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第11話

第11話


「天音いないんですけど、知りませんか?」


 唐紅陣営の仮の詰め所である茶房チェカに駆け込んできた季乃。部活を休んで訪れたが、月曜は店休日なので日中から詰め所として利用されてる。


「あ、ウッちゃんいらっしゃい」


 焦る様子もなく出迎えた業平の様子は想像と違ってて季乃は肩透かしを食らった。


「あ、はい……いらっしゃいましたけど……」


 まるで来るのがわかっていたかのように余っていたケーキを出され、業平からお茶を注がれている。


 駆け込んだ来たので見てなかったが、落ち着いて周りを見ると業平、行平、吹田一夜(元吉親王)が揃っている。


「あの……天音――え~っと、藤原敦忠の件なんですが」


 仲間が行方不明だって言ってるのに、落ち着いた反応を示すのを見て、「陣営ってのは仲間ではないのか?」と疑念を持ちかけたが、我慢が出来ない行平が口を開いた。


「いや、不安にさせるつもりはないんだ。敦忠は――」


 言い出しにくい何かがあったのか……不安に思った季乃の表情を見て、業平も仕方がないと笑って頷き、元良も両手を広げて「隠すのは酷だね」と同意した。


「――修行に行ったんだ」


「え?」


 前時代的なキーワードがまだ生きていたことと、生まれて初めてリアルに修行という言葉を聞いて季乃は驚くしかなかった。


「栗山さん、鳩マメだね」


 説明不要の省略だが、まさにそのような感じである。


「ははは、行平は真面目な言い方しかできないからね」


 しかめっ面の行平に対して、指を挿して笑う業平。元良も年配者に遠慮しつつも笑いをこらえられず噴出している。その反応で行平はしかめっ面をレベルアップさせ、腕組みをしてそっぽを向いた。


「あの……修行ってのは?」


 季乃はまだ疑問が何も解決されていない。この人たちにとっては襲名者のつながりだが、自分は幼馴染で昨日も助けてもらったことがあり、身近な存在だから心配している。


「大丈夫、大丈夫だから」


 怒りが顔に出てしまってたようで、笑いを我慢した業平がなだめた。


◇◇◇


 要はこういうことだった。


 昨晩、季乃を危険にさらしてしまったのが、陣営に引き込んでしまう結果となった自分が悪いと感じた天音。


 自分の力を少しでも上げるため、他陣営に指示を仰ぎ、鞍馬まで行って、そこにあるその世で修行をしている。


 鞍馬で修行、現代に天狗はいないと思われるが、異能力を引き継ぐ襲名者も実は存在するこの世なので、もしかしたら短期間でも神がかった力を持てるかもしれない。


「天音……」


 どうして黙っていってしまったのか、少し残念に感じつつも、単純で真っ直ぐなのは子供の頃から変わらないので安心もした。


「まぁ、敦忠の気持ちもわかってあげてよね」


 おそらく伝わって無くて残念に思った業平はフォローを忘れなかった。


◇◇◇


 季乃は昨日の話を伝えた。


「敦忠からも報告はあったけど、喜撰法師がね……」


 興味があるものに執着するのは喜撰の癖なので、季乃が狙われてしまう対象になったことは、この場にいない天音も含めてそういう理解だった。


「それに、あの時のクレーム客が黄檗陣営のヤツだったとはね」


 喜撰と一緒に行動してた男は、季乃以外に元良も顔を覚えていた。

 行平が用意したPCから黄檗陣営を隠し撮りしたデータベースを見ていき、二人が頷いて「こいつだね」と皆に顔が割れた。


 曽禰好忠(そねのよしただ)。京都芸術高等学校映像メディアデザイン表現コース二年。かまってちゃんの性格。ラジコンが体の一部で、間接的に攻撃するのを好んでいる。


 詳細な情報は無いが、追跡するには十分である。


 この情報を見た季乃は、これが載っているということは、自分も載ってしまってるからバレたのか? と思ったが、行平が持っているデータは、情報収集も生業にしている月白陣営から譲り受けたものだった。月白陣営は交流のある陣営にしか情報を与えず、デメリットしかない黄檗とは距離を置いている。さらに、最新情報にもまだ季乃の情報は無い。つまり喜撰は感じることができる面倒な存在なのである。


「まぁ、行平はウッちゃんを陣営に入れるかどうか悩んでたようだけど、少なくとも、我々が保護しなきゃならなくなったってことだね」


「そんな! 私も何かしたいって選んだんですから、誰も責任なんて感じることじゃないですよ」


 もちろん天音も――。そう言いそうになったが、ただ今は修業が無事に終わって戻ってきたら叱ろうと思った。


「常に我々が付きっきりというわけにもいかないから、右近にも修行をしてもらわないとダメだね」


 冷静に眼鏡の奥から「覚悟」を問うような感じで行平が伝えた。


「え? 私も修行ですか? 鞍馬に行けと言われても部活が……」


 天音と同じようにやれと言われても、普通は無理である。もちろん行平もそういうつもりではない。


「右近は水を媒介にして異能力を使うのかもしれない……と考えてるんだよ。水泳が得意と聞くし」


 たしかに、行平の言うように満潮は水のある所で出せたし、ネーミングからも水っぽい。自分は泳ぎが得意なのも季乃がわかっている。それが異能力を引き出すきっかけになるのかも、というのが行平の読みである。


「でも、私は水泳部なので泳ぎはほぼ毎日しているので、修行って言われても何をすれば?」


「この前のウッちゃんの発生の仕方を聞くと、ギリギリの状態にしないといまは出せないのかもしれないから、あまり人に見られないプールが良いのかもね」


「業平の言うとおりだろうね……せっかくだから、提供してもらえるところ使う?」 


「それってどこですか?」


「都ホテルのプール」


 行平の言う都ホテルは、ウェスティン都ホテル京都のことである。地元で目と鼻の先に住んでいる季乃でも用事が無いような高級ホテル。そのようなところのプールを陣営が自由に使えると言うのはどういうことか、理解に苦しんだ。「おお、使う機会なかなかないから僕も同行して良い?」という元良の反応から、陣営が提供してもらってるとはいえ使えるのは特別のようだ。


「ウッちゃん、水着持ってる?」


「え、ええ」


 部活を行くつもりであったので、今日はサボったため使ってなかったのがある。


「じゃあ、行くか!」


 行平が提案した季乃の修行……というよりも異能力発動のきっかけ探しに、業平が「女子高生の水着っ!」と小躍りしている。元良は「スグ追いつきます!」とダッシュで水着を取りに帰った。


 もちろん業平は行平から頭を叩かれる指導を受けたが、無事に参加は赦された。


<第11話了>

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