冗談のつもりだったが、襲名者と異能力は返上ではなく失ってしまった場合、記憶を引く注ぐのは難しいと言われている。そのため二人の反応は微妙にならざるを得なかった。


 おとりの必要もなく、既に入っていた元良の気配を探し、たどり着いたのは、新しくメインホールになる予定の舞台で二人は戦っていた。


「みをつくし!」


 元良は自らにダメージを与えるとともに、曽禰好忠にも物理的ダメージを与える異能を唱えていた。しかし、音が響いていたが、全く相手に届いていなかった。ただ、自らを痛めているだけの行為にしかなっていなかった。


「元良ッ!」


 客席になる予定の扉から入り、その状況を見たとき、三人は何が起きているかわからなかった。曽禰好忠はかわしているわけでもなく何もせず攻撃を避けている。


 見かねた業平が間に割って入り、行平が元良の介抱に走った。


「まさか唐紅の長が、こんな下っ端の相手をしてくれると言うのですか? ちょっと光栄に思ったりするんですけど?」


 曽禰好忠のニヤっとするような顔は、攻撃が当たっていない理由に繋がっている自信が見えた。

 迂闊に飛び込んでは火傷をするのはわかっていたが、ボロボロになっている元良を見て、言葉を返すよりも早く異能を唱えていた。


「事象の置換!」


 業平の異能力の中でも、上下総合のもので、対象の物ごとが逆転するという、非常に強い拘束力がある。鍛えている元良でも疲れ倒れている状況が、見た目貧弱な曽禰好忠に移ることで、すぐに決着すると思っていた。

 しかし、何ら変わることは無く、曽禰好忠は笑いがこらえられず顔をうつむかせ肩を震わせている。


「何がおかしいんだ」


 業平が問いただしても、何食わぬ顔で両手を広げるジェスチャーをするだけである。後ろにいて異能を唱えようとする行平に「無駄ですよ」と指を振って静止している。


 その様子を見ていた季乃は、腰を抜かして、まだ新しい座席に腰を落とした。


「痛っ」


 思ったよりも深いところに座面があり、カクっと膝が曲がり、背中を打つことになってしまった。疑問に思って隣の席をよく見ると、見えている座面と実際の座面の高さがほんの少しだけ違っていた。


 その幻覚のような映像のようなものを見たとき、曽禰好忠の得意とすることを思い出した。よく見ると、様々な所から、映像が投影されている。そう、高度なプロジェクションマッピングにより、本来まだ完成されていない舞台を、さも出来上がったもののように投影していた。

 その世は音も吸い込まれるような世界なのに、異能を唱えたときに反響音があるというのがおかしいことだった。それも音を演出した曽禰好忠の事前の準備だった。


 原因が分かったこともあり、季乃は見えている範囲の映写機のところへ行き、止め方がわからないので、力づくでケーブルを抜くなどしていった。


 舞台で対峙する状態だったが、その様子を見て業平たちも気が付き、焦る曽禰好忠ににじり寄っていた。


「これで最後……よね」


 舞台から一番離れたところにあった最後の電源を切ったら、本来まだ工事中の椅子も無く、足場がむき出しのホールの全貌が露わになった。


 舞台を見ると、しゃがみ込み嘆願する曽禰好忠を囲む業平と行平、その行平に支えられている元良の姿があった。


 解決したと気を緩めた季乃だった。しかし、


「ホンマ、よぉ気付いたもんやね」


 壁が映し出されていた向こう側にいた喜撰法師が季乃の背後に現れた。

 そして間髪入れず後ろから力強く抱きしめられ、手で目を覆われた。


「キャッ!」


「この前のトラウマの記憶だけでは、物足りなかったんでしょうかね」


 季乃は、喜撰のこの言い方で、味方にならないなら敵であると言うことなのだろうと容易に感じられた。


 叫び声が舞台の四人に耳にも入り、一斉に季乃と喜撰の方向に目を向けた。


「喜撰……法師!」


 業平も行平も、すぐに対抗措置を取りたかったが、動けなかった。どちらにも人質という感じで陣営の仲間を抑えている。しかし、喜撰法師は自らの快楽の為には多少の犠牲も気にしないのは皆が知っている。ここで曽禰好忠が能力だけじゃなく、命を落とそうとも、次の曽禰好忠が登場するのを待つような性格だ。季乃を守ろうとする唐紅陣営にとっては分が悪い。


「私を……どうするの?」


 声を震わせながら聞いてみるのが精いっぱいだった。


「かわいいなぁ。健気やなぁ」


 無駄に抵抗して頑張ろうとしている季乃の姿に鳥肌が立つ喜撰。優しく始まり、声色を徐々に圧のあるものに変えていった


「こないだみたいな辛い記憶を、もっと見てもらおうかと思ってなぁ。ウチらの陣営に来ないんやったら、敵になってもらっても困るからなぁ」


 目を抑える手が、ギュッと力を入れ、異能・幻影を唱え、季乃が再び眠りにつこうとしたところだった。


「異能・斜行カットバック


 背後から聞こえた声に喜撰は振り返ったら、天音が脇をすり抜けていった。油断したところ、喜撰の腕から季乃を取り戻し、眠りにつく前に現実に引き戻すことに成功した。


 舞台には、業平、行平、元良、曽禰好忠。客席には天音と、腕に抱かれている目覚めた季乃。それを見下ろす喜撰法師がいる。


<第13話了>

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